遠隔で動くショベルカー 「無人化」が支える被災地
今月中旬、東京ビッグサイトで「ハイウェイテクノフェア」が開かれました。全国の建設会社など、300社以上が集まる展示会で、最新の技術を披露する「建設業界の見本市」。会場には毎年、およそ2万人が訪れるという大規模なイベントです。
「ハイウェイテクノフェア2025年10月16日(木)、17日(金)に東京ビッグサイトで開催されました
栃木のショベルカーを、東京から動かす!遠隔操縦体験
中でも特に目を引いたのが「ショベルカーの操縦が体験できます」というブースで、実際に私も挑戦してみました。西松建設の纐纈 善孝さんにお話を伺いました。
西松建設株式会社・技術研究所・土木技術グループ 纐纈 善孝さん
今回の展示会では、我々、西松建設が開発している、「トンネルリモス」という技術の展示を行っておりまして、ここ東京ビッグサイトと、栃木県那須塩原市にある実験フィールド、そこの間でですね、中継を行っております。展示会場から重機を「遠隔操作」できるようになっております。ゲームのコントローラーで重機を遠隔操作できるようにしております。
(今、私たちの目の前にモニターが4枚あって、ショベルカーが映っています。手元のゲーム機のボタンを右に押すと、頭が持ち上がりました!)はい、そして、その場での旋回もできます。
(ちゃんと連動してますね!)回ったりもします。きちんと連動しています。今、栃木県で動いている様子を流しております。
「栃木県と中継中」のモニター。これらの映像を見ながら手元のリモコンで操縦していきます。ちなみにこちらは簡易版。本来は、コックピットのようなスペースを設けて遠隔操作を行うそうです
栃木県の那須塩原市に置かれているショベルカーを「遠隔操作」できる体験でした。実際には目の前のモニターを見ながら、ゲームのコントローラーを操作します。親指でボタンをポチポチ押すだけで、ショベルカーが前に進んだり、後ろにさがったり、アームが動いたり…。無人の状態のショベルカーを親指で動かせる、まるでゲームみたいな感覚でした。
トンネル工事は落盤などの危険が常にありますが、この仕組みを使えば、現場の監視員は最小限に、作業する人は東京からでも重機を動かせます。しかも、ブルドーザーや岩盤に穴を開けるドリル型の重機などにも応用できて、今ある機械にカメラや制御装置を「後付け」すれば使える。わざわざ新しい重機を開発しなくてもすぐに導入できるというのも利点だそうです。
遠隔操作への反発と 若手への期待
ただ、いくら技術が進んでも実際に操作するのは現場の職人さん。これまで体の感覚で動かしてきた人たちは画面越しの操作にどう向き合っているのか。西松建設の纐纈さんに伺いました。
西松建設株式会社・技術研究所・土木技術グループ 纐纈 善孝さん
一部の方にはですね、テスト段階で協力してもらっております。やっていただいた方の中には、「これなら遠隔操作やれるんじゃないか」と言っていただける方もいらっしゃったり、こんなのやらないぞという方もいらっしゃいました。
遠隔操作の際には二次元の映像をたくさん見ながら行うことになるんですけれども、映像をいくつ用意しても、どうしても立体感が分かりにくかったり、掴みにくかったりする部分があったりしまして、岩をすくおうと思ってもスカしてしまうなど、いまだに苦労しているところでもあり、開発の課題でもありといったところです。
ただ、私が個人的に思っているのは、今働いてもらっている作業員さん全員に、いきなりこれを使いなさいというわけではなくて、将来的に人手が減ってきたらこういったものの導入が進んでいくと思いますので。どちらかというとこれのターゲット層は今でいう若手の方、あるいはまだ入社されてない方々になるのかなと思います。
ハイウェイテクノフェアでの、西松建設のブース
慣れた感覚を「画面」に置き換えるのは、ベテランほど難しい(導入はまだ一部の現場のみ)。まさにクレーンゲームを画面越しにやっている感覚で、前後の距離感をつかむのにコツが必要です。
さらに、映像との「ズレ」も大きな問題。2~3秒ずれるだけで作業にならない。実際、この技術のカギを握るのは「通信の強さ」。現場ごとにどれだけ安定したネットワークを整えられるかが勝負になる、ということでした。
一方で、若い世代は「ゲーム感覚」で吸収が早い。今後ますます人手が減っていく中で、こうした技術が新しい支えになっていく、そんな手ごたえを感じているようでした。
珠洲市で「無人ショベル」が夜通し稼働 被災地で広がる遠隔操作
そしてこの「離れた場所からの操縦」は、いまでは建設現場だけでなく、被災地の復旧でも使われ始めています。熊谷組の飛鳥馬 翼さんに伺いました。
株式会社熊谷組 飛鳥馬 翼さん
土砂崩れが起きた現場で、「ショベルカー」と「トラック」を遠隔操作をしておりました。能登半島の「珠洲市」で施工しておりました。
トンネルが塞がれてしまった現場でしたので、トンネルをすぐ通すっていう意味でも、土砂をすぐ搬出しないといけない。その搬出を早めるために、「夜間で」遠隔操作を導入した。
施工現場から数百メーターぐらい離れたところに基地みたいなものを建てて、その中から遠隔操作するんですけれども。カメラの映像を見ながらラジコンのおもちゃみたいな感覚で、ショベルカーが溜まった土を掘ってダンプに載せて、あとダンプは決められたルートをただひたすら走行して土砂を捨てる。
本当に何やってるのか全く分からない。私も昼間の遠隔操作に関してはしばらく従事してまいりましたので、今回「夜間」っていうところで、本当に真っ暗の中、ガタゴトガタゴト音してる…。今までとはちょっと違った体験。
去年の能登半島地震の際、トンネルが崩れて道路がふさがれていた現場で活躍したのが、「無人のショベルカー」と「無人のダンプカー」。夕方から翌朝2時まで夜通し動いて土砂を運び出したそうです。これまで「夜はキケンで作業できない」とされてきましたが、暗視カメラを使えば遠隔で操縦可能。しかも1人の操縦者が5台の車両を動かせる仕組みで、被災地に入る人数も大幅に減らすことができるそうです。
さらにお話を聞くと、実はこの技術、日本が災害のたびに磨いてきたものだそうで、始まりは1990年代の「雲仙普賢岳」の噴火。人が入れなった現場で初めて「遠隔の重機」が使われたのがきっかけだそうです。
災害が多い国だからこそ進化してきた技術。被災地でも建設現場でも、こうした「無人化」の現場は、ますます広がっていきそうです。
(TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」取材:田中ひとみ)