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5年ぶりに開催された「超宴2024」で垣間見たヤッホーブルーイングがクラフトビールファンに愛される理由

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5年ぶりに開催された「超宴2024」で垣間見た ヤッホーブルーイングがクラフトビールファンに愛される理由

この日を、どれほど多くの人が待っていたであろう。コロナ禍で中止されていたヤッホーブルーイングの超宴が、さる5月25日(土曜日)~26日(日曜日)の二日間にわたり、同ブルワリーのおひざ元である軽井沢で開催され、会場に詰め掛けた約1000人のファンが酔いしれた。そして、他のビアフェスに比べ際立っているのが、参加者の熱量の高さだ。ヤッホーブルーイングが、どうしてここまでファンを熱くさせるのか──。超宴に、その秘密を垣間見た。

ファンの多さは企業の魅力のバロメーター

つい先ごろ、広告代理店に勤務する友人から、「お前もよく知っているんじゃない、このヤッホーって」とある大手マーケティング会社の資料を渡された。そこには「熱烈なファンを獲得している日本の企業」と題されたページがあり、そのトップに「ヤッホーブルーイング(長野県)」と記されていた。

以前ヤッホーブルーイングでイベントの企画、立案をする同社のじゅんじゅんこと佐藤潤さんの著書「ヤッホーとファンたちとの全仕事」を紹介した際、ヤッホーブルーイングがファンの心を惹きつけて放さない理由として「予想を裏切り期待を裏切らないブルワリー」であると記した。

[https://www.winekingdom.co.jp/bk/17467370]

よく知られたブランドであればあるほど、そのアイデンティティによって、世の人々はそのブランド(メーカー)の「らしさ」を認識する。しかし、それは時として“まんねり”と受けとらわれかねない。らしさを醸し出しながら絶えず新たなる「驚き」も併せ持っていなければならないのだ。ヤッホーブルーイングの発信には、何かしらの驚きが必ずある。今回の「超宴2024」もしかり、であった。

5年ぶりの「乾杯!」に、会場のボルテージも上がる

スタッフ自身が心底イベントを楽しむことによって生まれる空気感

「超宴2024」当日は、神様が祝福したかのような快晴。青々とした澄みきった空に、軽井沢の初夏の新緑がよく映える。時よりそよぐ高原の涼風が、なんとも心地よい。

「超宴2024」で接した驚きはふたつあった。ひとつはスタッフの参加者への対応。会場となった北軽井沢スイートグラスには全社員の7割以上に当たる約160名スタッフが参集しているとのことであった。もちろん、受付やなんだと持ち場を離れられない人もいたと思うが、少なくともメイン会場に入っているスタッフは、誰彼かまわず話しかけ、すぐにビール談義、軽井沢談義に花を咲かす。それは“仕事”としてではなく、紛う方なき一人のビールファンとしての姿であった。“仕事”として「超宴2024」に参加した“客”に接するならば、こうも自然な立ち居振る舞いを、全スタッフができるわけはない。

「実はそこが一番不安でした」とは「超宴2024」の責任者であるハラケンこと原謙太郎さん。

「ヤッホーのファンイベントというと、毎回熱心なファンで溢れるというイメージをお持ちの方も多いと思いますが、実は初めての方が半分くらいいらっしゃるんです。そのため、マニュアルとして『お客様に積極的に声をかける』と記すことも検討しましたが、スタッフの中には人見知りもいれば、恥ずかしがり屋もいます。そうしたスタッフがマニュアルにあるからとお客さまにお声がけしても、どこかぎこちない対応になってしまいますから」確かに。そうした際の人のセンサーは、敏感働くものだ。

「誤解を恐れずに言うならば、スタッフは主催者としてお客様をもてなす、という意識よりもお客様と一緒に楽しみたい、という意識が強いのだと思います」

巷ではビジネスの鉄則として「まずは自分が楽しめ」と言われることも少なくないが、実はまじめに取り組んでいる人ほど、その難しさを痛感しているに違いない。それを、スタッフ全員がものの見事に実践しているのだから恐れ入る。

入口に設置されたよなよなエールのトンネル。アトラクション気分満載だ
ステージで繰り広げられるミュージシャンたちのパフォーマンスも超宴の魅力
会場には登場した酵母くん。ほか、麦芽ちゃんやホップくんも。みな、記念撮影には順番待ちの列ができるほど人気
お話をうかがった超宴の企画運営者であるヤッホーブルーイングのハラケンさん(左)とジュンジュンさん
代表のてんちょこと井手直行さんもみずからステージに立って、超宴を盛り上げる

ビールが「麦酒」であることを改めて気づかせてくれた限定ビール

もうひとつの驚きが、「月の生活会員限定ビール」として会場で振舞われた『パイナップルIPA』だ。これは、同ブルワリーの定期購入サイトである「よなよな月の生活」の会員と共同開発されたビール。会員から寄せられた「特別な原材料を使ったビールを記念日に飲みたい」、「華やかでフルーティなものがいい」などの声に対し「それでは、夏らしいパイナップルを使ってみよう!」となった。担当したブルワーは、ピーピーこと片岡紗羅さん。ピーピーさんは、日本酒蔵への就職が決まっていたが、卒業旅行で訪れたドイツでビールのおいしさ、楽しさに開眼し、勢い就職先をヤッホーブルーイングに切り替えたという、筋金入りのビールファンだ。

「端緒は、ホップでパイナップルの香りを演出することも考えましたが、それでは、アンケートにあった『記念日に飲むための特別な原材料を使ったビール』にも『華やかなフルーティなビール』にもならないと考え、パイナップの果汁とピュレを組み合わせて使うことにしました」

果たして、その狙い通りにパイナップルの風味豊かなフルーツIPAが誕生した。しかしこのビールの白眉は、パイナップルの存在感に頼ることなく、モルトの旨味や酵母の香りもしっかりとバランスさせていることだ。

反論覚悟で申し上げるならば、昨今はホップ偏重のビールが多いような気がする。もちろん「ホップはビールの魂」という喩えがあるように、ホップはビールの個性を左右する重要な原料である。そのこと自体に異論はない。しかし、ビールは「麦酒」であり、酵母が麦汁の糖分をアルコールと二酸化炭素に分解することでできる。前者の理由、後者の存在が蔑ろにされていいはずがない。このパイナップルIPAは、モルトの旨味でビール自体のボディを形成し、酵母の醸すエステルも、アクセントとしてしっかり織り込まれている。そうした両者に対する造り手のオマージュが、なんとも心地よい。

安易にパイナップルの香りをホップで醸すことはせず、大量の果汁を使用し、さらに酸味や甘味をベストな状態に仕上げるために、あえてろ過層のメッシュが詰まるというリスクを負ってでもピュレを使用するという気概も、まさに「王道のビールを造り続ける」という、ヤッホーブルーイングの真骨頂である。

そして嬉しいニュースが先週飛び込んできた。この「パイナップルIPA」の販売が「月の生活」限定ではあるが、開始されることになった(6月末~11月までの予定)。ぜひ、ご賞味いただきたい。

よなよな月の生活(ECサイト)
[https://yonasato.com/ec/subscription/]

パイナップルIPAを開発したブルワーのピーピーこと片岡沙羅さん。会場では自らタップの前に立ち、参加者に振舞っていました

来年は2weeksでの開催も検討

このように、参加した人には必ず「嬉しい驚き」が待っている超宴だが、実は大きな問題も抱えている。それが参加チケットの競争率がひじょうに高いこと。「超宴2024」では、2倍を超える抽選倍率となってしまったことだ。

「本当にありがたい話です。しかし、会場のスペースや公共交通機関のキャパを考慮すると、規模を拡大することは難しい現状です。一方で、応募をいただいた多くの方々にお断りのご連絡をするのも、また忍びないことです。もし来年も多くのファンの方々がお越しいただけるようであれば、2週に分けての開催も検討したいと思っています」(原さん)

もし、2週に分けての開催が実現すれば、単純に参加人数は倍になる。一人でも多くの方に、この最強のビアフェスである「超宴」を体験してもらうためにも、ぜひ実現していただきたい。

会場となる北軽井沢スウィートグラスにはコテージも用意されているので、ぜひ宿泊し満天の星空と澄み切った空気もお楽しみいただきたい

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