米の価格上昇に草加せんべい悲鳴
お米の価格の高騰が続いていますが、埼玉県草加市の名産品「草加せんべい」も影響を受けています。
草加せんべい店 使用する米が11月から35%値上がり
創業から90年以上の歴史を持つ草加せんべい店「豊田屋」の豊田重治さんのお話です。
豊田屋 豊田重治さん
いやあ、厳しいですね。「多用途米」とってるんですけど、11月から35%、上がります。上げ幅が大きいので、企業努力ではどうにもならない感じですね。こんなに上がったことは初めてです。「本当かよ」って。今度だけは、しょうがないよね。やっぱり小売価格を上げるようになっちゃいますよね。うちは来月から上げる予定にしています。今までの値段じゃ終わっちゃいますから。1袋8枚入りなんですけど、最低でも100円くらい上げないと。だから、今1番安いので400円なんですけど、それが500円。まあ、しょうがないね。訴えて下がるもんなら、言いたいけれどね。
お米は、簡単にいうと炊いて食べる「主食用」と、せんべいや味噌などに使われる「加工用」があります。普段、主食用の米の価格の高騰はよくニュースになっていますが、加工用のお米も、価格が上がっているそうなんです。
取材した「豊田屋」は、20種類弱のせんべいを販売していていて、これまではなんとか経費削減などで我慢していたけれど、11月から使っているお米の価格が「35%」高くなるとのことで、どうしようもなく、商品の値上げに踏み切るそう。
取材にお邪魔すると、お店の入り口には「誠に不本意ながら、一部商品について10%から25%程度値上げする」という内容のお知らせが貼ってありました。
豊田さんのお話では、およそ50年前には150軒ほどあった「草加せんべい」のお店が、今は30軒以下になり、毎年1軒は辞めていくそう。「厳しい状況だけれど、なんとか頑張って続けていきたい」と話していました。
早くから影響を受けていたせんべい業界
米の価格高騰の背景や、せんべい業界が影響を受けている背景について、米の生産や流通に詳しい日本国際学園大学 教授 荒幡克己さんに伺いました。
日本国際学園大学 教授 荒幡克己さん
米の価格、騒ぎになったのは今年の8月ごろなんですが、昨年末から、業界では「変だよ」とかなり早い時期に話が出てきていました。米の不作になるときは、寒い方が多いんですね。粒が大きくならない。小さい粒ばかりできるんですが、おせんべいで使うのは小さい粒なんです。そっちが普通寒い夏のときは多くなる。去年の夏は暑かったので大きい粒ができて、小さい粒が不足しちゃったんです。ですからおせんべい協会が最初に困ったんです。足りないので、少し高いんだけど無理して大きめの粒のお米を買った。そうすると、その大きめの粒を普段使っている業界が、また高値で困ってしまう。同じ大粒なんだけど、ちょっと高値で、たとえばコシヒカリとかを今度は買い漁るようになった。下からの玉突きで、お米不足がどんどん深刻化していったんですね。
荒幡教授の話では、私たちが日常生活の中で米の価格上昇や米不足を実感するずっと前から、せんべい業界は影響を受けていたということなんです。暑さの影響で、せんべいに使う小さい粒の加工用のお米ができなかったことが大きな要因でした。
米の価格 今後の見通しや必要な対策は
荒幡さんによると、米の価格は残念ながらすぐには下がらないということ。今後の見通しや、必要と考える対策について、再び日本国際学園大学教授 荒幡克己さんのお話です。
日本国際学園大学教授 荒幡克己さん
年明けぐらいになると、少し落ちてくるかなと私は見ています。肥料代とかも上がっているので、元に戻ることはないと思います。対策に関しては、米そのものの潜在的な生産力、まだ十分余裕あるんです。「米足りないぞ」「増産しろ」っていうと、すぐ過剰になって、米価が暴落する。例えば、政府の備蓄の放出の方針をもう一度見直すというのは、すぐやってほしいなと思います。今年2月ごろ、こういう一番困ってそうな、せんべい業界、加工用を、少し政府備蓄を放出するとかやっていれば、今回のような不測の事態は多少緩和できたかなという気はします。
国は、今年6月末時点で91万トンの米を備蓄していて、米の品薄状態を受けて「備蓄米を放出するべき」という声も多く上がりました。国としては「今は米不足の状況ではない」「需給や価格に影響を与える恐れもある」として今も備蓄米の放出には慎重な姿勢ですが、荒幡さんは、微調整して少し備蓄米を放出するといったことも考える必要があるのでは、と話していました。
炊いて食べるお米だけでなく、せんべいにもここまで影響が出ているとは・・・価格が落ち着くのも、もう少し時間がかかりそうです。
(TBSラジオ『森本毅郎・スタンバイ!』取材・レポート:西村志野)