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待望の初CD化で変化したビートルズの聞き方|ビートルズのことを考えない日は一日もなかった。VOL.42

Dig-it[ディグ・イット]

1986年のクリスマスイブ、日本テレビで『メリークリスマスショー』が放送された。桑田佳祐、ユーミンをはじめ、当時の日本を代表するトップミュージシャンが一堂に会した、いまでは伝説となっている音楽番組である。豪華なキャスト、派手なセット、作り込んだ演出はまさにバブルの時代の象徴であり、今見ても贅沢の極みである。バブルとは何か、を若い人たちに説明する際、あの番組の映像を見せれば、浮かれまくった時代の空気感を大まかにわかってもらえそうな気がする。そんなタイムカプセルのような2時間の特番の中で2曲のビートルズナンバーがカバーされた。

『メリークリスマスショー』とビートルズ

『メリークリスマスショー』で流れたKUWATA BAND 「MERRY X’MAS IN SUMMER」

1曲目は番組冒頭のオープニング曲として披露された「カム・トゥゲザー」。この日出演した全アーティストが自己紹介を兼ねて一節ずつ歌いつないでいくプレビューとして使われたのだが、この奇天烈な歌詞がゴールデンのお茶の間に流れると言うシュールさがおかしかった。当時何度もビデオで観返したこの映像は、いまではYouTubeで観ることができるが、あらためて、よくぞここまでの大物を集めたと感心させられる。

桑田と明石家さんまのツーショット、ユーミン、アン・ルイス、原由子が「ワン・アンド・ワン・アンド・ワン・イズ・スリー」の部分を歌うシーンなど、すべてが印象に残っているなかで、小倉久寛が「オブラディ・オブラダ」のメロディで「オグラでオグラだ~」と歌うシーンもビートルズファンとして見逃すことができなかった(当時小倉久寛はニッポン放送で「オグラでオグラだ」というラジオ番組を担当していた)。この曲は翌87年にも別メンバーで再演されているが、86年にはかなわない。

そしてもう1曲は「ヘルプ!」。吉川晃司とBOOWYによってカバーされたこの曲は、BL的なビジュアル演出と原型を留めぬ高速パンクなアレンジという、従来のビートルズのイメージからは程遠い解釈に驚かされた。ビートルズカバー曲の衝撃度で言えば、YMOの「デイ・トリッパー」以上であり、この日披露されたなかでも1、2のインパクトだったと言っていい。この頃のBOOWYといえば『BEAT EMOTION』と「B・BLUE」がヒットしたあとで、ロックファンの間ではすで認知されていたものの、お茶の間レベルの認知度はそれほどではなかったから、この『メリークリスマスショー』への出演が大メジャーへの一歩だったように思う。

この「ヘルプ!」には後日談がある。当時わたしはロックバンドでベースを担当していて、渋谷や下北沢のライブハウスに定期的に出ていたのだが、その際の対バンの中のいくつかのバンドが『メリークリスマスショー』の「ヘルプ!」をカバーしていた。到底BOOWYの演奏レベルには達していないのだが、たった一度のオンエアが多くのアマチュアバンドに与えた影響力の大きさを目の当たりにした。

87年2月から始まったビートルズのCD化

東芝EMIが作った販促誌

明けて87年2月、ビートルズのCD化が始まった。CDが世の中に登場したのが82年。以降、レコードに変わる新しい音楽メディアとしてリリース数を増やしていき、徐々にシェアを拡大、プレイヤーも普及したこの年ついにアナログレコードとの比率が逆転した。以後、CDが主要メディアとなっていくわけだが、その分岐点となる年にビートルズがCD化されたことは、実に象徴的な出来事であった。

先陣を切って最初にリリースされたのは『プリーズ・プリーズ・ミー』『ウィズ・ザ・ビートルズ』『ハード・デイズ・ナイト』『フォー・セール』の4枚。続いて4月に『ヘルプ!』『ラバー・ソウル』『リボルバー』。6月にこのCD化の目玉であった『サージェント』(そもそもこのCD化は『サージェント』の20周年に合わせるためだった)、後期のアルバムは8月に『ホワイト』『イエロー』、9月に『MMT』、10月『レット・イット・ビー』『アビーロード』と続き、87年は1年を通して、ビートルズのCDが音楽マーケットを賑わせた。2月26日の第一回発売日に偶然、秋葉原の石丸電気にいたのだが、かなり大掛かりな展開をしていたことを覚えている。

だが、わたしはこのときのCD化にいっさい食指が動かなかった。CDプレイヤーをもっていなかったというのもある。レコードで十分という気持ちも大きかったが、そのほかに2つの理由があった。ひとつは初期4作がモノラルでリリースされたこと。もうひとつはビートルズの曲がデジタルになったことの違和感である。前者については、それまでビートルズの音楽は国内盤国旗帯のステレオ盤で親しんできており、左右泣き別れのミックスにも愛着がわいているなかで、急にモノが基準になってしまうことへの戸惑いが大きい。ファンになってから早い段階でコンプリート・ビートルズ・ファンクラブの会報やイベントでモノの重要性を知り、82年に限定リリースされたモノ盤を買っていたとしても、それがデフォルトになるということへの抵抗は否めなかった。その楽しみが見いだせなかった(モノのすばらしさを知ったのはUKオリジナルを買うようになった90年代以降のこと)。

またCDをプレイヤーに挿入したときに表示されたデジタル文字にも馴染めなかった。自分にとってビートルズのレコードを聴くという行為はまるで魔法にかけられた夢の時間で、数字に換算できないものなのだったのが、トータルタイム30分というデジタル表示を見た際、現実に引き戻されたような悲しい気持ちさせられた。以来、ビートルズのCDを聴くことはいっさいなくなった。

『ミュージック・マガジン』のビートルズ特集

『ミュージック・マガジン』87年4月号

とはいいつつも、CD化を記念した『ミュージック・マガジン』のビートルズ特集は、毎回購入していた。それまで『ミュージック・マガジン』は古本でしか買ったことがなかったのだが、CD化が始まった直後に出た4月号(表紙がビートルズ)以降、CD発売のたびにビートルズ特集が掲載されるようになり、そこでの評論家やミュージシャンによる解説記事が目当てであった。収録曲1曲ごとの踏み込んだレビューは当時としては珍しく、CDを買わずともうなずける部分や新しい発見も多かった。この文を書くにあたって当時の雑誌を引っ張り出してみたら『ウィズ・ザ・ビートルズ』の解説を松本常男さんが書かれていて驚いた。

ちなみに、わたしが最初にビートルズのCDを購入したのは95年の『ビートルズ・アンソロジー』で、オリジナルアルバムに関しては09年のデジタル・リマスター盤まで待たねばならなかった。87年以降何度か新装されてはいたものの音源に関してはそのままだったこともあり、購入する気にはなれなかったのだ。この時期、CDに関してはSECRET TRAXというレーベルから出ていたブートが頼りだった。正規音源のステレオとモノ、ほかにアウトテイクや別ミックスも収録されていて、その手軽さゆえ、またジャケも秀逸だったことからほぼコンプリートで集めたくらい気に入っていた。

最後にハウンドドッグの武道館10デイズ公演について触れておきたい。80年に「嵐の金曜日」でデビューしたロックバンドが、地道なライブ活動のすえ、85年「ff(フォルティシモ)」がヒットしたことで人気が拡大。87年1月から2月にかけて、前代未聞の武道館10日連続公演が実現した。それまで日本武道館の連続公演記録はオフコースの7日間だったのだが、その数字をハウンドドッグが更新、わたしはその中の最終日の公演に参加した。

デビュー間もない頃の大友康平がパーソナリティを務めていたラジオ番組『明治製菓提供ザ・ビートルズ』を愛聴していた者としては、ハウンドドッグのブレイクはこの上なくうれしく、ひとりほくそえんでいたのだが、武道館公演が近づくといてもたってもいられなくなり、チケット入手に奔走した。たしか購入経由はチケットは雑誌『ぴあ』のはみだしぴあだったと思う。「チケット余ってます」という一文に反応し、公演日直前にやりとりしたにもかかわらず、座席は1階後方、バンドもよく見え、客の盛り上がりダイレクトに感じられるものであった。最新作『LOVE』を中心にしたライブは思いのほか素晴らしく、全力で熱唱する大友康平に胸を打たれた。しばらく興奮が冷めず、ハウンドドッグを追いかけるようになり、その後の西武球場や東京ドーム公演にも足を運ぶほどの熱の入れようであった。

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