「タタキ」と「焼き霜」の調理法の違い分かる? 様々なパターンがある「炙り」技
刺身は「生の魚の美味しさ」を味わう調理法ですが、そこに軽く火を当てるだけでもっと美味しくなることがあります。
刺身の味変メソッド「炙り」
刺身や寿司など、生の魚の美味しさを味わうのが得意な日本料理。鮮度管理の手間はありますが、瑞々しさの中にストレートな旨みが感じられる魚の生食はまさに芸術的な食べ方です。
しかしそんな「魚の生食」には一つ欠点があります。それは「食べ飽きやすい」こと。素材を生かす食べ方ゆえどうしても味わいが単調になりがちで、たくさん食べると飽きてしまいやすいのはやむを得ません。
そんなとき、味変方法として効果的なのが「炙り」。任意の部分だけを加熱するこの方法は、例えば皮付きのサクの皮だけに火を入れて皮ごと食べられるようにしたり、香ばしさをつけることもできます。生の魅力を失わせないまま、味の方向性を変えることができるのです。
基本の技術「タタキ」と「焼き霜」
このような「火で炙る刺身」の調理法には代表的なものがふたつあります。「タタキ」と「焼き霜」です。
タタキはカツオのそれが有名ですが、サクの表面全体にしっかりと火を入れるのが特徴です。大量の藁を焼いて大きな火力を出し、内部に熱が入らないよう一気に加熱してしまうのが大事とされます。
焼き霜はタタキとよく似ていますが、基本的には皮付きのサクの皮目のみに火を入れることが多いです。生の状態では硬くて食べられない皮のみを加熱し、生の身と一緒に食べるのが狙い。そのため、加熱後に氷水などを用いて急冷し、熱を取ってから供されます。
瀬戸内の「炙り」は一味違う
さて、「タタキ」とも「焼き霜」ともちょっと違う「刺身の炙り」が瀬戸内海沿岸の一部で作られているのをご存知でしょうか。
広島県福山市周辺では、漁師料理として「生の刺身を、食べる直前にバーナーで炙ったもの」がよく食べられています。焼き霜と似ていますが、皮のついていない普通の刺身を炙り、急冷せず熱を持った状態ですぐに食べるのが特徴です。
この「福山風炙り」は普通に考えると「ぬるい刺身」のように思えますが、実際は炙られたことで熱くなった表面と冷たい内部のギャップがあり、それが新鮮な感覚を与えます。加えて皮下脂肪が直に炙られることで溶けて舌にダイレクトに触れることから非常にゴージャスな味わいになります。
これを作るには、活け締めのものをすぐに捌いた新鮮な刺身を使うのが一番良いです。弾力のあるシコシコとした食感と脂の甘みのハーモニーに魅せられること間違いありません。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>