”魅力”新発見、復活の国内モータースポーツ
国内モータースポーツの動員数がコロナ禍前以上に増えているという。
現在、F1で活躍する角田裕樹選手はスーパーFJの大会で初優勝したことをきっかけに今のポジションにのぼり詰めた。
また、昨年11月にフォーミュラEのプレシーズンテストで、初ドライブながら欧州の女性ドライバーに引けを取らず、4位のタイムを叩き出した小山美姫選手も、存在感は抜群だ。9月にはスーパー耐久で女性として初優勝を飾った事が話題となった。
2024年からモータースポーツの撮影を本格化させた本誌フォトグラファー、J.ハイドが、現在の国内レース観戦の魅力をレポートする。
「スーパー」称号への登竜門
F1は以前にも増して巨額の資金が動き、この数年で世界トップクラスのスポーツエンターテイメントと化した。その結果として本年はApple制作の映画が全世界で公開される予定で、昨年は鈴鹿をはじめとする各開催地での撮影が行われた。
日本の4輪のレースに関しては、「スーパーフォーミュラ」、「スーパーGT」、「スーパー耐久」の三つの「スーパー」称号のレースがある。筆者はいずれも取材した事があり、その素晴らしい一面を経験した。
そして今回は、それらへの登竜門として位置付けられ、現在F1ドライバーとして活躍する角田裕樹選手を輩出したスーパーFJ(以下S-FJ)に関して、まずはご報告しよう。
S-FJのマシンの仕様や細かい規定はWEBサイトに譲るが、1500ccの共通エンジン、共通仕様のシャーシ、ボデイ、タイヤで構成されたマシンで統一されている。つまりチームのセットアップ能力とドライバーの力によって順位が決まる競技だ。
ドライバーも全くの若手・新人が中心で、将来はプロのレーサーになることを目指している。その熱気や真剣度が、レース前のブリーフィング時に見てとれた。
筆者が取材した筑波サーキットでは、パドック前のマシン近くでも厳しい規制を受ける事なく撮影が可能であった。そしてアマチュアレーサーゆえに、応援も家族や親類縁者と思われるラベルが車体に貼られているのが見られた。
ドライバーの夢と共に、応援する身近な人々の想いをのせてレースを戦う姿はある意味、上級のレース以上にドラマチックなものだ。
そして、ここから国内最高峰、今や世界でもトップクラスと言われる「スーパーフォーミュラ」への道が拓けるのだ。
F1が認めた「スーパーフォーミュラ」
昨年12月に鈴鹿で開催された「スーパーフォーミュラ」の合同テストには、日本人だけでなく、海外のドライバーも例年以上に多数参加した。
中でも2024年にフェラーリのF1チームでスポット参戦し、本年はハースF1のレギュラーシートが約束されているオリバー・ベアマンの参加は大変な話題となった。トラブルのため短時間の走行だったにもかかわらず、初めてのスーパーフォーミュラのマシン、初めての鈴鹿で3位のタイムを叩き出すなど、F1ドライバーの力を見せつけていった。
縁石まで攻め込むアグレッシブな走りとは裏腹に、マシンから降りた際に見せるジェントルな振る舞い。まだ若くタレントのようなルックスは国内でも多くのファンを掴むことが予想される。
また、スーパーフォーミュラで2023年に活躍したリアム・ローソン選手は昨年後半には角田選手と共にレーシングブルズF1チームで6戦に出走している。短期間での適応力を理由に、本年からはチャンピオンを擁するレッドブルでF1にフル参戦することが発表された。
従来は欧州のレースで実績を積まないと参戦できないとされていたF1だが、現在は日本のレース戦績もかなり認められるようになってきているのだ。海外ドライバーの参加者が多かったのは、そういった理由に他ならない。
大迫力には訳がある
クラスがしっかり分かれているフォーミュラとは別に、市販車が別物のようにカスタムチューンされたマシンが混在する「スーパー耐久」も実際に観戦するとかなりの迫力だ。どうしてそう感じられるのか、にも明快な理由がある。
その独特の迫力が感じられるのは何より車両重量のせいだろう。軽量級でも約1トン、上位の車種では1.5トンに達する。これはスーパーフォーミュラの最低重量677kgのおよそ1.5倍から2倍以上に相当するのだ。
一方で最高スピードはスーパーフォーミュラが300kmオーバーでスーパー耐久は250km程度と言われ、慣性の公式に当てはめれば後者のマシンが遥かに大きい力に耐えていると想定される。
「スーパーフォーミュラ」が切れ味鋭い日本刀の走りだとすれば、「スーパー耐久」は青龍刀のような迫力だと言えよう
実際のレースでは、上は国際GTクラスと言われるホモロゲーションマシン、下は1500ccからの市販車をベースにしたマシンが入り乱れて3時間または5時間の周回数で争われる。そして富士スピードウェイではルマンさながらの24時間で争われる。
F1やスーパーフォーミュラとは異なり、途中の燃料補給もあることからピットでの作業は危険を伴うし、カメラマンにもピットの取材には耐火スーツが求められる。長丁場であることから当然途中でのアクシデントも多くなり、完走はしたものの満身創痍の姿となるマシンを見ることも少なくない。
そのようなスーパー耐久だが、瞬間々々のドライバー同士のせめぎ合いはフォーミュラレースに勝るとも劣らない接戦がみられる。そして重量級のボデイが、かなりのアンダーステアをもたらしているのがファインダーを通してでも分かる。
本来はそれと戦うシャーシやボデイの軋み、タイヤの悲鳴が聞こえるはずだが、実際には大きくチェーンナップされたエンジン音にかき消される。エンジン音以外のレース音はあくまで写真や映像から想像する以外にはない。
モータースポーツ観戦も「隗より始めよ」
昨年9月に女性として初めて「スーパー耐久」で総合優勝を飾った小山美姫選手は、初めて乗るフォーミュラEとスーパーフォーミュラのそれぞれの合同テストで好タイムを叩き出した。さらに2025年は「スーパーGT」のフル参戦が決定している。
2024年、マクラーレンF1チームのリザーブドライバーとなった平川亮選手もWECやスーパーフォーミュラでの実績が認められた。
つまり、「スーパー耐久」で培われた実力は確かなものとして「スーパーフォーミュラ」や「スーパーGT」にも通じるものだといえる。さらにその先にはフォーミュラEもF1も見えてくる訳だ。
元々のレースのレベルが高い事だけではなく、その走りの先に世界的レース参戦への夢がある。それが直近の国内のレース人気を押し上げてきたと言えよう。
2025年はますます面白い展開が期待できる、国内モータースポーツ。
もし少しでも興味を持たれたなら、F1への偉大なる最初のステップ、筑波サーキットで開催されるスーパーFJの観戦からおすすめしよう。
J.ハイド
写真家、ライター、ドローンパイロット。広告会社で大手企業の担当をする傍ら、ドローンなど最新の撮影技術を学ぶ。
現在は、フリーランスとしてFORMULA EでFIA公認フォトグラファーとして撮影を重ねる一方、
イタリアPHOTO VOGUE、スウェーデン1x.com に認定され、ポートレート作品が掲載されている。
新車の発表があるとディーラーで試乗も楽しむ一般目線の車好き。ランチア、アウディ、BMW、ボルボなど9台を乗り継ぎ、
2022年初代レクサスNX 200tに乗り換える。ニコンとライカのミラーレス機を駆使してココロが動く写真を追求している。