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梅津瑞樹「一瞬たりとも隙を見せない」 サスペンスフルな意欲作~SOLO Performance ENGEKI『MAGENTA』ゲネプロ・囲み取材レポート

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SOLO Performance ENGEKI『MAGENTA』舞台写真

SOLO Performance ENGEKI『MAGENTA』が2025年4月16日(水)、東京・シアターサンモールにて開幕した。東映による一人芝居企画で、本プロジェクト3度目の参加となる梅津瑞樹が出演。脚本を赤澤ムック、演出を毛利亘宏(少年社中)が手掛け、演劇への挑戦と偏愛がたっぷり込められた意欲作となっている。初日前に行われた公開ゲネプロと囲み会見の模様をお伝えしよう。

タイトルの『MAGENTA』とは、紫がかった赤色のこと。一見すると鮮やかで華やかな印象を持つ。だが、舞台の上に広がるのは無機質な廃アトリエ。大きなキャンバスが鎮座し、何者かが筆を走らせる音がとめどなく響いていて——やがて、激しい雨の音とともに、一人のある男が入ってくる。扉を開けた瞬間の表情、埃を払う仕草、溜息の吐き方……開始1分と経たず、目の前にいる男がいかに鬱屈とした人物であるかを思い知らされてしまった。

正体も目的も不明な男。誰もいないはずの一人きりの空間に、突如として見知らぬ女が現れた。男は咄嗟に強盗を名乗り、中高年と思われる女は画家を自称する。舞台上に、女の姿はない。梅津演じる男が語り掛ける言葉と、投げかける視線がその存在を示すのみ。姿かたちは見えずとも、たしかにそこに居るのだ。

半ば強引に自身をモデルとして絵を描き始めた女を相手に、男はやがて自らの過去を語り始めて……。ある場面では高揚しながら話し、またある場面では途端に冷たい声色に変わっていく。壁面に浮かび上がる言葉や数式が何を表すのか、誰の心を映し出しているのかもいつのまにか自然と考え出してしまっている。

時間が経つにつれて、徐々に解れていく男の心境。時に笑顔を見せるようになるが、どこか物悲しい。彼にとってはたわいもない軽口が、観客として耳にするにはとてつもなく重たい。

男の目的、そして女の正体が謎に包まれたサスペンスフルなストーリー。もちろん簡単には明かされることはないが、不思議とストレスには感じない。フラストレーションとカタルシスのバランスが絶妙なのだろう。自ら考えるというよりは、自ずと考えさせられるような感覚なのだ。

これまでの一人芝居では、異なる年代や複数人の演じ分けで魅了してきた梅津。今作では、たった一人の男のたった数時間を演じ切っている。約1時間45分ものあいだ、舞台上に出ずっぱりの状態。一度として観客の前から去ることなく向き合い続ける胆力には感嘆せざるを得ない。演劇への愛ある挑戦状ともいえる本作は、ぜひ劇場で見届けてほしい。

SOLO Performance ENGEKI『MAGENTA』囲み会見より (左から)毛利亘宏、梅津瑞樹

公開ゲネプロ前には囲み会見が開かれ、梅津と演出・毛利亘宏が登壇した。

ーーまずは初日を迎えた心境、本作にかける意気込みをお願いします。

梅津:今朝からすでに(頭の中で)通し終えてしまうほどには、何をするにつけてもずっと念仏のようにセリフがぐるぐると回っておりまして……(笑)。

毛利:あっはっは(笑)。

梅津:このプロジェクトではこれまでに『HAPPY END』(2021年)、『HAPPY WEDDING』(2023年)という一人芝居をやらせていただいているんですが、今作はことさらにセリフの密度のようなものが、一晩置いたチーズケーキのようにミチミチです。稽古を振り返ってみると結構大変だったんですが、その分、重厚感のある作品になっています。「早くお届けしたいな」というのが、今の心境です。

毛利:ついに『MAGENTA』が全貌を現すときがやってきました。人知れず、すごいものを作り続けたっていう実感がございまして。梅津さんという俳優がどれだけすごい役者なのかっていうのを皆さんに見ていただきたいという気持ちで高揚しております。

ーー見どころ、注目のポイントを教えてください。

毛利:一人芝居という形ではあるんですけど、純然たる会話劇になっておりまして。どういうことなのかというのを、早く見ていただきたい。本当に難しいことにチャレンジして、それに対して一人の天才俳優がこれでもかと向かっていく姿は美しく、稽古場で楽しい時間を過ごさせていただいた。とにかく、演劇ってものはこんなに可能性のあるものだということを目に焼き付けていただければ。

梅津:そう言っていただけると……! 稽古場ではひたすらに「どうすれば“見える”のか」というのをひたすらに追求してきました。見どころとしましては、どの作品でも言っていますが、今回はことさらに「全部です!」と。なぜなら僕しか出てこないから(笑)。一瞬たりとも隙を見せないということを念頭に置いてやっておりますので、粗を探したければどうぞ(笑)! ちゃんとやっておりますということだけは、お伝えしておきます。

ーー梅津さんはプロジェクト3作目の参加になりますが、いかがでしょうか。

梅津:1作目は一人の男の各年代、2作目は結婚式に参列した数々の人物を演じて……と、どれも全く違う形で一人での芝居を成立させられるっていうのが、このプロジェクトの面白さだと感じています。今後続けていくにあたって、また違う方向性に広げていくのか、それともより一つのものの深みをさらに増して研鑽を積んでいく形になるのかわからないですけど、今後がすごく楽しみだと思います。

ーー昨年には三人芝居、二人芝居も経験されました。その上で、再び一人芝居と向き合った感想は?

梅津:昨年は、人とのつながりみたいなものを強く実感する年でしたね。久しぶりの一人芝居は寂しいかなと持ったんですが、全然寂しくなかった(笑)。毛利さんもいらっしゃいましたし、自分としてはすごく手応えがあるんですよね。稽古を終えて、初日を迎えた今はどちらかと言うと充実感が先行していて、いい作品ができたなという思いがすごく強いです。

(左から)毛利亘宏、梅津瑞樹

ーー今作では地方公演も。どんなことを楽しみにされていますか?

毛利:最終地点が大阪公演の梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ。巨大な劇場で、このまんまやるっていう。

梅津:(セットを示し)一部屋ですからね(笑)。

毛利:ただ、ドラマシティを念頭に置いて作ろうというコンセプトで始めたので。ドラマシティで実際にどう見えるのかは、ツアーの楽しみ中の楽しみでございます。

梅津:最終地点での見え方はもちろん、日々、自分の中に滞留しているものが変わっていく感覚が特に今作は強い。それによって自分が受ける影響、芝居の変化みたいなものをすごく感じられる作品です。ツアーの中でどう変化していくのかが、各地方での楽しみですね。

ーー赤澤ムックさんと初タッグ。脚本についてはいかがでしたか?

毛利:ずっとご一緒したいと思っていた同年代の盟友と言える存在。本当にチャレンジングなことを、ギリギリのバランスで攻めていただいた。挑み甲斐のある脚本です。人の情念というか、人間というものをよく書けている脚本だと思いました。挑ませてもらえたのは、本当に幸せなことだと思っております。

梅津:これまであまり読んだことがないような。今、情念という言葉がありましたが、まさしくパッションというか。ともすればすごくドロドロとしていそうな、粘り気のあるものを感じまして。このクセを、うまく芝居に落とし込むにはどうすればいいんだろうと最初はちょっと面食らってしまいましたが、どう形になったのかを見ていただけたら。

ーー最後に、梅津さんからメッセージをお願いします。

梅津:一人芝居と申しましたけれども、数々の人に支えられながら、コソコソとやっていたものをようやくお披露目する日となりました。この1か月、ろくにSNSも更新せずに一体何をしていたのかというのが形になっておりますので、しかと刮目していただきたい。長い公演ですので、もしお時間が許されるようであれば、ぜひどこかの劇場でお会いできることを楽しみにしております。

取材・文・撮影=潮田茗

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