長期休み、発達障害息子にとってのメリット・デメリットは?登校渋りがなくても別の困り事が…
監修:森 しほ
ゆうメンタル・スキンクリニック理事
長期休み明けは、いろいろなものがリセットされるようで…?
神経発達症がある息子のコウは現在中学生です。学校生活を送る中で、夏休みや冬休みなどの長期休みを何度も経験してきました。そんな彼は、どうも長期休みによっていろいろなことがリセットされているようです。
小学生の頃は特に人間関係のトラブルが多く、集団行動も苦手だったコウは学校で消耗することが多かったようです。家に帰ると玄関に座り込んでぐったりしていることがしばしばあり、時には登校渋りもありました。
そんな彼が長期休みに入るたびに、私は「休み明けの登校がしんどくならないかな?」と心配していましたが、意外にも長期休みの後は少し元気に学校に通えるようになっていました。長期の休みで心身が回復し、気持ちもリセットできていたようです。
そんな風にメリットが大きい長期休みのリセット力には、残念ながらデメリットもあります。一旦身につけていた『よい習慣』もまとめてリセットされてしまうのです。
習慣が消えることに関しては、休みの長さだけではなく『区切りのタイミングであること』の影響も大きいようです。春休み明けで学年が変わる時に、宿題を袋に入れて持ち帰ることや提出する習慣が消えて困ったことがあります。
「春休みはさほど長くはないのに、こんなに影響があるなんて!」と驚きました。一度消えた習慣を再び身につけることは難しく、その後、宿題を袋で管理する習慣がある程度戻るまでに1年近くかかりました。
長期休みで起きる「リセット」の恩恵をうまく取り入れたいところです
コウにとって、長期休みにリセットの効果があることは明らかなので、「こうなったら、リセットの恩恵だけをうまく取り入れられないかなぁ」と思っているこのごろです。
『途切れること』がリセットのスイッチを押すようなので、疲れや憂鬱な気持ちに対しては途切れさせつつ、継続させたい習慣に対しては『素振り』をするのがよいのかもしれません。
「休みの間は毎日私がプリント渡すから、それを机の横にしまうようにする?」とコウに提案してみると、「それ結構いいかもしれない」と案外コウも乗り気なようでした。
習慣化について改めて考えてみると、「何かしらの行動を習慣化させようとするとき、それにかかる時間やリズムは人それぞれなのだろうな」と思います。
ジョギングを「今日は雨だから」と1日休んだらそのまま習慣が消えてしまう人もあれば、苦もなく翌日から再開できる人もいます。雨の日に休んだら習慣が消えてしまう人であっても、エアロバイクなど室内で行える運動をしたらそのまま続けられることもあります。
また、習慣を『身につける技能の一つ』と考えた時、それには周囲の人より多くの練習が必要になる場合もあるのだろうと思います。すんなり縄跳びができるようになる子どももいれば、たくさん練習して1回跳べるようになる子どももいます。たくさん練習をしても、縄跳びは難しい子どももいます。
学校で配られた縄跳びカードを埋めるときには『縄跳びができるかどうか』は大きな問題になりますが、縄跳びを『遊びや運動の一つ』として扱うのであれば、縄跳び以外に要件を満たすものはたくさんあります。
ついつい「必要性は分かっているのだから、やらないのは怠慢なのではないか」と自分に対してもコウに対しても思ってしまいがちな私です。
今一度、改めて『習得に時間がかかることはある』『スモールステップでコツコツやっていく』『どうしても身につかない場合は、代わりになるものもある』ということを思い出して、行動の習慣化に取り組んでいきたいです。
執筆/丸山さとこ
(監修:森先生より)
長期休みで疲れがリセットされて、お休み明けは元気に学校に通えているのですね。 お家で安心して過ごせて、うまくリフレッシュできているということで、大変素晴らしいことですね。反面、一旦身についた習慣もリセットされてしまうと困ってしまいますね……。 実は発達障害の傾向がある方は、一度決まったルールを守ることが得意なケースが多いので、習慣化してしまえば強いということがあります。 せっかく身についた習慣も、一定期間やらないでいると、「やらない」のが習慣となってしまいますよね。
丸山さんのように、学校がない日も学校があるのと同じような動作を素振りのように続けるというのは、とっても良い方法です。 どんなことでもやり始める時に一番エネルギーを必要とするものです。一度身についた習慣を忘れてしまわないように毎日繰り返しているほうが、精神的に楽であることが多いでしょう。無理なく続けていける方法を考えていけるといいですね。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。