今こそマスターしたい、雁木の魅力とは? 雁木王・深浦康市九段が『将棋フォーカス』講座に登場!【NHK将棋講座】
4月からのNHK『将棋フォーカス』講座は、講師に深浦康市九段を迎え「雁木(がんぎ)王・深浦康市の最新必勝ガイド」をお届けします。聞き手は、山根ことみ女流三段です。
雁木は古く江戸時代から指されてきた将棋の作戦です。講座では、AI時代に生まれ変わった新しい雁木の魅力をじっくりとお伝えしていきます。
今回はNHK「将棋講座」テキスト2025年4月号より、講座へのイントロダクションと深浦九段、山根女流三段の意気込みを抜粋してご紹介します。
シンプルな駒組みで安心感のある雁木
「雁木の魅力は安心感にあります。相居飛車戦で先後にかかわらず、自分が目指せば必ず指せる作戦だからです」
講師を務める深浦康市九段は自信に満ちた表情でこう言い放つ。確かにプロの最前線で流行している角換わりや相掛かり、矢倉は自分がいくら勉強して覚えたとしても、相手の合意がないと指すことができない。
対して雁木は「角道を止めて金銀を押し上げれば簡単に組むことができますので、相手はこちらの雁木を阻止できません。他にこれほどシンプルな作戦がありますか」と新講師は筆者に問う。確かにこう聞いただけで指してみたくなってきたそこのあなたは、自ずと雁木の虜になっているのではないだろうか。
深浦九段は雁木をオススメする理由として「まずは堅い陣形に囲いやすいこと。さらには相手に速攻されてもつぶされにくく、自分の研究通りに進めやすいのです」と力説する。
相居飛車のプロ最前線は「玉の堅さよりもバランス重視」という考え方が浸透している。以前のようにどの作戦も玉を固め合う展開は少なく、アマチュアがまねして指すには実にハードルが高い。
だが、雁木は立ち上がり早々に角道を止めることで角交換にはならず、序盤からいきなり乱戦に持ち込まれることがないのが心強いのだ。「相手にペースを乱されることはなく、常に自分のペースで戦うことができるので安心感があるでしょ?」と新講師は目を光らせる。
必勝ガイドというタイトルにあるように、半年間のラインナップが充実している。4月に雁木の成功例を紹介するのをはじめに、早繰り銀・棒銀といった急戦策への対応や、矢倉、左美濃+右四間飛車、相雁木などの持久戦を網羅する予定だ。
聞き手を務める山根ことみ女流三段は振り飛車党ながらも、雁木の使い手としても知られる。「私は序盤が苦手ですが、雁木はどんな手を指しても、実は急に悪くなることがほとんどないんです。他の作戦に比べて多少なら手順を間違えても大丈夫ですので、番組を気軽に観やすいと思いますよ」と笑う。なんとも頼もしいアドバイスだ。
深浦九段は「毎週、観て雰囲気を感じてもらうだけで、自ずとコツがわかっていただけると思います。身近に感じて実戦に役立ててほしいです。雁木はレパートリーに加えて損のない作戦ですから」と力を込める。
語り継がれる伝説の完勝譜
最終月の9月には歴代のNHK杯戦でも指折りの快勝譜を紹介する。2021年度の第71回2回戦で深浦九段が相雁木で藤井聡太三冠(放送時)を圧倒した。局後に完敗を喫した藤井三冠がうつ伏せになったシーンが語り草になっているあの一局だ。
「藤井さんの指が動いていたとファンの方のSNSに書いてありました。反省モードに入っていたようで、気持ちの切り替えの早さに感心させられました」
そう話す深浦九段は「藤井さんがすごかったからこその快勝譜」と説明する。
「研究では最善手や次善手を追求していくので、ノーマークの80点の手を指されてしまうと逆に困ることがあるのです。おそらく藤井さんは初見だったと思うのですが、ほぼ100点の手ばかりを指し続けてこられました。あらためて指し手の精度の高さを思い知らされましたし、研究通りに進みすぎて疑心暗鬼になってしまい、自分のほうが震えましたから。こんな経験は初めてでした」
雁木は棋界のスーパースターに圧勝できる破壊力を秘めている。研究通りに進んだ序盤から、優位に進めた中盤、リードを広げた終盤と、一局の勝ち方を詳細に解説していく。
雁木を得意戦法にしてライバルに差をつけよう!
◆『NHK将棋講座 2025年4月号』内、「『将棋フォーカス』講座 新開講! 雁木王・深浦康市の最新必勝ガイド」より
◆文:内田 晶
◆撮影:小松士郎、河井邦彦