【おむすび】仲里依紗を起用した「意義」を痛感...家族のわだかまりが解けた今週と「正念場」になりそうな次週
毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「仲里依紗の存在感」について。あなたはどのように観ましたか?
※本記事にはネタバレが含まれています。
橋本環奈主演の朝ドラ『おむすび』6週目「うち、ギャル、やめるけん」が放送された。
第5週では結(橋本)の回想で、阪神淡路大震災が描かれた。歩(高松咲希/仲里依紗)の「ギャル≒不良?」化を止められなかった聖人(北村有起哉)の涙ながらの後悔・嘆きを聞いた結は突然、ギャルをやめると宣言。ついでに聖人の心配とは無関係の書道部までやめ、ムスッとした顔で家の手伝いに専念する強情ぶり。この100か0しか選択肢にないスタンス、誰のためにもならない。自分の感情ばかりの意地の張り方を見ると、ヒロインがまだまだ子どもなんだということを痛感させられる。
それでもタンスにしまった糸島フェスティバルの衣装を眺めたり、風見(松本怜生)と恵美(中村守里)の書道コンクールの受賞を羨ましそうに見たり。一方、意地を張る結を心配した歩(仲里依紗)はハギャレンに会いに行き、結の最近の様子を尋ねる。書道を再びやろうという風見の誘いも断り、ハギャレンとも頑なに距離を置く結だが、"過労"で倒れてしまう。
体力を持て余す10代が一時的に学校と農業・家の手伝いに励んで"過労"になるのは、何らかの内臓疾患などが潜んでいないか不安もあるが、これが断絶状態にあった歩との和解のきっかけとなる。
寝込んだ結は、震災直前の頃、神社で1人泣いていた自分を歩と親友・真紀(大島美優)が探しに来てくれた夢を見ていた。目覚めるとそこには歩の姿が。
歩は、急にみんなで神戸に行こうと言った理由は、震災で亡くなった真紀の墓参りに行きたいが1人で行く勇気がなく、家族と一緒なら行けると思ったからだったと謝罪する。
そして、これまでも自分はギャルじゃない、ニセモノだと言っていた歩が、初めてギャルになった理由を語る。
震災後、糸島に移り住むと、同級生たちが地震など何もなかったように過ごす様子が受け入れられず、中学校に行けなくなった歩。彼女を仲間として迎え入れる同級生たちの優しさの中、真新しい上履きの歩は彼らの「日常」に溶け込めなかった。
歩は真紀とある約束をしていた。真紀は高校卒業後に上京し、雑誌のモデルになるのが夢で、自分と東京に行って一緒にギャルをやらないかと歩を誘っていたのだ。歩が初代総代を務めたハギャレンの「ギャルの掟」も真紀の口グセで、歩がやってきたことは全部真紀がやりたかったこと、真紀の人生を生きただけなのだと言う。
そもそも浜崎あゆみのCDを勧めてくれたのも、ギャル雑誌などを見ていたのも真紀だっただけに、突然ギャル化した理由も、自分を「ニセモノ」だと言っていた理由も、おそらく大方の視聴者の想像通りだっただろう。ある種既定路線でゆったりと進んでいる物語だが、想定外だったのは、仲里依紗を起用した意義と映像の妙。
高校時代、不良からお金をまきあげられそうになっている女の子たちを助けようと、不良を突き飛ばし、相手にケガをさせたことで警察沙汰になった歩。しかし、反抗期だったため、事情を親にも言えず、親子の溝は深まっていった。その一方、本当は怖かったが、「真紀だったらそうしていただろう」と勇気を出して救った女の子たちが歩に憧れ、同じようなギャルの格好をし、徐々にそうした仲間が増えていったのが、初代のハギャレンだったのだ。
仲里依紗は、芝居は巧いが、正直、橋本環奈と姉妹には見えず、なんなら親子にも見え、逆に母親役の麻生久美子と姉妹に見えることが、どうしてもちょっとひっかかっていた。ハギャレン初代総代としてギャルたちを従えて闊歩する回想シーンの画も、やはり違和感を感じてしまった。
しかし、「あの日」から14歳で人生が止まったままの真紀と、真紀の人生を背負ってここまで苦しみ生き抜いてきた歩が腕を組んで歩くシーンには「時間」が説明不要に凝縮されていて、泣かされる。これは年齢をしっかり重ねている仲里依紗だから、映像だから描けた表現だ。
付き人・佐々木(一ノ瀬ワタル)と永吉(松平健)によって「大女優」と吹聴されてしまった歩が東京に帰る日。歩はハギャレン達と家族に自分の本当の職業を伝える。それは浜崎あゆみの曲「Boys&Girls」などの「カラオケ映像の人」だった。しかし、歩の微妙な歌からマイクを引き継ぎ、結が熱唱し、言う。
「お姉ちゃん知っとう? この曲、ギャルにとって救いの歌なんよ。みんながこの曲を歌って元気になっとう。それって超カッコいいやん。お姉ちゃんはニセモノなんかやない」
そして結自身、ようやく「自分のやりたいこと」と向き合い、ギャルになりたい、書道をまたやりたいと宣言。
しかし、ここに来て最大の難関が訪れたとも言える。「あの日のこと」と向き合い、「死」や「喪失」と向き合うことができた。姉妹、家族のわだかまりが解けた。「震災」と「家族」は本作の最重要テーマに思えたが、それらが6週で終結し、ここからいよいよ栄養士に向かう物語が描かれる。
「震災」を正面から描くことには大きな意義があった。そうした「意義」による加点ポイントを早々に使用した後にこの物語の真価が問われる。次週が1つの正念場とも言えるだろう。
文/田幸和歌子