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角野隼斗、自身初の日本武道館単独公演で13000人の観客を魅了! 20代最後の誕生日に歴史刻む

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(C)Ryuya Amao

クラシックの枠にとらわれない演奏活動で活躍中の角野隼斗(かてぃん)の、自身初となる日本武道館単独ライブが2024年7月14日(日)に行われた。

動員数は、日本武道館におけるピアニストの単独公演として史上最高となる13000人を記録(主催調べ)。会場外に設置されたグッズ売り場には人だかりができており、開演前からお祭りムードだ。そう、この日、7月14日は角野の誕生日。29歳、つまり20代最後の誕生日であり、角野にとっても、また会場に詰めかけたファンたちにとっても忘れられない日となっただろう。

(C)Ryuya Amao

角野の登場をいまかいまかと待ち構えていた万雷の拍手に迎えられて角野が登場。オープニングを飾ったのは、ショパン「スケルツォ」第1番、「ワルツ」第14番、「練習曲」作品25-11《木枯らし》の3曲。楽器をたっぷりと鳴らし、一気に客席を惹きつけた。

今日のプログラムは、角野にとってこれまで歩みを振り返る選曲だという。冒頭の3曲については「小学生の頃から弾いている曲」と紹介。角野の早熟さにざわめく会場に、角野が驚くという一コマも見られた。

また、この日は360度を客席に囲まれたセンターステージ。曲を終えた角野が「『自分の席からは背中しか見えない、手元が見えない』と思っている方も安心してください。このステージは回転して360度全角度でご覧いただけます」と告げると、なんと盆が回転。粋なはからいに会場から小さく歓声があがった。

センターステージ上部には映像も映し出され、表情や手元までしっかりと見える (C)Ryuya Amao

続いては24の調による《トルコ行進曲》。ご存知、モーツァルト《トルコ行進曲》を、角野が短調、長調合わせた西洋音楽の24すべての調にアレンジ。自由なハーモニーやリズムが展開され、照明も転調するごとに赤、青、黄色と変化し、耳も目も楽しめるステージとなった。

リストの《ハンガリー狂詩曲》第2番では、中間部に内部奏法を用いたアレンジが入り、会場が息を呑む。ピアノの弦をタオルで押さえ響きを消し去るほか、マレットで直接弦をたたいて音に大きな広がりをつくり、より一層ミステリアスな雰囲気が加わった。リストを超越して、角野のセンスに引き込まれた瞬間だった。

10月30日に、ソニー・クラシカルから発売される角野の世界デビュー・アルバム「Human Universe」からも、4曲が初披露。このアルバムは、古代ギリシャの人々は宇宙にも音楽が存在していると信じ、それを探し求めたという逸話に想いをはせながら制作したという。

(C)Ryuya Amao

アルバム・タイトルにもなっている《Human Universe》は角野の自作曲。バロック風ななつかしい曲想から始まり、次第にさまざまな感情を想起させ、まるで人間のもつ複雑性に迫るかのような展開。結びは冒頭の温かい雰囲気に回帰し、静かに曲が終わと会場からはため息がもれ、静かな拍手に包まれた。

後半の冒頭はYouTubeライブでも同時配信。角野はトイピアノを持って登場。ステージ上にトイピアノを直に置き、自身も床に座る。《キューピー3分クッキング》のテーマを奏でだすと、客席からは小さく笑い声がこぼれた。曲が展開し、ガーシュイン《ラプソディ・イン・ブルー》へと移り変わり、角野は小さなトイピアノで武道館を多幸感で満たした。

「実は前半、セミが僕の背中にくっついていたみたいで……。いすに座ったときに何か飛んでいったのが見えたんですけど……(笑)」(角野)

このエピソードに笑いとどよめきで満たされる客席。リラックスした雰囲気のなかで、《パリのアメリカ人》《I got rhythm》から、この日角野が自宅から持ち込んだスタインウェイ、前板を外したアップライトピアノ、2台のシンセサイザーを使ってのアレンジメドレーが始まった。ラヴェル《亡き王女のためのパヴァーヌ》、カプースチン「8つのエチュード」から《トッカティーナ》、J.S.バッハ「インベンション」13番へと、自由に変化する。最後に角野の自作曲《胎動》で終着させたメドレーは、旋律、リズム、ハーモニーのアレンジはもちろん、ミニマル・ミュージック風に変容したりと、さまざまなテイストで足しめるアレンジメドレーで、角野の音楽性の多彩さを改めて感じさせた。

「せっかく武道館にいるので、YouTubeライブでもしようと思って」と配信をスタート。演奏の模様はアーカイブが残されている。 (C)Ryuya Amao

続いての角野の自作曲《追憶》は、ポーランド・ワルシャワの郊外にある公園で、ショパン「バラード」2番をモチーフに生まれた曲だという。シンセサイザーとアップライトピアノのハーモニーから「バラード」2番の冒頭が立ち現れ展開する。最後はスタインウェイから「協奏曲第1番」の一フレーズが浮かび上がり、しっとりと終えた。

《3つのノクターン》も角野の自作曲。現在、世界中を旅するなかで、世界中のさまざま夜空にインスピレーションを受けて作った曲だという。コンサートホールとは異なる、開放的でリラックスした雰囲気のなか、さらにこの公演では立体音響が使用されており、角野の音に浸ることができた。

コンサートのラストを飾ったのは、国内ツアーでも好評だったラヴェル《ボレロ》。アップライトの手元を照らすライトを残し、すべての照明が落とされ会場に、ボレロのあのリズムが響く。同じ旋律を繰り返し演奏するこの曲だが、角野は楽器、音色、リズム、旋律をアレンジし、最後まで飽きさせない。アップライトの素朴な音色から始まった音楽が、スタインウェイのどっしりしたスケール感にまで膨張すると、弦をタオルで押さえ、マレットを用いた内部奏法が繰り出される。ステージは真っ赤な照明になり、ステージが回転。クライマックスを迎えると、客席からはせきを切ったような拍手とどよめきが起こった。

(C)Ryuya Amao

なかなか鳴り止まない拍手に応え、ジャケットにTシャツというラフなスタイルで再登場した角野。シンセサイザーとアップライト・ピアノでJ.S.バッハ《主よ、人の望みの喜びよ》を愛情あふれるタッチで演奏した。

「今日という日を武道館で迎えることができてうれしいです。僕が音楽家になることを決意したのは遅く、このスタインウェイを購入したのも2020年。ちょうどコロナ禍で、YouTubeライブを始めました。まさか武道館で演奏できるなんで思いもしなかったです。このスタインウェイもそう思っていると思います(笑)。今、僕の目の前には想像もしていなかった景色が開けていて、それを皆さんにも届けたいと思います。これからも応援よろしくお願いします」(角野)

会場からの「お誕生日おめでとう」の歓声にこたえ、《Happy Birthday To You》を、客席の歌声と一緒に奏でた。グリッサンドを経て、ショパン《英雄ポロネーズ》へと移り変わる。華やかな祝福のムードに包まれ、スタンディングオベーションが巻き起こった。

(C)Ryuya Amao

なお、この日のライブはWOWOWにて9月1日(日)に独占放送・配信されることが決定。20代最後の誕生日に奏でた一夜限りのパフォーマンスに加え、「スペシャルエディション」として、ここでしか見られない貴重なメイキング映像も放送される予定だ。

拍手を受けながらスタインウェイに「THANK YOU」とサインを書いた角野。今日という日が、忘れられない一夜として観客にも角野自身にも大きく刻み込まれたことだろう。

取材・文=東ゆか

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