デビュー40周年を迎える【南野陽子】80年代後半のトップアイドルに見る3つの魅力とは?
1985年デビュー組を代表する南野陽子
アイドルの黄金期として再評価が進む1980年代。今年(2025年)は1985年に表舞台に登場したアイドルたちがデビュー40周年を迎える。1985年といえば、松田聖子の休業やおニャン子クラブの台頭など、アイドルの勢力図が塗り替わった節目の年。そして、この年にデビューしたアイドルたちが80年代後半に活躍したことはご承知の通り。そこで、今回はそんな1985年デビュー組を代表する1人として南野陽子にスポットをあて、彼女の魅力を3点に絞り考察したい。
昭和最後の正統派アイドルとしての存在感
まず1点目の魅力は、昭和の最後を飾る正統派アイドルとしての存在感である。正統派アイドルの定義は人それぞれだが、筆者はアーティスト性を表に出さず、アイドルとしての世界観をとことん演じきったことが真っ当かつ正統だと考える。というのも、80年代後半にはアーティスト志向を強めたアイドルが増えたからだ。
例えば、彼女と同期の斉藤由貴はデビュー後すぐに作詞を手掛け、同じく同期の中山美穂は小室哲哉や角松敏生から楽曲提供を受け、洋楽テイストのアイドルシンガーとして活躍。1年先輩の菊池桃子はシティポップ路線を走り、1988年にはロックバンド、ラ・ムーを結成した。
これらは新しい音楽の波がアイドル界にも押し寄せた結果だが、この流れに染まることなく、80年代前半に活躍したアイドルの流れを継いで王道の曲を歌った代表であることが、まず語るべき南野陽子の魅力である。歌番組で見せた彼女の健気で実直に歌う姿、少し鼻にかかる柔らかな歌声、お嬢様テイストを醸し出す楽曲やルックスといったアイドル性に当時のファンは魅了されたのだ。
そんな彼女の活躍は、昭和後期の芸能界や社会にも大きな存在感を示した。9曲のシングルがオリコンチャートで首位を獲得し、写真集やブロマイドもトップセールスを記録。並行して女優としても活動し、大河ドラマ『武田信玄』では一人二役を演じ、お茶の間での認知度も高かった。『日本レコード大賞』や『NHK紅白歌合戦』とは無縁だったが、昭和の最後を飾る正統派アイドルといえば、間違いなく南野陽子であった。
清純少女の世界観が満載の初期アルバム
2点目は、初期アルバムで示された清純少女の世界観である。南野陽子の楽曲をシングルだけ聴けば、“スケバン刑事路線” のメランコリックな曲と、ポップで可愛らしい曲とに2分される。しかし、彼女の真骨頂はシングルよりもアルバム、特にデビューアルバム『ジェラート』から4枚目『GARLAND』の収録曲に顕著に表れている。それは “清楚な女学生のリアルな日常に垣間見える心象風景” だ。少女が大人になる過程で遭遇する恋愛や心象を叙情的に綴った楽曲が、これでもかというほど詰まっている。
そして、彼女のボーカルも歌詞の主人公に憑依しているようなのだ。実際に彼女は自著『月夜のくしゃみ』の中で、
「私の歌は、恋人たちの周辺の情景が描かれたものが多いの。だから、とても身近でリアルなイメージというか、歌っていても、私が恋をするときっとこうだなぁと思えちゃう」
と述べている。等身大の自分を歌に重ねていたのだ。また、彼女はクラシック音楽やユーミンといった自分が好きな曲を、レコーディング・ディレクターの吉田格や編曲家の萩田光雄に聞かせていたらしい。萩田の編曲にクラシックの要素が多く、アルバム曲に少女版ユーミンの香りが漂うのも、彼女の嗜好が反映されているからなのだ。
歌と演技で見せた陽と陰のキャラクター
3点目は、彼女が演じた陽と陰のキャラクターである。よく知られるように、南野陽子は神戸の名門校である私立松蔭女子学院に中学から通った正真正銘のお嬢さま。女優デビューも『私立名門女子高校』(1984年)という日本テレビ系列で放送されたドラマだった。しかし、彼女がブレイクしたのは世界平和を守るために悪と戦い続ける『スケバン刑事』(1985年)シリーズ。この清楚感(陽)と哀愁感(陰)とのギャップが彼女の隠れた魅力を引き出し、トップアイドルに押し上げたのだろう。
シングルでは、デビュー曲「恥ずかしすぎて」で純情な少女の心象を歌った後は哀愁路線へと一転。スケバン刑事での演技と共に、ミステリアスでメランコリックな少女として人気を高めた。しかし、アルバムでは前述のとおり、清楚な少女の心象を歌い続けた。こうしたキャラの二面性が彼女の個性となって大衆の支持を集め、80年代後半にトップアイドルの地位へ上り詰めたように思えてならない。時折彼女が見せる憂鬱な表情に心を持っていかれた人も多いのではないだろうか。
ちなみに、彼女の良きライバルだった中山美穂も、キャラの二面性を演じ分けていた。デビューしたTVドラマ『毎度お騒がせします』(1985年)ではツッパリ少女役だったが、それを払拭するようにキャラを陰から陽へと少しずつ変え、アイドルシンガーの地位を確立した。こうしたキャラの二面性がトップアイドルに共通していて興味深い。
2005年に歌手活動を再開。今年はデビュー40周年の節目
以上、南野陽子の魅力を3点に絞り紹介してきた。そんな彼女は、1995年の歌手引退後は女優として活動したが、2005年に発売された20周年記念CD『南野陽子 ナンノ・ボックス』の収録曲として、自ら作詞し萩田氏が作曲・編曲した「最終オーダー」を発表。以降も周年ごとに記念アルバムをリリースし、2016年からコンサート活動も復活。2021年には新曲2曲を収録した『Four Seasons NANNO Selection』をリリースしたのも記憶に新しい。
そして、今も彼女が元気に活躍されていることや、時折出演するテレビ番組で見せる茶目っ気ぶりが変わらないことが素直に嬉しい。デビュー40周年の節目を迎える今年はどんな活動を見せてくれるのか、期待したい。