日本一になった動物園で“その辺にいる”キタキツネを飼育するワケ…「伝えるのは、命」もっと深く楽しめるポイントを獣医師ママライターが解説|【北海道・旭山動物園の楽しみ方/後編】
牛や馬専門の獣医師の経歴を持ち、アニマルセラピーにも詳しいママライター「MERI」が、北海道各地の「動物とふれあえるおすすめスポット」とそのおすすめポイントを紹介する【連載】「こころ育む、動物ふれあいスポット」。
前編に引き続き、今回は旭山動物園にいる動物たちの「命の尊さ」にスポットライトを当てて、獣医師目線で旭山動物園の魅力を解説していきます!
前編でお伝えしたとおり、旭山動物園は珍しい動物がたくさん展示されている場所ではありません。
その理由こそが旭山動物園の「最大の特色」なんです。
今回は、そんな旭山動物園の信念と取り組みにも注目してお伝えしていきますので、ぜひ最後までご覧いただけたら嬉しいです。
まずは、子どもたちにも伝えたい旭山動物園のエピソードをひとつご紹介します!
子犬と間違われ捨てられたキタキツネの「なる」
キタキツネの「なる」は、2020年春生まれの4歳(私の息子と同い年…!)。
生まれて間もない5月に、段ボール箱に入って捨てられているところを近隣住民に発見されました。
拾った方は子犬だと思い、自宅で飼おうと育てていたそうです。
しかし、だんだん成長するとともに容姿がキツネに似てきて…
旭山動物園に相談に行ったところ、子犬ではなく「子ギツネ」であることが発覚した…というワケ。
その日から、なるくんは旭山動物園の一員になりました。
「なる」の事例が教えてくれること
段ボールに入れて捨てられていたということは、旭山動物園に連れてきてくれた人の前にも誰かが拾って再び捨てたということ。
もしかしたらその人も、子犬だと思って拾ったけど何か違うと感じて捨てて(自然に返して?)しまったのかもしれません。
実は子ギツネの見た目は子犬にそっくりで、捨て犬だと思って拾ってしまう人も多いそうです。
(キツネはイヌ科に属しているので、見た目が似ているんですよ)
★子犬に見えちゃう子ギツネはこんな感じ!
▼「は~い、眼の検査中です!」かわいすぎるよ、子ギツネちゃん!
皆さんもご存じのように、北海道では札幌の街中であってもキツネが道路を横断する姿が珍しくありません。
▼威嚇するキツネ!札幌都心部の住宅街にも出没…駆除は難しい?専門家に聞く対策のイマ
春はキタキツネにとって子育てのシーズンであり、母親はより多くのエサを求めて活動的になります。
その結果、道路を横断する際に「ロードキル」に遭ってしまったり、どこかで駆除されてしまったりして、愛する子どもたちのもとへ戻れないケースがあるのです。
そうすると、残された子どもたちはどうなるのか…。
母親を待ちながら巣穴の中で餓死してしまうか、天敵に襲われるか…。
もしくは今回のエピソードのように、どこかに出てきたところを人間に拾われることがあるのだそうです。
もしかしたらなるくんのお母さんも、巣穴に戻れない事情があったのかもしれませんね。
ただ見るだけでは、「なんだ、どこにでもいるキタキツネか」となるかもしれませんが、このような事例があることを、今生きている命を守りながらしっかりと伝えていく。
それも旭山動物園が担う使命のひとつです。
キタキツネのなるくんは、東門に近い「北海道小動物コーナー」にいます!
旭山動物園にお越しの際は、ぜひなるくんに会いに行ってみてくださいね。
旭山動物園の3つの特色を解説!
旭山動物園は、一般的な動物園とはちょっと違います。
その理由は動物たちの命の尊さを伝えていく活動に力を入れているから。
「伝えるのは、命」という旭山動物園の理念をとても大事にしています。
「旭山動物園の使命」は次の4つです。(旭山動物園HPより)
1、レクリエーションの場
2、教育の場
3、自然保護の場
4、調査・研究の場
動物たちを見て楽しむだけでなく、しっかりと学んでもらい自然保護につなげていく。
それが旭山動物園の使命なのです。
そんな旭山動物園には「3つの特色」があります!
①「やっかいもの」だって生きる環境が必要
旭山動物園の特色の一つ目は、「保全活動のプラットフォーム」を目指していること。
「生物の多様性」や「動物種の保全」なんて言葉はここ最近はよく聞くようになったかもしれません。
外来生物が増えれば、本来の生態系に大きな影響を及ぼします。
元々その地域にいたはずの在来種が激減してしまい、絶滅の危機に瀕してしまうことも…
しかしながら外来生物だって、元々は人間が持ち込んでしまったケースが多いのが現状。
農作物の被害や、人や車との事故でニュースになるような野生動物たちにも、やむにやまれず人と接触してしまう事情もあります。
“勝手に”、邪魔者扱いされているそんな動物たちにも、それぞれ生きていくための環境が必要です。
旭山動物園では、こういった動物たちを捕獲するだけでなく、しっかりと調査・研究を行い、対策を進めています。
②動物たちの習性を活かした行動展示
旭山動物園の2つ目の特色は「行動展示」です。旭山動物園の全国人気を高めた一番の理由といってもいいかもしれません。
行動展示とは、動物たちが持つ特徴的な能力や行動、感性を発揮できる環境を作り、それを見せる展示方法のこと。
ただただ檻の中に入れて「見せ物」のように展示するのではなく、来園者に動物たちの素晴らしさをより感じてもらえるようにと考案されたそうです。
動物たちのことを知り尽くした飼育スタッフが工夫を凝らして作り上げた展示に、ぜひ注目してみてくださいね。
③動物園で地球一周の旅!?地球環境を考えるきっかけにも
旭山動物園の3つ目の特色は…動物たちを見ながら地球一周の旅ができること!?
動物園は、アジア圏だけでなく、北極や南極、アフリカ、アマゾンなど、世界中のさまざまな地域で暮らしている動物たちに出会える場所です。
つまり、世界各地の動物たちを見ながら旅をしているようなもの。
そう考えたら、よりワクワクしませんか?
元々その動物がいた場所はどんな地域でどんな環境なのか…少しでも考えるきっかけになれば、想像力が豊かになれそうですよね。
地球全体で考えてみると、人類が文明を築いた約8000年前と比べて、現在は原生林の8割が失われてしまったそうです。
長い期間をかけて地球の環境も大きく変化し、人類が爆発的に増えていきました。
そんな中、一番影響を受けてきたのは森に住む動物たちです。
旭山動物園は、そんな動物たちと来園者をつなぐ架け橋ともいえる大切な場所。
地球環境のことも考えながら動物たちを見ていくと、また新しい発見があるかもしれません。
飼育スタッフお手製の手書きパネルには、旭山動物園の想いがぎっしりと込められています。
ぜひひとつひとつ目を通しながら、動物たちを観察してみてくださいね。
旭山動物園を募金で応援!【あさひやま“もっと夢”基金】
旭山動物園では2007年に「あさひやま“もっと夢”基金」やサポーター制度を設立し、施設の整備費用や新しい動物を迎える費用に充てています。
2024年3月現在で、これまで集まった募金額の合計は、なんと約29億円!
2022年にオープンした「えぞひぐま館」や2012年にできた「北海道産動物舎」もこの寄付金によって建てられました。
動物たちが快適に暮らせるように施設を整備するだけでなく、絶滅危機にある動物たちを繁殖し、動物種の保存を考えていくことも旭山動物園の重要な役割のひとつです。
微力ながら私も、旭山動物園の動物たちが豊かに暮らしていけるように願いを込めて、4歳の息子と一緒に募金しました。
第2こども牧場の近くには、旭山動物園で活躍していた動物たちが眠るどうぶつ慰霊碑も。
2023年度には、22頭の動物たちが亡くなりました。
慰霊碑の近くには、亡くなった動物たちがパネルで紹介されています。
きちんと死因を追及し公開しているところも、旭山動物園らしいなと感じました。
旭山動物園を訪れた際には、今は亡き動物たちにも思いを馳せ、そっと手を合わせてみてはいかがでしょうか。
動物たちのことを正しく知り、命の尊さを学ぼう!
今回は後編として、命の尊さを伝える旭山動物園の魅力についてご紹介しました。
旭山動物園では「伝えるのは、命」という理念を掲げ、自然保護活動にも力を入れています。
動物園は、遠足や家族のお出かけの定番スポット。旭山動物園はさらに全国的にも有名な観光スポットでもあります。
だけど、「可愛い動物たちを見て楽しむ場所」だけにしておくだけじゃ本当にもったいない!
ぜひ動物たちの生態や、本来暮らしている場所の環境や現状などなど…もっと深く、たくさん、知ることのできる場所としてもっともっと楽しんでいただけたら幸いです。
ぜひ子どもたちと一緒に、旭山動物園を満喫してくださいね!
【旭山動物園】
〈入園料〉
大人1,000円(旭川市民は700円)/中学生以下は無料
〈2024年の開園時間〉
冬期(11/11〜12/29):10時30分〜15時30分(最終入園15時)
年末年始休園日:12/30〜1/1
〈2025年の開園時間〉
冬期(1/2〜4/7):10時30分〜15時30分(最終入園15時)
夏期(4/26〜10/15):9時30分〜17時15分(最終入園16時)
夏期(10/16〜11/3):9時30分〜16時30分(最終入園16時)
冬期(11/11〜12/29):10時30分〜15時30分(最終入園15時)
〈2025年の特別開園期間〉
2/8~2/10:10時30分~20時30分(最終入園20時)
8/10〜8/16:9時30分〜21時00分(最終入園20時)
所在地:〒078-8205 北海道旭川市東旭川町倉沼11-18
電話番号:0166-36-1104
アクセス:旭川駅から路線バスで約40分/札幌中心部から車で約2時間
公式HP:https://www.city.asahikawa.hokkaido.jp/asahiyamazoo/
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文:MERI
1991年生まれ、1児の母。東京都出身、2016年より北海道に移住し現在は安平町在住。
牛と馬の産業動物獣医師として勤務したのち、ライター&カメラマンに転身。動物やペットに関する記事を多数執筆。大学時代には馬の飼養管理を担当しながらアニマルセラピーの研究を行う。動物に関する豊富な知識と経験を生かし、動物とのふれあいを積極的に取り入れる子育てを実践中。
編集:Sitakke編集部あい