守備のトレーニング、奪ってからのポジティブトランジションを上手くいかせるには どうすればいい?
試合の後半に失点が増えるチーム。体力の問題なのか、集中力の問題なのか。守備のトレーニングとうばってからのポジティブトランジションを成功させる方法を教えて、とのご質問をいただきました。
今回もジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上のあらゆる年代の子どもたちを指導してきた池上正さんが、海外の例やおすすめのメニューを交えてアドバイスを送ります。
(取材・文 島沢優子)
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<お父さんコーチからの質問>
こんにちは。
学校の部活で顧問をしています。中学生はサカイクの年齢対象外(※恐らく「ヤンサカ」が対象になりますよね)だと思いますが、サッカー経験が浅いのに顧問をやっているため、指導について自信がなく、池上さんにアドバイスをいただきたく投稿しました。
チームの課題は、後半から失点が多くなることです。
前半は相手と対等に戦えるのですが、体力の問題なのか集中力の問題なのか、後半に入ると1人の選手に3人くらい交わされてゴールを決められてしまうことが多いのです。
守備のトレーニングと、奪ってからのポジティブトランジションを上手くいかせるためにはどうしたらいいのでしょうか?
中学生なので、練習法でなく座学など知識の部分でも良いのでアドバイスをお願いします。
<池上さんからのアドバイス>
ご相談ありがとうございます。
サッカー経験が浅く指導に自信がないそうですが、ポジティブトランジション(守備から攻撃の切り替え。攻撃から守備への切り替えはネガティブトランディション)と書かれているところをみると、ご自分で勉強されているようです。
ご相談いただいた件について3つほどお話ししましょう。
■「疲れていても判断をしなくてはいけない」対人練習で体力と集中力を高める
いつも後半失点してしまうとのことですが、体力が足らないのか、集中力の問題なのか。互いに関係し合う要素ではあります。
そこをどう見極めるか。
仮に体力だとしたら、むやみに走り込むのではなく、対人プレーの練習メニューをとりいれてください。例えば2対1や3対1をやってみましょう。守備がひとりなので守る側は非常にハードです。スタミナが切れてくると集中して動けなくなってきます。そういった練習をやってください。
単なる走り込みはさせないでください。疲れていても、判断をしなくてはいけない状況に追い込むことで成長できるはずです。
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■「体を当てに行け」より「ボールを奪おう」という指示に変えて守備のやり方改善
2つ目は、守り方です。
体を当てろとか、押さえろという指導者は多いようですが、違う言い方をしてください。
それよりも「ちゃんと足を出しなさい」「ボールを取りに行きなさい」と伝えてください。体を当てに行ったり体を押さえにいくと、相手にドリブルですり抜けられることのほうが多いようです。
例えば、ジダン(元フランス代表)がやったことで有名になったマルセイユルーレットというターンがあります。
あのスキルは、相手とぶつかりそうなときにターンします。したがって、ディフェンス側はぶつかれなくなります。当然ながら先に体を入れてしまえばターンされないわけですが、ちょっとでも遅れてしまうとすり抜けられてしまう。そうすると追いつけません。
であれば、体を投げ出すのではなく、ボールを触りなさいと言ってあげたほうがいいというわけです。
フランスやドイツなど欧州の国々では、育成の段階で「足を出そう」「ボールを奪いに行こう」と伝えています。
一対一で厳しく相手に当たることを「デュエル」と表現したりします。この厳しくいくイメージの持ち方や守備については、この連載でも何度かお伝えしています。すでに180回近く続いているので関連記事がたくさんあります。検索機能を使って調べてみてください。
■ポジティブトランジションが上手くいかない原因は、ボールがない時の「判断力」かも
3つめ。
ご相談文にポジティブトランジションがうまくいかないと書かれています。それを考えると、周りをしっかり見て、早く判断してパスが出せる能力が必要なのかもしれません。
それはボールを持っている選手だけの問題ではなく、サポートする選手たちの判断力が重要です。自分たちがボールを持っているときに素早く動かないといけません。
そのためには、3対2の練習をおすすめします。守備が2人いるわけなので、3人が全員で動かないとパスが回りません。3対1だとパスコースが必ず2本できるので、そんなに動かなくても済むのですが、3対2になるとそうはいきません。パスコースが1本になる可能性もあります。その1本のパスコースでボールを受けられるところに動いてあげる必要があります。
他には、4対4にターゲットマン2人(ゴールマン)を加えたミニゲームがあります。ターゲットマンにボール渡ると1点。得点したら、攻撃の方向が変わります。攻撃してきたチームはそのまま反対側のターゲットマンを目指して攻めるのです。ターゲットにボールが入った瞬間に切り替えをしなくてはいけません。
もちろん途中で相手側がボールを奪ったら逆側に攻めます。ただ得点したら逆に攻める。そうするとトランジションが継続され、連続性が出てきます。集中力や体力が自然に養われます。この「4対4プラス2」をぜひやってみてください。
親が変われば子どもも変わる!?
サッカー少年の親の心得LINEで配信中>>■守備を鍛えることも大事だが、「失点したら取り返せばいい」という考えはもっと大事
先日、私が指導しているチームは、15分の練習ゲームを3本行いました。全部で30失点しました。お父さんやお母さんたちを前に、私が子どもたちに「今日の振り返りをどうぞ」と促すと、子どもたちは「相手のボールがとれた」とか「ボールがつながる場面があった」と話してくれました。つまり、こういうところがよかったというポジティブな印象を語るのです。
子どものミーティングのあとで親御さんたちに「30点とられても、子どもの感覚はこのような(ポジティブな)ものですよ」と説明しました。そして「それ(失点)を、25、20、10と減らしていくのは私の力です」と話しました。
失点が多いから守備を鍛えることは大事ですが「失点したら取り返せばいい」という考え方はもっと重要です。それを植え付けるためにも、大人である指導者のほうが失点に対して精神的にタフになってほしいと思います。
私の印象では、失点した子どもたち以上に、指導者や応援している保護者のほうが落胆しているように見えます。そのこともぜひ考えてみてください。
池上 正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさい サッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。