発達障害の特性のある子の“きょうだい児”への支援【保護者や周りができること】〔言語聴覚士/社会福祉士〕が解説
発達障害の特性のある子を兄弟姉妹に持つ子ども(きょうだい児)への支援について【後編〜保護者や周りができること〜】 言語聴覚士・社会福祉士の原哲也先生が解説。
【画像で見る】日本で約1700万人、約14%もいるとされている「境界知能(知的ボーダー)」の人々。発達障害や発達特性のあるお子さんと保護者の方の関わりについて、言語聴覚士・社会福祉士であり、一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表として、発達障害のお子さんの療育とご家族の支援に長く携わってきた原哲也先生が解説します。
発達障害の特性のある子の「きょうだい児」への支援─後編
発達障害の特性のある子を兄弟姉妹に持つ子ども「きょうだい児」について、前回は、きょうだい児の「タイプ」と、どのタイプの子もストレスや不安を感じており、周囲の理解と配慮が必要であることをお話ししました。
今回は、そのようなきょうだい児への支援について考えます。
1.きょうだい児の心情
きょうだい児は幼少期から「世の中は自分の思いどおりにはならない」と感じています。
例えば、発達障害の特性のある兄弟姉妹と遊びたくても意思疎通が難しくて遊べない、母親に甘えたくても母親は発達障害の特性のある兄弟姉妹のことで精いっぱいで甘えられない、などです。
このような経験が度重なる中で、きょうだい児は比較的幼いころから「わがままを言ってはいけない」「周りの人が望むように行動しなくてはならない」と思うようになりがちです。
これは早くに大人になった、成長したのだととらえられなくもありませんが、そこに大きなストレスがあることは間違いありません。
各種の調査では、きょうだい児には自己主張をあまりしない、自己卑下といった性格傾向への影響が見られること、周囲への過剰適応の傾向があること、そして、これらの傾向は社会生活への不適応、心身の不調などにつながる可能性があることが言われています。
だとすればきょうだい児には、適切な支援が必要なのです。
参考 「障害のある児のきょうだいに関する研究の動向と支援のあり方」2009 川上あずさ 小児保健研究 68(5) P583-589.
2.きょうだい児が求めているものと支援
以下、きょうだい児がどういう心情にあり何を求めているのか、それに対してどのような支援ができるかを考えてみたいと思います。
(1)養育者との関わりがほしい
きょうだい児は家庭の事情を理解しているので、養育者に甘えたり、自分への注目を求めたい気持ちを抑えることがよくあります。しかし、きょうだい児も愛情を求める子どもです。養育者はそのことを忘れないでほしいのです。
そして何とかして、きょうだい児と二人きりで向き合う時間を作ってください。長時間でなくてもいいのです。毎日10分、1週間に一度はもう少し長く、など、きょうだい児が「今はママと僕だけの時間」「パパが私とだけ遊んでくれる時間」と感じられる時間を保証してあげたいです。
(2)発達障害の特性のある兄弟姉妹のことを知りたい
きょうだい児は、発達障害の特性のある兄弟姉妹と意志疎通をしたい、遊びたいと思っています。それなのに「なんで急に怒るんだろう」「なんでしゃべらないんだろう」などと不思議に思い、なぜそうなのかを知りたいと思っています。
そしてこれらの「理由」を知ることで、きょうだい児が生活しやすく、楽になることも多いです。ですから養育者は、発達障害の特性のある兄弟姉妹について、きょうだい児が疑問を持っていたらそれに答えてあげましょう。
きょうだい児が大きくなってきたら、正しい知識を伝えるという意味で、主治医に協力してもらうのもよいと思います。
周囲の「眼差し」からくるストレスへの対処とは
(3)周囲の「眼差し」からくるストレスに対処したい
きょうだい児は保育園や学校等で、発達障害の特性のある兄弟姉妹がいることで変な目で見られたりからかわれることがあります。
この問題に対処するには、保育園や学校等の関係者の適切なサポートが欠かせません。そのために保育園や学校等の関係者は発達障害について正しい知識を持ち、そのうえで集団における上記のような状況からきょうだい児を守ってほしいのです。
関係者に適切にサポートしてもらうために養育者ができることとして、関係者に養育者から見た「発達障害の特性のある子のよいところを具体的に伝える」ことがあります。例えば、赤ちゃんの世話を誰よりもしてくれる、ケーキを作るとき材料を1グラムも違わずキッチリ計るなど、養育者の目からみた「よいところ」を伝えましょう。
養育者の心からのことばを聞くことで、関係者自身が発達障害の特性のある子の存在をポジティブに受け止められること、また「この子にはこういういいところがある」と具体的なことが頭に入っているのは、「からかい」などに関係者が対処するとき、非常に有効だと思います。
(4)ストレスを発散したい
きょうだい児は発達障害の特性のある兄弟姉妹との生活の中で、過剰適応状態になり、ストレスをため込むことが多くあります。
このようなきょうだい児にとっては、一定時間、家族から離れること、そこで家族以外の人とつながりを持つことがとても大事です。
趣味、クラブ活動、地域のつながりなど、きょうだい児が望むように家庭外での時間や家庭外の人とのつながりを保証してあげたいです。
(5)将来への不安に対処したい
きょうだい児は、自分自身の恋愛や結婚、そして、親なき後のことなど、多くの不安を抱えています。無理もないことです。
きょうだい児の成長につれて、発達障害の特性のある兄弟姉妹の特性や将来の支援体制についてきちんと話をすることはとても大切です。
ただ、現在の生活に精いっぱいで、養育者自体、将来のことについては情報不足であることも多いと思います。きょうだい児の不安に応えるという意味からも、児童発達支援事業所や児童発達支援センターの専門職、自治体の福祉担当課、通院している病院の医療ソーシャルワーカーや「親の会」などに相談することで情報を得て、将来のことを考えておくことは大事です。
また、養育者がそう思うのであれば、「きょうだい児自身の人生をしっかり歩んでほしい」と伝えることもきょうだい児の支えになると思います。
3.きょうだい児と家族のプログラム
最後に、①きょうだい児の、発達障害特性のある兄弟姉妹への否定的感情の低減、②親子関係の安定を目的とするプログラムをひとつご紹介します。
このプログラムには発達障害の特性のある子、親、きょうだい児(小学校1年から中学3年生)が参加し、親ときょうだい児はグループに分かれ、6回にわたって以下のようなテーマで活動や意見交換をしました。
●親子でも打ち解けゲーム
●自己紹介
●自分について話す
●家族自慢
●障害の理解
●きょうだい児の友だち関係における悩みについての意見交換
●自分の友だちに発達障害の特性のある兄弟姉妹のことを聞かれたら、どう伝えるか
●親にわかってほしいこと
●親への手紙を書く
●将来の夢と自分を助けてくれる人について
●きょうだい児の訴える不公平感についての事例にもとづく意見交換
●親同士や子どものよいところを見つけるエクササイズ
●きょうだい児からもらった手紙の感想を話し合う
このプログラムの実施後、たしかに、きょうだい児の発達障害特性のある子への否定的感情が低減し、親子関係が安定する傾向がみられたといいます。このような実践が拡がることを強く望みます。
参考文献 「障害のある子どものきょうだいとその家族のための支援プログラムの開発に関する実践的研究」阿部 美穂子・神名 昌子 特殊教育学研究2015年52巻5号 P349-358
最後に
きょうだい児の支援への取り組みは地域差がかなりあり、支援がまだまだ不十分な地域もあります。
しかし、きょうだい児の人生もまた、1回だけの大切な人生です。きょうだい児が自分らしく生きられるよう、養育者、支援者は彼らを応援したいものです。
そのためには、まずは、きょうだい児が置かれている状況、すなわち、きょうだい児の心情や周囲との関係に意識を向けることから出発しましょう。
そして、きょうだい児が自分らしさをみつけ、自分らしい人生を築くことができるよう、きょうだい児と周囲の人々、すなわち、発達障害特性のある兄弟姉妹、養育者、友だちや先生、社会で出会う人々との関係がよりよいものになるように、働きかけていきたいものです。
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今回は「発達障害の特性のある子どもを育てる家族への支援」の中から、「きょうだい児」の支援について、原哲也先生に解説していただきました。
次回(第18回)では、発達障害の特性のある子どもを育てる「祖父母」のストレス支援について、具体的に教えていただきます。
原哲也
一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表理事・言語聴覚士・社会福祉士。
1966年生まれ、明治学院大学社会学部福祉学科卒業後、国立身体障害者リハビリテーションセンター学院・聴能言語専門職員養成課程修了。カナダ、東京、長野の障害児施設などで勤務。
2015年10月に、「発達障害のある子の家族を幸せにする」ことを志し、長野県諏訪市に、一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN、児童発達支援事業所WAKUWAKUすたじおを設立。幼児期の療育、家族の相談に携わり、これまでに5000件以上の相談に対応。
著書に『発達障害の子の療育が全部わかる本』(講談社)、『発達障害のある子と家族が幸せになる方法~コミュニケーションが変わると子どもが育つ』(学苑社)などがある。
「発達障害の子の療育が全部わかる本」原哲也/著
わが子が発達障害かもしれないと知ったとき、多くの方は「何をどうしたらいいのかわからない」と戸惑います。この本は、そうした保護者に向けて、18歳までの療育期を中心に、乳幼児期から生涯にわたって発達障害のある子に必要な情報を掲載しています。必要な支援を受けるためにも参考になる一冊です。