【ミリオンヒッツ1994】DEEN「瞳そらさないで」ビーイングの戦略と爽やかイケメン池森秀一
リレー連載【ミリオンヒッツ1994】vol.12
瞳そらさないで / DEEN
▶ 発売:1994年6月22日
▶ 売上枚数:103.8万枚
ビーイング系の“爽やか男子” 担当のDEEN、2度目のミリオン達成
1994年6月22日、ロックバンドDEENによる通算5作目のシングル「瞳そらさないで」が発売された。本作は、大塚製薬『ポカリスエット』のCMソングに起用され、自身初のオリコンチャート1位を獲得、累計も104万枚とデビュー作の「このまま君だけを奪い去りたい」(最高2位、累計129万枚)に続き、自身2度目のミリオンセラーを達成した。
また、これら2作のミリオンヒットを含む4作のヒットシングルを収録したファーストアルバム『DEEN』も同年9月14日に発売。こちらも累計約144万枚と年間8位のミリオンヒットに。しかも、デビュー作のシングルとアルバムが共にミリオンを記録したのは、当時彼らが史上初だったことも大きな話題となった(その後、KinKi Kids、Kiroro、宇多田ヒカル、倉木麻衣、CHEMISTRYらも達成)。
ビーインググループのヒット戦略とは
このようにデビュー当時から彼らがメガヒットを量産した背景には、やはり彼らがレコード会社、マネージメントオフィスとともに、ビーインググループに所属していたことが大きいだろう。1993年から1995年ごろのビーイングは、以下のようなヒット戦略をほぼ徹底していた(ただし、ブーム以前にブレイクしていたTUBEやB’zは、この限りではない)。
▶︎ 楽曲制作は、バンド内で完結せずに、同グループ内のアーティストやミュージシャンを積極的に多用してヒット路線を追求
▶︎ ドラマやアニメの主題歌、人気商品のCMソングといった大型タイアップをベースとした楽曲オンエアを徹底
▶︎ テレビ番組の出演やライブ活動を極力制限し、そのジャケット写真や部分的に切り取ったビデオだけでイメージを増幅
メッセージ性よりも楽曲のイメージを重視
この戦略をDEEN「瞳そらさないで」にあてはめて考えてみよう。
まず、楽曲制作では、作詞にZARDの坂井泉水、作曲に織田哲郎をそれぞれ起用。これは前年のポカリスエットCM曲「揺れる想い」と同じコンビだ。坂井泉水は、DEENのシングルは「翼を広げて」以来2作目、織田哲郎にいたっては、これで4度目だ。80年代後半からのバンドブームでは、メンバー自身によるメッセージ性やスピリッツが重視されてきたが、ビーイングでは、ヒットの経験値の高いアーティストが重要視されたのだ。このプロの作家を重視してヒットを産み出すスタイルは、ビーイング・グループであるTUBEの初期など、むしろバンドブーム以前の戦略を踏襲したと言えるだろう。
ビーイングならではの最強パターンとは
次にタイアップをベースとした楽曲制作では、本作は『ポカリスエット』のCMに合わせて、海辺で注目女優(この時は一色紗英が出演)がポカリスエットを飲んでいるという画に、「♪瞳そらさないで 青い夏のトキメキの中で」という青春真っただ中の歌詞と、織田哲郎が80年代のTUBE楽曲からヒットのツボを極めてきたメジャーコード全開メロディーの組み合わせ。前年のZARD「揺れる想い」、翌年のFIELD OF VIEW「突然」にも通じる、まさにビーイングならではの最強パターンだ。
ちなみに、坂井泉水の歌詞は、サビが強烈なインパクトがある割に、AメロやBメロは、歌詞の着眼点や譜割りも割と自由で、この「瞳そらさないで」も、2コーラス目に登場人物の台詞がそのまま「 」で引用されていたり、2小節ごとのメロディの切れ目と言葉の文節が一致していなかったりしている。つまり、タイアップに使われるサビだけは圧倒的に覚えやすくしつつ、それ以外の部分をあえて素人っぽさを残すことで、形式を重視する職業作家にはない作風を出していたのかもしれない。
そして、ビジュアルもビーイング系の大きなポイント。同グループのZARDがロックバンドでも坂井泉水の綺麗なお姉さん系の横顔を前面に出していたように、DEENではその大半が池森秀一の爽やかイケメン系の横顔。特に、本作では愛くるしい笑顔を見せ、楽曲やロックバンドのファンというよりも、この池森秀一目当てで購入した人もかなりいたのではないだろうか。それでいて、この当時、地上波でのテレビ出演はほぼ皆無で、その爽やかな横顔と楽曲の相乗効果のみでイメージを増幅させることが、結果的に大ヒットに繋がった。
DEENが再評価される日も近い?
2024年現在のDEENは、レコード会社及びマネージメントともにビーイングから移籍し、ボーカル池森秀一、キーボード山根公路の2人組として活動。特に、池森は、そば料理研究家として本を出したり、お店をプロデュースしたり、当時のミステリアスなイメージを払拭しつつも、その爽やかさは健在だ。特に、ライブでの軽やかなパフォーマンスは50代とは思えないほどだ。
現在、シティポップ・ブームに乗って、杉山清貴&オメガトライブの楽曲が国内外で大いに再評価されているが、彼らも、シングル曲はメンバー以外の作家(康珍化&林哲司)を徹底し、バンドというよりもプロジェクトとして動いていた。DEENもまた、その爽快なイメージ戦略から再評価される日が近い気もしている。