映画館で“うっかり”出会いたい激シブ快作!韓国バイオレンス好きの見たいもの全部盛り映画『ブロークン 復讐者の夜』
激推し韓国サスペンス『ブロークン 復讐者の夜』公開中
『お嬢さん』や『1987、ある闘いの真実』などで知られる名優ハ・ジョンウが、『哀しき獣』『悪いやつら』路線のやさぐれバイオレンスで再びナイフのようなキレキレの存在感を見せてくれた。9月12日(金)より公開中の『ブロークン 復讐者の夜』は、韓国ノワール~バイオレンス好きにはたまらない、見たいものを全部見せてくれる映画だ。
ある日、ミンテのもとに弟のソクテが死体となって戻ってきた。そして弟の妻のムニョンは、姿を消してしまう。手がかりを探すうちに、ホリョンという小説家と出会い、彼のベストセラー小説『夜行』の中で弟の死が予言されていたことを知る。
弟が死んだあの夜、何があったのか? ムニョンの行方を追ううちに真実を知ったミンテは、壮絶な復讐を始める――。
チョン・マンシクにホ・ソンテ…悪いことが起こる予感しかしない好メンツ!
冒頭から、まるで『新しき世界』(2013年)のラストシーンのような“シゴト終わり”的ショットで期待値を爆上がりさせる本作。そしてハ・ジョンウ演じる元ヤクザのミンテは、ポンコツな弟ソクテのケツ持ちをさせられる勤勉な兄貴……かと思いきや、ホームラン級のスカッとブチギレ人物であることを秒で分からせる。
そんなミンテも今は日雇い労働者として暮らしていて、シャカシャカ防寒着にもっさりバックパック標準装備という野暮ったいバイブスを放ちつつも、刃物のような危なっかしさはしっかりキープ。そしてチョン・マンシクやホ・ソンテなど、悪いことが起こる予感しかしない好メンツが次々に顔を出し、韓国バイオレンス好きの期待をさらに煽る。
銃声が響かないオーガニック・バイオレンス
留守電を残していたソクテと連絡が取れず、その妻ムニョン(ユ・ダイン)が自宅から姿を消していたことから、ミンテは嫌な予感をを抱きつつ2人を探し始める。足抜けした組事務所に遠慮する様子もなく現れ、スンッとした表情で我を通すミンテ……。かつての弟分たちから、いまだに恐れられ煙たがられるミンテ……。その超然とした佇まいにゾクゾクさせられる。
そんなミンテは遺体安置所で冷たくなった弟と再会して涙を流し、警察の警告も無視してその足で復讐をスタート。田舎町という設定もあるだろうが、韓国バイオレンスにありがちなギラギラしたチンピラは一人も出てこず、逆に狭小路地での鈍器バトルや麺類ズル食いシーンなど私たちの見たいものは次々に打ち込まれ、逆にピストルはチラッと一瞬映るだけ(流血カットすらほとんどない)というオーガニック(?)路線だ。
かつての弟分ビョンギュ(イム・ソンジェ)を伴いムニョンを追うミンテの姿はノワールというより、まさに“トラッキング”サスペンスという謳い文句がドンピシャ。しかし現役時代は“切れ者”と言われたミンテらしく、深追いはしないがジャブを繰り返すピンポイントな追跡スキルを披露。そこになぜか背景が掘り下げられない登場人物たちと、ギュッとタイトでテンポの良い“端折り”の演出がハマる。
映画館で“うっかり”出会いたいタイプの激シブな快作
本作のミステリー要素を担うのが、ドラマから映画まで大活躍中のキム・ナムギル。彼の演じる作家ホリョンの書いた小説をトレースしたかのようにソクテが殺されていたため、怪しんだミンテが義妹ムリョンの行方を問い詰めるのだ。ときに(無意識に)ヒントを与え、ときに追跡を撹乱するホリョンは、イカツい男たちばかりの中では霞のような存在である。
むしろ、ムニョン役のユ・ダインやビョンギュ役のイム・ソンジェ、そして麻薬捜査チームのミン刑事を演じたイ・ソルが強烈な印象を残す。とくに女性陣は“何歩か後ろに下がらされる”存在として描かれており、善悪どちらも男性陣の身勝手さばかりが浮き彫りになる。
邦題の“復讐者”のとおりミンテを全力で応援できれば気が楽なのだが、そうはいかないところが本作のキモ。ついに突き止めた“犯人”に対してムカーッと怒りが湧く……こともなく、ただただやるせなさが胸にずっしりと残る。はたして復讐されるべきは誰なのか? 1時間半があっという間の、なるべく前情報を入れずに劇場で“うっかり出会いたい”タイプの快作だ。
『ブロークン 復讐者の夜』は9月12日(金)よりシネマート新宿ほか全国順次公開中