発電する細胞が作れるかも? <デンキウナギ>の発電器官から未分化様の細胞が見つかる
発電する生物といえばデンキウナギを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
デンキウナギの発電は「膜電位」と呼ばれる仕組みを増強したものと考えられているものの、実際に細胞がどのような遺伝子の働きで発電細胞へ変化し、高電圧の放電を可能にしているかは謎に包まれています。
名古屋大学大学院生命農学研究科は東京科学大学とプリンス・オブ・ソンクラー大学の共同研究で、デンキウナギの発電器官に存在する未分化様の細胞集団を新たに発見しました。
この研究成果は『Developmental Biology』に掲載されています(論文タイトル:Ventral-to-dorsal electrocyte development in electric organs of electric eel (Electrophorus ))。
発電する魚「デンキウナギ」
発電する魚はシビレエイやデンキナマズなどがいますが、一番有名なのはデンキウナギではないでしょうか。
南米に生息するこの大型魚は最大全長2.5メートルにもなります。
名前に“ウナギ”と付くものの、ギュムノートゥス科デンキウナギ属という全く別のグループに属しています。
本種は地球上でも強力な発電生物であり、記録された最大電圧は860ボルト。19世紀に馬をも気絶させる魚としてフンボルトの自著で紹介され、世界中に知られるようになりました。
あのダーウィンも、自著の『種の起源』の中で学説の適用が難しい生物群の一つに発電生物を挙げているようです。
デンキウナギが発電する仕組み
デンキウナギは現代に至るまで、多くの人々から知られる存在でありながら謎も多く、本種の大きな特徴である発電にも未知の部分が多いようです。
発電の原理としては、我々を含むすべての動物細胞が持つ膜電位と呼ばれる仕組みを増強したものとされ、発電細胞が連続して並ぶことで電池の直列繋ぎと似た仕組みを作り、高電圧の放電を可能にしていると考えられています。
このように放電する発電細胞の“かたち”が明らかになっている一方、細胞がどのようにして発電細胞へ変化し、高電圧の放電を可能にしているのかはまだ分かっていません。そして、発電細胞の“できかた”を制御する遺伝子情報が分かれば、発電する哺乳類細胞を人工的に作り出すことも夢ではないといいます。
デンキウナギの研究
そんななか、名古屋大学大学院生命農学研究科の研究チームは東京科学大学とタイにあるプリンス・オブ・ソンクラー大学との共同研究で、デンキウナギの発電細胞の顕微鏡観察を行いました。
この研究ではデンキウナギの組織標本を作成。発電器官に相当する領域を徹底的に顕微鏡観察を行った結果、発電器官の領域の腹側末端部分に単核細胞で構成された細胞集団が発見されました。
さらに、この細胞集団から成熟した発電細胞までは連続的に遷移しており、発電細胞の前駆細胞(細胞が分化する前の状態)を含むと推測されています。
人工的に発電細胞が作れるかもしれない?
今回の研究では、デンキウナギの発電器官の顕微鏡観察から未分化状態にある細胞集団が発見されました。
今後、この細胞で働いている遺伝子を調べることにより発電細胞の“できかた”が解明され、人工的に発電器官を作り出すことが可能になるかもしれないといいます。
将来は発電する哺乳類が登場するかもしれませんね。
(サカナト編集部)