スタンダードとなったインディペンデントーー15周年を迎える野外フェス『ONE MUSIC CAMP』の現在地
兵庫県三田市で開催されているキャンプイン野外フェス『ONE MUSIC CAMP』。生い茂る樹木に囲まれた気持ちのいい空間、コアな音楽ファンにも愛されるラインナップ、プールやアスレチックなどの様々なアクティビティ、ここでしか楽しめないワークショップ(今年は世界で初めて巨大ブラックホールの存在を証明した中井直政教授によるワークショップも予定されている)など、唯一無二のフェスとして全国のファンに愛されている。今年は15周年のアニバーサリーイヤーで8月24日(土)、25日(日)に開催予定だ。SPICEでは10周年の際にも行ったが、今度はお酒を飲みながらリラックスした雰囲気で行った。近年は『ARIFUJI WEEKENDERS』など新たなフェスも主催し、社会の変化と共に進化し続ける主催者チームとの対談記録。
ーー2010年から始まった『ONE MUSIC CAMP』、今年が15周年のアニバーサリーイヤーですね。SPICEでは2019年に10周年のタイミングでインタビューさせていただきました。あれから5年が経ちましたが、この5年は色々なことがあったのではないでしょうか。
佐藤:はい。なんといってもやっぱりコロナの影響が大きかったですね。『ONE MUSIC CAMP』は2020年、2021年と2回中止になりました。10周年の2019年は初めての2days開催だったんです。その時に手応えを感じて、ここからもう10年かけて次のステップに進んで行こうという時に、2年連続で中止になってしまいました。
深川:次のステップに向かって進んで行こうと考えていたところに、出端をくじかれた感じでしたね。その結果、仲間の間でも辛い時期になりました。それでも何か出来ないだろうかと考え、2020年は開催予定日だった8月29日(土)にサニーデイ・サービス、環ROY、 Emerald の3組が出演してくれて無観客オンラインライブを開催しました。
ONE MUSIC ONLINE 2020
ーーそうでしたね。
佐藤:2020年中止で翌年の2021年は絶対に開催したいと意気込んでいたのですが、直前に色々な事情が重なって開催することが出来ませんでした。中止が決まったのは開催の3日前でした。みんな放心状態でしたし、かなり辛かったですね。しかしクラウドファンディングで応援してくれる方がたくさんいて、チームをつなぐことができました。ある意味チームの結束が深まった部分もあるのかもしれないです。僕個人でいうと「なぜフェスをやるんだろう」という事をまた改めて考える様になりました。
ーーそういうところに立ち返って考えますよね。
深川:みんなで色々な部分をさらけ出して、時には喧嘩の様になりながらディスカッションしました。結果的に2021年も開催する事はできなかったんですが、チームのみんなの気持ちがより見える様になりました。
佐藤:でも『ONE MUSIC CAMP』をやめるという選択肢は全くなかったんです。だから、今があるのはあの時の経験があったからだと思います。当時はそれどころじゃなかったんですけど。
ーー2022年が3年ぶりの開催になりました。
佐藤:子供のように育てたのに、この2年開催する事ができなかった『ONE MUSIC CAMP』がすごくかわいそうだなと思っていたんですよ。2022年にフェスができたときは、ようやくその2年間を取り戻せたような感じでした。取り戻したというか、僕の中では供養みたいな感じがありましたね。
野村:欠けていたピースが埋まったみたいな感じでしたね。フェスをやるという感覚自体、この2年で忘れていたんだなと。
佐藤:お客さんもライブにずっと行けていなかった訳ですから。ちょっとぎこちない感じもあったかもしれません。この2022年に開催出来た事で、もう一度リスタートした感じがあります。
ーー『ONE MUSIC CAMP 2020』と『ONE MUSIC CAMP 2021』のチケットは、『ONE MUSIC CAMP 2022』へ持ち越しをすることができました。チケットを持ち越して参加した方は多かったですか?
佐藤:めちゃくちゃいました。半分以上が持ち越しチケットで参加してくれた方々でした。チケットの返金も受け付けていたんですけど、返金せずに持っていてくれた人が2022年に来てくれて、しかもクラウドファンディングもしてくれた方も多くて、本当にありがたかったです。
深川:支えてくれるお客さんの気持ちが見えたのは本当に嬉しかったです。クラウドファンディングでは「どんな状況になっても、また開催してくれたら行きます」「これで辞めないでください」などの応援コメントをたくさん頂きました。みんながこんなふうに思ってくれていたんだ、というのを実感して、やめちゃいけないなと強く思いました。自分たちの楽しみで始めた『ONE MUSIC CAMP』ですが、こんなに必要としてくれている人がいるんだな、とコロナ禍で強く感じました。
野村:2年間を合わせると400人を超える方々に支援してもらえました。
佐藤:クラウドファンディングがなかったらリアルに続けられていないと思います。
ONE MUSIC CAMP 2022 | After movie (official)
ーーコロナ禍も経て、この5年で音楽フェスカルチャーが変化した部分はあると思いますか?
深川:私たちの青春時代の音楽フェスと比べると、多様性を経験できる場になっているんじゃないかなと思います。私は高校生の時に初めて『SUMMER SONIC』に行き、社会人になりお給料をもらうようになって初めて『FUJIROCK FESTIVAL』に行きました。フェスでは音楽がメインで、ラインナップ、アーティストをメインに楽しむ人が多かったと思います。でも最近の音楽フェスは音楽だけでなく、フードやワークショップなど、多様な体験が出来ることが重視されていると思います。例えばフレンチのコース料理が食べられるというフェスもあります。普段はフレンチのコースを食べに行かないけれど、フェスで特別な体験として食べてみるというのも一つの楽しみですよね。音楽だけではなく、こういった多様な体験が出来ることが、より重視されてきているなと思います。
野村:僕は10周年の時のインタビューでも話したかもしれませんが、国境が開いてアジアのアーティストの出演が増えたなと感じています。日本のマーケットが東南アジアにも響きやすくなっていて、アーティストが来やすい環境になっています。円安も追い風になっていますね。アジアのアーティストが日本の音楽フェスに参加しやすいという状況に加えて、日本のアーティストも多くアジアに進出していますね。『ONE MUSIC CAMP』ではアジアのアーティストにたくさん出演してもらっていますが、実際に僕たちのチームにも、アジアに日本のアーティストを連れてきたいから手伝って欲しい、という話が増えています。アーティスト、フェス、イベンターの目線が国内だけでなくインターナショナルになってきていると感じます。
『ONE MUSIC CAMP 2024』に出演するタイのバンドFORD TRIO
佐藤:新しい音楽フェスがすごく増えましたよね。特に今年の5月は大阪でも毎週たくさんのフェスが開催されていました。ある意味ではお客さんの取り合いになっている感じもします。音楽フェス以外のイベントも同じ時期に集中しています。そうすると、アーティストもお客さんも分散してしまいます。自分たちはどういう立ち位置で、どのように他と違うことしてお客さんに楽しんでもらえるのかをものすごく考えますね。
ーー『ONE MUSIC CAMP』に加えて2023年からは『ARIFUJI WEEKENDERS』も主催されていますよね。
佐藤:『ARIFUJI WEEKENDERS』は、『ONE MUSIC CAMP』より開かれたイベントにしたいという思いがあって、コアな音楽リスナーだけでなく、色んな人が気軽に来る事ができるコンセプトにしています。逆に『ONE MUSIC CAMP』は昨年も今年も非常にディープなラインナップになっています。好奇心が強くて、ディープな音楽や、アウトドアに積極的な方々に対して応えられるフェスでありたいですね。
ーー『ARIFUJI WEEKENDERS』を始めた事によって、『ONE MUSIC CAMP』らしさがより明確になったと。
佐藤:そうですね。僕も色んなフェスに行くのですが『ONE MUSIC CAMP』みたいな音楽フェスはあまりないような気がしています。音楽的にも非常にユニークな方々に出演いただいていますし、そもそもキャンプフェス自体が関西では少ないんです。夜中まで続いて、翌朝からも音が鳴り響く様なフェスはあまりありません。ロケーションも独特ですし、会場にプールがあったり、ワークショップがあったり、他の音楽フェスとはムードが異なる部分がたくさんあります。コロナ禍で今後が心配な時もありましたが、僕たちがやってきたことが支持されてる感覚もあり、最近はこのままでいいんだなと感じています。『ONE MUSIC CAMP』らしさを存分に出した方がいいなと思っていますね。
ーー今年の『ONE MUSIC CAMP 2024』は8月24日(土)と25日(日)に開催されます。アーティストも続々と発表されていますね。石野卓球さんは今回が初出演ですね。
深川:プライベートでライブに行く度に最後まで残って挨拶してアピールし続けて、念願の出演となりました。(笑)
ーーハハハ(笑)。ZAZEN BOYSも初出演ですね。
野村:たまたま入ったお店で向井秀徳さんが飲んでいらっしゃったんです。しかもたまたま僕が一緒に飲んでいた方が向井秀徳さんと面識があったので、少しお話する事ができました。10代の頃から大好きなアーティストだったので本当に緊張しながら喋りましたね。会話の中で「いつか『ONE MUSIC CAMP 2024』に出て頂くことが夢なんです」と伝える事ができて、後日正式に連絡をして出演が決定しました。それがキッカケかどうかはわからないですが、多少影響はあったと思います。
深川:なんかそういうの持ってるよね。(笑)
ZAZEN BOYS - 永遠少女
ーー中村達也さんと中尾健太郎さんの勃殺戎洞も初出演ですね。
深川:中尾さんがXで「勃殺戒洞が演奏させてもらえるところ情報求む。」と投稿されていて、ミーティングで「すぐにオファーしよう」という事になり、連絡しました。楽しみですね。
勃殺戒洞 Live at Morgana (October 2023)
ーーSPECIAL OTHERS ACOUSTICも初出演ですか?
佐藤:SPECIAL OTHERSとしてもSPECIAL OTHERS ACOUSTICとしてもタイミングが合わず今まで出て頂いた事がなく、こちらも念願の初出演です。
野村:毎年『ONE MUSIC CAMP』の日程とスペアザの日比谷野音公演の日程が被っていたんです。日比谷野音は老朽化のため、解体と建て替えが決まったんです。その関係で公演の日程が変わり、スケジュールが合って出演頂ける事になりました。
SPECIAL OTHERS ACOUSTIC - MASK (Official Video)
佐藤:今年は初出演の方々がほとんどですね。現在発表している(第3弾アーティストまで)でいうと、サニーデイ・サービス、DENIMS、MASS OF THE FERMENTING DREGS、七尾旅人、モーモールルギャバン、ラッキーセベン以外は全部初出演アーティストです。
ーー体験やワークショップも続々と発表されています。関西学院大学理学部物理・宇宙学科の中井直正教授による『自作の望遠鏡で宇宙を見よう』がとても気になっています。
佐藤:世界で巨大ブラックホールの存在を初めて証明した方なんです。地元で子どもたち向けにワークショップなどを行っていたそうなんですが、今回『ONE MUSIC CAMP』に来て頂きます。
深川:研究者さんで関わってくださっている方も多いですよね。FABLAB北加賀屋にて市民に対してデジタルファブリケーションを教えている井上 智博さんや関西国際大学社会学部でフェスと社会の研究をしている永井純一さんもそうですし。
佐藤:僕たちにとっては、面白い事をとことんやっているのでアーティストと同じように感じるんですよね。こんなすごい人がいて、こんな面白いことをやっているんだというのを感じてもらいたいですね。
ーー『ONE MUSIC CAMP』が始まった頃は、「インディペンデントフェス」という様な紹介をされていましたよね。普段は別の仕事をしている人が立ち上げたインディペンデントなフェスというような。しかし最近の状況を見ると、そういう印象や、境目が曖昧になってきたように感じます。
深川:その通りだと思います。『ONE MUSIC CAMP』が始まった頃は、素人が始めたフェスとしてメディアに紹介される事も多かったですが、現在はそういう事はあまりないですね。10年、15年続けてきてインディペンデントな事が売りではなく、フェスとしての色を出せているんだと思います。
佐藤:あと社会的にインディペンデントでもやりやすい状況になってきています。例えばインターネットがなければ僕たちがフェスをやる事自体が難しかったと思います。SNSやウェブサイトなしで素人がチケットを売ったり、宣伝をしていくのはどう考えても難しいでしょう。『ONE MUSIC CAMP』はちょうどSNSが盛り上がってきた頃に始まったので、インディペンデントな形でもフェスを開催する事が可能でした。そして現在では個人でやれる事の幅がすごく広がって、個人で色々な事をやることがスタンダードになってきていると思います。
ーー確かに。
佐藤:個人でどんどんやれることが広がっていき、チームになるとよりできることが増えていきました。今は法人化して中心メンバー4人が所属しています。チケットの売れ行きも良くなり、新しいフェス『ARIFUJI WEEKENDERS』も立ち上げて何千人も来るようになったりして、個人でやり続けるには責任が大きくなりすぎので法人化したのですが、根っこは変わっていないと思います。
ーーインディペンデントで『ONE MUSIC CAMP』を立ち上げて、それが15年間続いて、法人化して……。新たなフェスも立ち上げて。15年前から見るとすごく楽しい未来になっているんじゃないですか?
佐藤:そうですね。好きなことをやらせてもらって、独特のチームになっていると思います。ちなみにまた新しいフェスをやるんですよ。
ーー初耳です。(笑)
佐藤:淡路島で『MAGICHOUR』というフェスを来年開催します。『ONE MUSIC CAMP』、『ARIFUJI WEEKENDERS』に続く3つ目のフェスですね。
深川:誰か倒れるんじゃないかって思うくらい大変です。(笑)
佐藤:キャンプインフェスで、新しいリゾート型フェスを計画しています。『ONE MUSIC CAMP』や『ARIFUJI WEEKENDERS』ともまた違うフェスをやりたいですね。
取材・文=竹内琢也 撮影=福家信哉
取材場所=さんかくの食卓(大阪府大阪市北区大淀南1-2-11)https://www.instagram.com/sankitune/