ラーメン、天津飯、餃子&ライス…中国人も驚く日本の中華料理 【中国語!ナビ】
『中国語!ナビ 6月号』の人気連載「中国語あるある・なぜなぜ」では、明治大学教授の加藤徹先生が、中国語を通じて中国の歴史や文化、社会的背景などを紹介しています。
今回のテーマは「中国の料理の名前」。日本の町中華では当たり前のラーメン、天津飯、餃子&ライスセットですが、中国人にとって、実はなじみがないメニューだとか。それは「なぜなぜ」?
今から二千年前の漢文の歴史書『漢書』の言葉、
民以食为天 mín yǐ shí wéi tiān
は、現代中国語でもそのままことわざとして使います。漢文訓読で読み下すと「民は食を以て天と為す」。人民にとって食事は天のように大切だ、という意味です。
国土が広く食材の種類も豊富な中国は、古来、料理が発達してきました。中国人は情熱と才知を食文化に惜しみなく注いできました。
日本の中国料理は3種類あります。一つは、中国起源ではあるけれど日本人向けに味や食材や調理法をアレンジしたもの。もう一つは、在日中国人が中国人のために作るいわゆる「ガチ中華」。三つめは、日本人が創作した中国風の料理で中国には存在しないもの。
例えば「天津飯」や「中華丼」は、名前こそ中国風ですが、実は近代の日本人がはじめた日本発祥の料理です。ちなみに「ナポリタン」「トルコライス」「シベリア(お菓子)」も日本発祥の食べ物で、それぞれ、イタリアやトルコ、ロシアにはありません。
日本のいわゆる「中華料理」の大半は、「ガチ中華」を除いて、日本人好みの味にアレンジした料理です。例えば、日本風にアレンジした、
拉面lāmiàn ラーメン
饺子jiǎozi ギョウザ
炒饭chǎofàn チャーハン
回锅肉huíguōròu ホイコーロー
麻婆豆腐mápódòufu 麻婆豆腐
担担面dàndànmiàn タンタン麺
を食べた中国人は、「ガチ中華」と味わいが違うので「え?」と驚きます。
ラーメンという日本名の由来は「拉麺」説が有力ですが、「老麺」説や「柳麺」説もあります。日本のラーメンは、製法も風味も中国の“拉面”とは違う別の料理です。ラーメンの麺は「かんすい」を使いシコシコしたコシのある食感があります。中国の“拉面”の麺はコシがなく柔らかい。スープや具材も、全然違います。
日本のラーメンは世界的に有名です。外国にも日本風のラーメンを提供する店は多い。“拉面”の本場である中国でも、
日式拉面rìshì lāmiàn 日本風ラーメン
のチェーン店が存在するほど、人気があります。
さて、中国の料理名には「作り方を表す動詞+ 食材を表す名詞」という組み合わせが多い。“拉面”もこれで、“拉”は「引っ張る」という意味の動詞、“面”(「麺」の簡体字)は「穀物の粉」という意味の名詞です。
中国語の“面”の原義は「穀物をウスなどでひいて粉にしたもの」です。“白面”báimiànつまり小麦粉(メリケン粉)はもちろん、トウモロコシの粉“玉米面”yùmǐmiànや、ハダカエンバク(裸燕麦)の粉“莜面”yóumiànなど、多種多様な“麺”の料理があります。
日本語の「麺」は、もっぱら、そばやうどんのようなひも状の食べ物を指します。これに対して「粉もの」という日本語は、たこ焼きやお好み焼き、すいとんなど、麺類以外の小麦粉を使った料理も指します。中国語“面食”miànshíは「粉もの」の意で、麺類に限りません。
話を“拉面”に戻すと、これは熟練した料理人が、小麦粉をねったかたまりを両手で左右に引っ張り、まるであやとりのように、きれいなひも状に伸ばして作ります。この他にも、中国ではさまざまな麺類があります。例えば、
挂面guàmiàn 掛けて干した麺
抻面chēnmiàn 両手で細長く引き伸ばす手延べ麺
切面qiēmiàn 包丁で切りそろえる麺
刀削面dāoxiāomiàn 刀でそぎおとして作る麺
その他です。“拉面”や“刀削面”は熟練した職人技の麺ですが、“抻面”や“切面”は家庭でも手作りできる麺です。“挂面”は店で買ってきて自宅でゆでて食べる乾麺で、太さはそうめんからうどんまでさまざまです。
中国は、温暖湿潤な気候の南部は水田稲作が盛んで米が主食ですが、冷涼で雨が少ない北部では“面食”が中心でした。が、日本人はそんなことを気にせず、どんどん日本風にアレンジしました。
中国の北部の家庭では、“饺子”は家庭料理です。小麦粉を水でねって皮から手作りし、具を皮で包み、鍋にわかしたお湯でゆでて、できたてを食べます。食べきれずに残り、さめてカチカチになった“饺子”は、油で焼いて食べます。これに対して、日本のギョウザ(餃子)は、最初から油で焼いて作るので、来日した中国人は「なんで?」とビックリします。
また日本の「中華料理」の店のメニューには、ラーメンとチャーハンのセット、とか、餃子とライスのセット、などがあり、これも中国人を驚かせます。中国人にとって“饺子”は、おかずである具と主食である皮がセットになった完結した料理です。日本のセットメニューの、米と小麦の組み合わせや、炭水化物の比率の高さに戸惑う中国人もいます。
加藤 徹(かとう・とおる)
明治大学教授。著書に「漢文で知る中国 名言が教える人生の知恵」(NHK出版)、「貝と羊の中国人」(新潮新書)、「日中戦後外交秘史」(新潮新書、共著)、「絵でよむ漢文」(朝日出版社)、「漢文力」(中公文庫)、「本当は危ない『論語』」(NHK出版新書)、「白文攻略 漢文法ひとり学び」(白水社)など。2023年度「まいにち中国語」講師を務めた。
◆『中国語!ナビ』2024年6月号
◆文:加藤徹