「おいしく楽しく、日本の食の偏差値をあげていく」 料理家・寺井幸也さんが挑む、サステナビリティ
「YUKIYAMESHI」をご存知でしょうか? “映えるいなり寿司”こと、「オープンいなり」のお店といえば知っている方も多いかもしれません。彩り豊かな旬野菜をふんだんに使ったケータリングやお弁当は、華やかでおいしい!と雑誌などの撮影現場から人気に火がつき、デリやお弁当のお店もSNSで話題に。
そんな料理家・寺井幸也さんの「YUKIYAMESHI」がOisix傘下に入ったのは、2024年7月のこと。もともとOisixグループだったケータリング&社員食堂の企画・運営をする「NONPI(ノンピ)」の子会社になったことで、オイシックス・ラ・大地へのグループ入りを果たす。今後は3社でサステナビリティの取り組みを強化していく、というものでした。
個人店からグループ企業になったことで、「社会に対してより大きなアクションを起こしていける」と意気込む幸也さん。リニューアルした装飾つきケータリングサービス「Sustainability Story Table(サステナビリティ・ストーリー・テーブル)」 の全貌について、また食から未来を変えたいという思いについても伺いました。
個人店からグループ企業へ。プロデューサー的な仕事が増えた
アイコニックな「オープンいなり」をメインに据えた、寺井幸也監修【三段重】迎春おせちも好評だった。
————Oisixの傘下に入られたというニュースには驚きました。仕事内容について、どんな変化がありましたか?
ガラッと変わりましたね。いままでのような、しっかりと調理をするシェフのような立ち位置から、もっと広い範囲で物事を決めていくプロデューサー的な仕事がメインになりました。例えば、Oisixの「幸せ溢れるカラフルいなり」というミールキットの監修をしたり、店舗プロデュースをさせていただいたりしています。
他にも、Oisixの契約農家さんが抱える課題を洗い出し、解決への道筋を探る活動にも力を入れています。企業として価値を見出し商品化するのが目的です。例えば、生産背景を取材し、その野菜をつかった生産者さんのレシピと私のアレンジレシピをご紹介したり。生産者と消費者の間に立つ料理家ならではの視点で、お客さまには楽しいコンテンツを届けたいと思っています。
料理家目線で、Oisixの野菜の魅力や背景を伝えたい
————その様子はOisixのインスタグラムのリールや、「YUKIYAMESHI」のサイトでも紹介されているそうですね。例えば、どんな課題があるのでしょうか?
Oisixで人気の「トロなす」でいうと、実は6割ぐらいが廃棄されているそうなんです。在来種やブランド野菜の場合、サイズや硬さ、色などが細かく定められています。少しでも基準からはみでると、もうそのブランド野菜を名乗れないという厳しい現実がありました。ブランドを守るためとはいえ、半分以上が捨てられているのは驚きですよね。
同じようなことが、香りのよさから名付けられた「アロマ大葉」でも起こっていました。大葉も実はたくさん廃棄されているんだとか。虫食いによる穴や日焼け、育ちすぎといった理由が原因です。
どちらも味に遜色はなく、おいしく食べられるものです。ただ、市場に出回っている野菜というのは、厳しすぎるほどの基準をクリアしなければならないこと、そこからはみ出ると規格外野菜となって、廃棄されてしまう現状を目の当たりにしたんです。
野菜を加工して提供する立場の料理家として、何かできることはないか。積極的に規格外野菜を引き取って、新たな価値を生み出すことはできないか。生産地を訪れる度に感じていることです。
ケータリングも新装。おいしくサステナビリティを学ぶ場に
————そういった問題の解決策としても、リニューアルした装飾つきケータリングサービス「サステナビリティ・ストーリー・テーブル」があると伺いました。
そうなんです。いままではクライアントさまの要望を聞いて、華やかな料理とテーブルコーディネートを提供するのが「YUKIYAMESHI」のケータリングでした。新たなプロジェクトでは、ケータリングで食材が持つサステナブルなストーリーを演出し、みなさんの心に届けようとしています。
料理には廃棄野菜などを使用し、どんな背景や課題があるのかわかるようなメニューにする。テーブルコーディネートなどの装飾も同じです。ただ豪華な生花を使用するのではなく、市場価値の低いもの、例えば満開になってしまい売り物にならない花、木材やヤシの皮といった廃材を使ってアートのような装飾に変えていきます。本来廃棄されてしまうものに一手間加えて、その日1日をすてきに彩る、そういったことをテーマに掲げています。
ケータリングをただパーティやイベントの賑やかしで終わらせるのではなく、そこから会話やコミュニケーションが生まれたり、新しい学びがあるような場にしていきたいと考えています。例えば会社の福利厚生の一環として、学べる場「サステナビリティ・ストーリー・テーブル」を取り入れてもらう。そんな関わり方もできたら最高ですね。
従来のケータリングが抱える、フードロスや容器ごみ問題にも取り組む
————ごみを減らすための工夫もされているとか? ELEMINISTとしてはどんな内容なのか興味津々です。
1回のケータリングで出るごみの量ってすごいんですよ。数十人から数百人の料理を提供するわけですから当然なんですが。よく見かけるものとして、プラスチック製の小さなスプーンがありますよね。「サステナビリティ・ストーリー・テーブル」ではプラスチック製品は一切使いません。例えば、フィンガーフードなら、野菜にディップをのせてすべて食べられるものにするとか。取り皿やカトラリーもパルプ素材にこだわり、環境に配慮したものにしていく予定です。
————聞いていてワクワクしてきました。Oisixの食材と、ノンピの調理オペレーション、そして幸也さんのプロデュース力、まさに3社で食のサステナビリティに取り組んでいかれるのですね。
食品ロスを減らそうと、もともとOisixでは規格外の食材をおいしく加工して商品化する取り組みなどに力を入れられています。ですが、たくさんの規格外の食材があったとしても、一般のお客さまに届けるのはなかなか難しい。正規品がいいという方が多いので。
その点ノンピは、大量に食材を必要とする、社食やケータリングを運営する会社です。3社が連携していかに新たな価値を生み出し、サステナブルな食を提供していけるか、その実現のために動いているところです。
伝えたいことは変わらない、「本当においしいとはどういうことなのか」
家庭料理のように、手づくりで栄養たっぷりなお弁当やお惣菜は安心して食べられる。
————「YUKIYAMESHI」がどんどん進化しているのを感じました。そもそもどんなコンセプトでスタートしたのでしょうか?
はじまりは撮影などのロケ弁でした。ヴィーガンや低GIといった料理を得意としていたのもあって、女優さんやモデルさんたちに、おいしくて体にやさしい食を提供したいというのが最初です。
いまはやっていないのですが、中目黒と渋谷にデリとお弁当のお店があった頃は、忙しい人たちにとってご褒美のようなブランドでありたいと思っていました。お惣菜やお弁当ですませてしまうことをネガティブにとらないでほしい。そのため、家庭料理のようにすべて手づくりにこだわり、添加物も入れず栄養バランスのいい料理を提供していましたね。
いまは「サステナビリティ・ストーリー・テーブル」というブランドをつくることによって、業界全体をどうひっぱっていくか、そんなコンセプトに変わってきています。空腹を満たすだけではなく、本当においしいとはどういうことなのか、形は変わっても伝えていけるブランドでありたいと思います。
————とても知識が豊富な幸也さん。エシカルな取り組みやサステナビリティに興味を持つようになったきっかけを教えてください。
おいしいものをつきつめていくと、食にまつわるさまざまな情報をキャッチせざるをえなかった、というのがきっかけでしょうか。例えば野菜についていうと、どこの県でも売れる野菜ばかりをつくっています。もともと日本は四季が豊かな国。その土地の風土や気候にあった野菜をつくれば、不要なエネルギーを使って、環境を変えてまでつくる必要もなくなるのではと思います。その方が地球環境にも体にもやさしい野菜ができます。
日本古来の野菜である在来種の生産が、あまりにも追いついていないのも問題です。日本は種の海外依存度が高いため、世界的な危機で物流が停止してしまうと野菜がつくれなくなる恐れがあります。そのとき生産できるのは、自国で権利を持っている在来種の野菜だけです。私たち消費者がふだんから在来種の野菜を積極的に食べて需要を増やし、生産農家さんを増やしていくことが必要です。
いろいろ知っていくと、私たち消費者側も知識を持つことが重要なのだと気づきました。人間は食べないと生きていけません。だからこそ、もっと何を選んで何を食べるのかということに、一人ひとりが敏感になっていけばいいなと思っています。
オンラインサロンをやっていた頃は、食の背景について積極的に発信していました。ふだんの食事のさらにその先の世界を学ぶ、旬を感じるということをテーマにしていたので、メンバーと生産地を訪れたり、旬野菜を使った料理教室なども開催していましたね。
———いまのようにOisixの契約農家さんを訪ねる以前から、「YUKIYAMESHI」として生産地を訪問されていたのですね。
「YUKIYAMESHI」をはじめて2年くらい経った2017年ごろ、生産農家さんを回ったことがありました。数万食もの人の体に入るものをつくっている割には、あまりに知識が足りないと思ったことがきかっけです。もっと食材や農業について根本的に学ぶ必要があると考え、無農薬や有機の農家さんにアポイントをとって学びにいっていたんです。
その結果みえてきたのは、まさにいま取り組んでいるような日本が抱える食の課題でした。消費者と生産者の間にいる料理家だからこそできることがあるんじゃないか。これまでは自分たちだけで解決しようとしていましたが、オイシックスグループにはいったことで、より多くの人を巻き込んで挑戦していけると感じています。
私たちの食の未来のために。何を選ぶべきか考えることがエシカルな生き方
幸也さんは、食も洋服もジュエリーも、背景を知らないものは買わない。環境に配慮したものをなるべく選ぶようにしているそう。
————これからどんな活動に力を入れていきたいですか?
Oisixの契約農家さんの取材をするなかで、たくさんの課題がみえてきました。いまは畑だけなのですが、少しずつ海や山の問題にも広げていきたいと思っています。
とくに漁獲量の減少は喫緊の課題です。背景にあるのは、温暖化の影響だけではなく、私たち日本人の食べ過ぎ、獲り過ぎがある。そのための仕組みづくりも、自治体と協力しながら実現可能な提案をしていきたいですね。これこそ個人ではなく、グループ会社だからできること。さらに課題を解決するためのチームをつくり、会社として利益を生むプロダクトにつなげていくのが目標です。
————エシカルな暮らしをはじめたいと思っている読者に向けてアドバイスをお願いします。
考えることが一番エシカルなことだと思っています。食材にしろ、日用品にしろ、何か買う前にいったん立ち止まって考える。本当に必要なものなのかどうか、どんな生産背景の商品なのか。そのためには、やっぱり購入する側にも知識が必要ですよね。
いまはネットで調べれば、すぐに情報が手に入る時代です。私たちが何を選ぶかによって売れるものが変わり、つくる企業側も変わっていく。そうすることで社会全体にいい循環が生まれていくのではと思っています。
“おいしい、楽しい”からみなさんの食の偏差値をあげていくのが、料理家としての私の使命です。今後は体験とセットで学べるイベントなども考えているので、ぜひ一緒に日本の食の未来について考えていきましょう。
寺井幸也/料理家。YUKIYAMESHIプロデューサー、株式会社ノンピ CSSO(Chief Sustainability Story Officer)。1988年鹿児島県生まれ。2015年より、彩り豊かな家庭料理をメインにしたケータリング事業「幸也飯」をスタート。大手企業やイベントケータリングを数多く手がけるほかファッション誌やWEB媒体におけるフードスタイリングやレシピ提供、飲食店プロデュース、企業との商品開発、イベント出演、オンラインサロン運営など、幅広く活動中。
Instagram :@ yukiya.terai
Youtube :@いなりーまん食太郎
WEBサイト: https://www.yukiyameshi.jp/
ポッドキャスト:寺井幸也のTalk to me
写真提供/YUKIYAMESHI 取材・執筆/村田理江 編集/後藤未央(ELEMINIST編集部)