乱歩生家跡をミステリーの聖地に 建物取得し体験型施設へCF 名張
三重県名張市で生まれた作家・江戸川乱歩(本名・平井太郎、1894‐1965)の生家跡にある元医院の建物が「乱歩の世界観を体験するミュージアム」に生まれ変わろうとしている。地元の喫茶店主、辻孝信さん(65)がプロジェクトを立ち上げ、6月17日にクラウドファンディング(CF)がスタートした。
場所は同市新町の旧桝田医院で、広さ約700平方メートルの敷地に、昭和の面影を色濃く残す木造や鉄骨など2階建ての建物がある。受付や処置室、手術室など、2016年に閉院した当時のまま残り、どこか妖しげな空気も漂う。別棟の元院長宅からは、生誕地碑がある広場を一望できる。辻さんは「この建物に漂う昭和の怪奇な雰囲気こそ、乱歩の文学世界そのもの」と、保存と再生への情熱を語る。
乱歩は父親の転勤により生後数か月で名張を離れ、平井家が暮らした借家の周辺はその後、元医院に建て替えられた。乱歩は57歳の時に元医院を訪問し、その際に辻さんの曽祖母・せきさんと語り合って生家の記憶をたどったという。
辻さんが元医院の売却を知ったのは、昨年初めごろ。放置されていた建物は取り壊し寸前で、「行政が動くのを待っていたら何も残らない」。そう感じて取得を決意し、自ら守ることを選んだ。
体験型ミュージアムの整備に向けたCFは、「READYFOR」の専用ページ(https://readyfor.jp/projects/rampo2025?sns_share_token=&utm_source=pj_share_url&utm_medium=social)で7月末まで実施しており、目標金額は500万円。館内では乱歩作品の「人でなしの恋」「赤い部屋」をイメージした空間展示など、元院長宅ではファン同士の交流の場を設ける計画だ。返礼品には、限定グッズやイベントの参加権などをそろえており、地元住民やミステリーファンとともに「自分たちで作る聖地」を目指す。
辻さんは、名張の旧町を「鳥取県の水木しげるロードのように人々が巡り歩くまちにしたい」と構想を膨らませる。「乱歩が生まれた場所は、日本のミステリーの聖地。幅広い世代のファンを呼び込み、まちを盛り上げたい」と話した。