「新小岩駅」南口の市街地再開発の概要とは?いつ完成し、どのように街が変化するのか
葛飾区最南端のJR新小岩駅南口が大きく変化
新小岩駅(しんこいわえき)は、東京都葛飾区の最南端にある駅。JR東日本の横須賀線・総武線快速および中央・総武各駅停車が乗り入れるターミナル駅となっている。葛飾区内の駅の乗車人数としては最大の利用者数があり人の往来が多い。
加えて、新小岩駅は、江戸川区に近接していることもあって、江戸川区内の都営新宿線の一之江駅や東京メトロ東西線の葛西駅までのアクセス性が良いのも特徴的となっている。
また、新小岩駅の南口には全長約420m、約140店舗が軒を連ねる歴史ある「ルミエール商店街」が位置しており、駅と商店街を行き来する人々によって昼夜を問わず賑わっている。
さらに、新小岩駅には駅直結の複合型商業施設「JR新小岩駅南口ビル」が2023年10月にオープンしており、1・2階が商業施設、3〜5階がフィットネスジム・スパ、6階が葛飾区の行政サービス施設が入居している。この施設の特徴の一つには、災害時に帰宅困難者の一時滞在施設としての機能も有している点が挙げられる。このように、近年、葛飾区内の主要ターミナル駅としての都市空間が変わりはじめている。
そして、現在、南口において大規模な市街地再開発事業が始動しており、さらに駅周辺の都市デザインが大きく変わろうとしている。
JR新小岩駅南口地区第一種市街地再開発事業の目的と施行者
葛飾区では、「葛飾区都市計画マスタープラン(2023年12月)」において新小岩駅周辺を広域複合拠点として位置付けており、「多様な世代に対応した魅力的な広域拠点の形成。震災や水害など様々な災害に強い街づくり。川を生かした身近な水辺空間の充実と緑豊かな市街地の形成。」を目指すこととしている。なお、都市計画マスタープランとは、市区町村の都市計画の基本的な方針とされるもので、将来の土地利用のあり方を定める計画として重要な位置付けにある。
このマスタープランの具現化を図る手段の一つとして今回の市街地再開発事業が実施されることとなった。
施行者は「新小岩駅南口地区市街地再開発組合(2022年11月に東京都知事認可)」で、事業協力者として、三井不動産レジデンシャル株式会社並びに一般財団法人首都圏不燃建築公社が名を連ねている。また、市街地再開発の目的としては、市街地再開発事業の事業計画書(2024年1月10日第一回変更認可)によると、次のように設定している。
1)駅前・浸水想定エリアにおける防災の拠点づくり
2)交通結節機能強化に資する基盤整備の実現
3)多様な世代の居住促進を図りつつ「新しい生活様式」に対応した質の高い住宅整備
4)賑わいある良好な景観形成
総事業費は現時点では約503億円となっている。
再開発計画はA街区とB街区に分けて進行
今回のプロジェクトでは、開発区域面積約1.5ヘクタール。建物用途としては、店舗や事務所、住宅機能が入る予定となっている。また、新たに交通広場に隣接する新しい公共空地(広場)が設けられる。
計画では、A街区とB街区に分けて、A−1街区には地上9階建て高さ約42メートル、延べ面積5,970平方メートル、容積率590%の施設、A−2街区には地上11階建て高さ約46メートル、延べ面積1,810平方メートル、容積率590%の施設、B街区には地上39階建て、高さ約160m、延べ面積71,730平方メートル、容積率1,100%の施設が計画されている。
A街区には、店舗や事務所機能が入る予定で、B街区は、地上1〜4階までは店舗や事務所機能が、7階から39階までは分譲住宅(区分所有)が予定されており、住宅部分の延べ面積は約59,300平方メートル、総戸数は543戸が予定されている。内訳は、1Rが10戸、1LDKが75戸、2LDKが159戸、3LDKは276 戸、4LDKが23戸となっている。
子育て世代や高齢者世帯を含め多様な世代の居住に対応した都市型住宅となっているのが特徴的だ。さらにこれらに加えて、南口駅前広場と一体となったオープンスペースの確保や、災害時の帰宅困難者対策として一時滞在施設、避難・滞留スペースの確保、浸水対策として上階への非常用発電機室や防災センターの設置、雨水貯留槽の設置などが予定されている。
防災機能を備えたタワーマンションが建築
B街区は施設整備にあわせて北側に約1,400平方メートルの広場が設置される。
現況では北側に位置する交通広場と一体的な空間となることから、現在の交通広場がより広くなることになる。このエリアに、地下2階、地上39階、高さ約160mの複合型タワーマンションが整備される。計画住戸数は543戸、駐車場約210台、駐輪場約1,550台、この他に低層階は店舗や事務所が入る予定となっている。また、1階部分は駅前広場、平和橋通り、ルミエール商店街に面する予定となっている。
再開発事業のスケジュール
事業計画書によると、A街区の着工は2025年4月、竣工は2027年2月、B街区の着工は、2027年10月、竣工は2032年4月を予定している。
段階的なオープンとなる予定で、このまま計画どおり進めば、駅に隣接するA街区は2027年にオープンする予定だ。また、複合型タワーマンションはA街区の5年後に完成する予定となる。住宅の販売はまだ先だが、防災機能を備えたタワーマンションとして注目されることは間違いない。
駅周辺では防災対策と都市施設の改善が進行
葛飾区では、新小岩駅周辺のまちづくりに係る諸課題を解決するため、葛飾区都市計画マスタープランの地区別計画として、2023年4月に「新小岩駅周辺まちづくりプラン」を策定した。
このプランでは、新小岩公園の再整備が進められている。ご存じの人もいると思うが、新小岩を含む葛飾区に住むことのリスクの一つに水害がある。近年の気候変動に伴い全国的に洪水被害が発生しており、江戸川と荒川に挟まれた新小岩も同様に、水害のリスクにさらされている。国の河川事務所が公表する洪水浸水想定区域によれば、新小岩駅南側のエリアは、最大浸水深3〜5mが想定されており、1〜2階が水没する恐れがある。
そのような状況もあり、中川に接して位置する「新小岩公園」において中川の右岸に面した高台エリアの再整備が進んでいる。2024年度に基本修正設計、2025年度に実施設計が予定されており、近い将来、新小岩駅周辺の洪水被害に対する防災力が向上する。
新小岩駅は近年、利便性が改善してきている。
その一つに、JR線によって分断されていた南北の行き来が自由通路の整備によって改善された。実は、これまではJRの改札によって南北に分断されていた。2023年にオープンした駅ビルの開業に合わせて葛飾区やJR等が整備を進めたものだ。これによって、JR線を挟んで南北を自由に行き来することができるようになったため歩行者の移動が円滑化した。自由通路の整備によって南北の行き来がしやすくなったことで、今後は北口にも注目が集まるのではないかと考えられる。
おわりに
新小岩駅周辺は、葛飾区最大の商業圏を有している。
新小岩駅からは東京の都心や横浜・川崎方面、千葉方面へもアクセス性が良いことに加えて、近年、開業した駅ビル、さらには歴史ある商店街が居住者の利便性を高めている。
一方で、水害リスクへの課題は残るものの、そうした課題を解決して災害への対応力を高めようとする官民一体の取り組みが行われている。今後、この市街地再開発事業が起点となって、新小岩駅周辺の災害対応力が強化され、商業・居住環境がさらに魅力的になるのではないだろうか。