谷保さんぽのおすすめ5スポット。“ヤボ天”どころか小粋、ディープすぎる街へようこそ
初めて谷保を訪れると、駅前のレトロ団地が目に付く程度で、地味な小粒な町という印象を受けるかもしれない。騙だまされてはいけない。小粒でもピリッと刺激的な店揃いの、住んでみたくなるワンダーランドなのだ。
スナック文化の明日を担う店『スナック水中』
坂根千里さんが先代ママに見込まれ一橋大を卒業後に引き継いだ店。古きよきスナックをリスペクトしつつ、性別年齢関係なく気軽に語り合える「開かれた街の社交場」を目指す。入り口を見通しのきくガラス戸に改装したのもその一環。ノンアルコール飲料もあるので、飲めなくてもOK。スナック界の再生は谷保から始まる。
19:00〜24:00、無休。
☎042-505-7307
無理なくエコな炭火焼きビストロ『ポークストック』
2022年に北区東十条から移転。上質な南州黒豚を半頭買いして無駄なく使い切る。さまざまな部位を加えた豚挽き肉を炭火焼きするハンバーガーは、ざっくりした口当たりと肉の旨味が詰まった一品! 特製ソースで炭火焼きするスペアリブもほどよい味付け。セットで多摩野菜ほかこだわり野菜約20種の豪華なサラダ付き。
11:30〜14:00・18:00〜21:00LO、月夜・火休。
☎090-9800-2297
ほどよいクセモノ雑貨が大集合『ニコノマニマニ雑貨店』
デンマーク製食器の通販が大好評を博し、自宅近くの倉庫で直売も始めたのが今の店。得意の北欧物から国内外のクセモノ雑貨まで発掘して取り揃えている。デザイン会社が経営しているゆえに、品揃えは高感度かつユニーク。超リアルな動物雑貨、クスリと笑えるイヤリングなど、あまり目にしない品が多く、見て回るだけでも楽しい。
11:00〜19:00(土は〜18:00)、日・月・祝休。
☎042-505-7321
元祖・国立の中心地「谷保(やぼ)天満宮」
湯島天神、亀戸天神とならぶ関東三大天神。河岸段丘沿いにあるため珍しい下り宮になっており、石段を下りると現れる拝殿は圧巻。裏手の弁天池には厳島神社があり見事なコイが泳ぐ。学問の神さま菅原道真公が祀(まつ)られていることから合格祈願の参拝者が多いが、交通安全発祥の地でもあり、近年では交通安全祈願の方が増えているとか。梅林も必見。
社務所は9:00~16:50、無休。
☎042-576-5123
通年楽しめる風景とこだわりの名物『茶処てんてん』
谷保天満宮の風光明媚な梅林にある小さな茶屋。看板商品は甘酒で、神田明神の老舗甘酒店・天野屋の麹を使い、かつて営んでいたお粥の店「かゆや」の腕を生かした絶品。合格ゼリーも名物で、各種試験の合格祈願者に人気。正月と梅の見頃に大盛況を迎えるが「4月半ばの山藤など見どころはいつでもあるんです。季節を選ばず来てくださいね」と店主の土方さん。営業日時は公式HPを参照。
文化的で牧歌的な、いぶし銀の隠れ里
「ヤホではなくヤボです!」とキッパリご指導いただいたのは、谷保天満宮の広報・菊地茂さんだった。失礼いたしました。谷保の呼び名は元来「ヤボ」で谷保駅開設を機に「ヤホ」に改められた。でも2代3代にわたり住み続ける地元民には、「ヤボ」の方が通りがいい。
そもそも谷保こそが国立エリアの中心地であった。国立市役所も谷保駅が最寄り。「国立駅周辺にしても旧地名は谷保村でした」と菊池さん。メインストリートの大学通りは、突き当たりの先に鎮座する谷保天満宮の参道的ポジションにある。国立を訪れるなら谷保にもあいさつを入れなければ無粋な野暮(やぼ)天(実はこの言葉も谷保天満宮に由来しているのだ!)この上ないのである。
国立駅からの交通手段は、バスか立川駅経由の南武線で迂回(うかい)するしかない。少し行きにくいことも、独自のカラーを生み出している。
谷保は、谷保駅を境に北と南に大別され、南側は谷保天満宮のある下り斜面で、農地と民家が広がっている。中学校もあって「学校まで歩いて通いました。天満宮の境内では、鶏を放し飼いにしてたな」と地元民である『ニコノマニマニ雑貨店』の店主・飯田さんは懐かしそうに言う。まさに田園である。
一方北側は、駅前に築約60年を数える富士見台第一団地が連なり、レトロで小ぶりな商店街が寄り添っている。好きな人にはたまらない雰囲気だ。駅前広場といい、一見寂れたようにも見えるが、驚くほど個性的な店が揃っている。そういえば「この手の店は国立駅周辺になく、質も接客もいいからわざわざ買いに行く」と地元の友人が断言してたっけ。谷保天満宮の梅林の茶屋も、甘酒にかなりのこだわりを持っているし、『ポークストック』をはじめ、新たな美味を供する店が増えているのも印象的。
さらに、若い世代の営む店がゆるくつながり、明日の谷保カルチャーを育んでいる。「スナックを通して街で友達を作ったりできるといいですね」と『スナック水中』の若きママ・坂根さん。店には若い女性客も多い。
時代が止まっているようなのどかな雰囲気を享受しつつ、熱意を持って我が道を行く人に、谷保では何度も出会った。食が充実していて文化もあり、楽しく暮らせる穴場の街なんて、なかなかないよ。
取材・文=奥谷道草 撮影=井上洋平
『散歩の達人』2025年9月号より
奥谷道草
ライター
東京生まれ。MOOK『散歩の達人 台湾さんぽ』を執筆。都心部の道草散歩歴は半世紀あまり。月刊「散歩の達人」で独特のセンスと経験を駆使し、散歩ライターとして雑貨を中心に、喫茶・エスニックなどの企画を取材執筆。2010 年から台湾に夫婦でハマる。以後二人して中国語を学びつつ、主に首都台北をはみだし、各地方の魅力ある街あるきを模索散策。書籍は15 年『オモシロはみだし台湾さんぽ』、18 年に続編にあたる『もっとオモシロはみだし台湾さんぽ』を上梓。