雪が降ってからとけるまでの美しい心の交流と温かくて切ない恋たちの物語「ぼくのお日さま」試写会レビュー
雪の降る街を舞台に吃音のあるアイスホッケーが苦手な男の子とフィギュアスケートに励む女の子、元フィギュアスケート選手のコーチが紡ぎ出す、淡くて切ない恋と成長の物語「ぼくのお日さま」が9月13日に公開されます。
本作は、長編デビュー作「ぼくはイエス様が嫌い」でサンセバスチャン国際映画祭・最優秀新人監督賞を受賞した奥山大史監督が脚本、撮影、編集を担った2作目。
本作は、北海道内のロケ地が多く登場し、純白の雪景色や青々と茂った木々、窓からまばゆい光が漏れてくるスケート場など、全編を通して美しい景色が広がります。
そして、主題歌はハンバート ハンバートの『ぼくのお日さま』。楽曲に登場する吃音の"ぼく"から物語が膨らんだ本作を、温かく包み込むようなメロディーが彩っています。
3人の心の変化と美しい風景がスクリーン一杯に広がる「ぼくのお日さま」をひと足早くSASARU movie編集部がレビューします。
憧れから始まる大きくて素敵な変化
主人公のタクヤ(越山敬達)は、雪深い街に暮らす、吃音のある小学生。夏は野球、雪が降り始めるとアイスホッケーに取り組むものの、どちらにもあまり興味がもてず、おまけにアイスホッケーの練習中にケガをしてしまい、モヤモヤした気持ちを抱えています。
タクヤが練習するスケート場には、フィギュアスケートに打ち込む中学生のさくら(中西希亜良)も練習に励んでいます。指導するのは、かつて第一線で活躍した元フィギュアスケート選手の荒川(池松壮亮)。
タクヤは、氷上を舞うさくらの姿に惹かれて、アイスホッケー靴のまま、フィギュアのステップを転びながらも真似します。そんなタクヤを見た荒川は、スケート靴を貸して彼の練習に付き合うように。そして、タクヤにさくらを誘ってアイスダンスのペアを組むことを提案します。3人で練習の日々が始まるのですが…。
氷上を舞う3人のきらめき
どんどんフィギュアスケートが上達していくタクヤ。一方、シングルで伸び悩みを感じていたさくらは、アイスダンスの練習に意欲が湧きませんでした。しかし、懸命に練習を続けるタクヤの様子や密かに想いを寄せる荒川の熱心な指導により次第に積極的に練習するようになります。
ここで注目してほしいのが、湖での練習シーン。きらめく夕日と氷上を舞う2人がなんとも美しく、心がほっと温かくなります。また、3人の絆がぐっと深まったシーンでもありました。
スケーティングと撮影手法にも注目
主人公たちのスケーティングにも注目です。タクヤ役の越山敬達とさくら役の中西希亜良はスケート経験者ですが、荒川役の池松壮亮はまったくの未経験。本人曰く「氷の上に乗ったことすらない」とのことで、撮影までの半年間で猛特訓したそう。奥山監督から「あまりに自然なコーチ姿」と言わしめる演技にも注目です。また、その監督自らスケートを滑りながらカメラを回し、前作に続いてスタンダードサイズでの撮影と、それら構図や独自のテイストも見どころになっています。
淡くて切ない恋たちの物語
密かに荒川に恋心を抱いていたさくらは、荒川に同性のパートナーがいることにショックを受け、心ない言葉をぶつけてしまいます。この出来事がきっかけで3人の関係が変わっていくことに...。
落ち込む荒川はパートナーに2人のことを『羨ましかったんだよ。ちゃんと恋してるっていうかさ』と話してしまい、自分たちは違うのかとパートナーに問われ、関係もギクシャクしてしまいます。
本作は吃音や同性愛などをあえてクローズアップするのではなく、日常のひとつの要素として溶け込ませている点が印象的です。監督も『同性カップルが現実にある多様なあり方のひとつとして登場しても良いのではないか』という思いを反映させたと語っている通り、自然に描かれていることが伝わってきます。
また、本作は第26回台北映画祭で審査員特別賞、台湾監督協会賞、観客賞の3つの賞を同時受賞する快挙を達成!思春期の心の変化と成長、淡く切ないストーリーと美しい風景がシンクロする名作です。鑑賞後もじんわりと余韻が残る作品をぜひチェックしてみてください。
「ぼくのお日さま」作品情報
監督・撮影・脚本・編集:奥山大史
主題歌:ハンバート ハンバート「ぼくのお日さま」
出演:越山敬逹、中西希亜良、池松壮亮、若葉竜也、山田真歩、潤浩 ほか
製作:「ぼくのお日さま」製作委員会
製作幹事:朝日新聞社
企画・制作・配給:東京テアトル
共同製作:COMME DES CINE'MAS制作プロダクション:RIKIプロジェクト
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(映画創造活動支援事業)独立行政法人日本芸術文化振興会
公式サイト:https://bokunoohisama.com/