インド版MCU本格始動?神話ヒーローが無双する痛快アクション『ハヌ・マン』はインド映画ビギナーも大歓迎の面白さ
ハヌマーン神話とエンターテインメント
インドにはハヌマーンという神様がいる。ほとんどの日本人は「ハヌマーン」と声に出して呼ぶことはあまりないと思うが、その独特の響きは耳に残り、なんとなく聞き覚えがあるという人は少なくないだろう。
ハヌマーンはインド神話に登場する猿の神様で、インドでは昔から映画にも登場してきた。ヒンドゥー教の聖典のいくつかにその活躍が綴られていて、あの手塚治虫もインド叙事詩の一つ<ラーマーヤナ>をベースに漫画「ハヌマンの冒険」を描いている。
ある一定の世代には、日本の円谷プロとタイのチャイヨー・プロの合作による特撮映画『ウルトラ6兄弟vs怪獣軍団』(1974年)を思い出す人もいるだろう。命を奪われた少年がウルトラなパワーで白猿ハヌマーンとして復活し、ウルトラ6兄弟と怪獣と闘う……というお話だった。なおタイの仏教はヒンドゥー教の影響が色濃く、ド派手なガネーシャ像などが祀られていたりする。
また日印合作のアニメ『ラーマーヤナ/ラーマ王子伝説』(1993年)は、そのジブリみの強い絵柄を強烈に記憶している人も多いはず。日本発の企画だが両国のスタッフが集結し、莫大な製作費を投じて制作された大作アニメで、「ナウシカ」や「ラピュタ」を彷彿させる絵柄と贅沢なセル画使いが素晴らしく、劇場公開こそされなかったが映画祭などで評判を呼んだ。
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“ハヌマーン映画”大本命?インドで大ヒットしたヒーロー物語が日本上陸
そんなハヌマーンをタイトルに関したインド映画、その名も『ハヌ・マン』が10月4日(金)より日本全国で公開される。神話の神様の名をタイトルに冠するとおり、本作は人智を超えた力をテーマにした作品だ。そして神話が生活に根付いているインドらしく、その力の使い方を問いかけるようなストーリーになっている。
インドの辺境の村で育った青年ハヌマントゥは、幼馴染のミーナークシを助けようとして海に転落し、そこで不思議な力を持つ宝石を手にする。その石は、ある条件下で彼を無敵のスーパーヒーローに変えることが分かるが、邪悪な組織が石を狙いハヌマントゥのもとへやってきて……。
映画『ハヌ・マン』のド直球な面白さ
90年代、スパイダーマンやバットマンなどのアメコミヒーローに夢中で、憧れるあまりムチャをしてはケガをするような少年がいた。――しかし本作は1ミリももったいぶることなく舞台を現代に移し、犯罪グループをボコボコにする謎の覆面男の姿を捉える。どうやら少年は自警団的に活動するDIYヒーローに成長したようだが、スーパーパワーを持ちながらも基本的に“不殺”である大手ヒーローとは異なり、どうやら彼は手段を選ばずに闘うパニッシャー型の“持たざるダークヒーロー”らしい。
そう、本作はインド版スーパーヒーロー映画なのだが、主人公はこのダークヒーローではない。まずストーリーの大筋は、清貧な人々が不条理な圧力に抗うカンフー映画や、言ってしまえば「北斗の拳」的な王道のそれである。そして本当の主人公は、諸星あたる的なボンクラ青年ハヌマントゥ(演:テージャ・サッジャー)だ。
序盤はインド映画ならではの“歌って踊って”な展開、爽やかな恋心シーンも衒いなく挿入し、軽やかなトーンで観客を惹きつける。やがて村を牛耳る親玉をこらしめて――な展開を経て、ハヌマントゥを狙う“悪”の源は腕力から財力へ。彼が持つ不思議な石の力を知った謎の男(演:ヴィナイ・ラーイ)はハイテク技術を駆使して彼に、そして村に襲いかかってくる。この男の正体は一体……?
『ハーフバリ』や『RRR』のぶっ飛びアクションに魅了された人は鑑賞マスト!
普段はボンクラな主人公が……という設定は、チャウ・シンチーの『カンフーハッスル』(2004年)などを想起するだろう。実際シンチー作品の影響は随所にあり、隙あらば差し込んでくるしょうもないギャグなどはオマージュと言ってもいいほど。マンガ的なチープ演出も狙ってのものだろう。
幼馴染ミーナークシ(演:アムリタ・アイヤル)との恋は一進一退、疎遠だった姉との関係修復のもどかしさは悲哀を誘い、そして胸アツな共闘展開などなど、とにかく見どころが多い。かといってお話が複雑になるようなことは一切なく、昭和のバイブスを感じるほど潔くシンプルである。
熱心なインド映画好きでなくとも、『ハーフバリ』や『RRR』のぶっ飛びアクションに魅了された人には、ぜひハヌマントゥの爽快な無双ぶりを体感してほしい。劇中ではプラバースやパワン・カリヤン(※『RRR』ラーム・チャランの叔父)、ナンダムーリ・バーラクリシュナらテルグ語映画の新旧名優たちの名がはっきりとセリフで示され、先人たちに対する監督のリスペクトもうかがえる。
最近の大作インド映画としては比較的短い3時間を切る上映時間なので、初めてのインド映画にも最適と言えるだろう。しかも本作はMCU的なヒーローユニバースの第1弾作品とのことで、インド神話ベース映画の今後にも期待したい。
『ハヌ・マン』は2024年10月4日(金)より全国ロードショー