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「リズムの力」に魅了された理学療法士の挑戦!心と体と社会を繋ぐスポーツリズムトレーニングとは?

Sports

「健康を失った人をリハビリするだけでなく、スポーツで日本を元気にしたい!」

そんな信念を抱きながら、一般社団法人スポーツリズムトレーニング協会のシニアインストラクターとして普及や指導者育成の活動を続けている森宜裕さん(以下、森)。理学療法士としてリハビリの最前線で活躍していた森さんが、2011年の東日本大震災をきっかけに選んだのは「リズムで日本を元気にする」挑戦でした。

森さんが気づいた「リズムの力」とは一体何なのか。

この記事では、リズムが心と体に与える不思議な力や、スポーツリズムトレーニングの可能性について語っていただきました。森さんの熱くて優しい想いも感じながら、ぜひ本文を読み進めてみてください!

東日本大震災で気づいた想い「スポーツで日本を元気にしたい!」

ーースポーツリズムトレーニングを広めようと思ったきっかけについて教えていただけますか?

森)私がスポーツリズムトレーニングに出会ったのは2017年ですが、そのきっかけをさらにさかのぼると、2011年の東日本大震災にまで遡ります。

ーー震災が大きな転機になったんですね。

森)そうです。それまでは、理学療法士としてリハビリの現場で高齢者や麻痺の患者さんを支援する日々でした。ただ、東日本大震災後に「健康を失った方をリハビリするだけでなく、スポーツで日本を元気にしたい!」と考えるようになり、スポーツ分野の勉強を始めました。

スポーツ選手のトレーニングをする中で、柔軟性もある、筋力もある、いわゆる運動神経が良いとされる選手たちが、思ったほどパフォーマンスを発揮できていない場面が多いことに気づきました。「何が足りないんだろう」 と探していく中でリズムという概念に出会い、これは可能性があると思ったんです。

ーーリズムがパフォーマンスに影響するという発想は、従来のトレーニングではあまり語られない視点ですね。

森)そうなんですよ。それまではリズムというのはダンスや音楽に関わるものだと思われがちでした。でも、リズムはもっと根源的で、人間の動きや感覚全般に深く関わっていると直感しました。

最初は半信半疑でしたが、実際にリズムを取り入れたトレーニングを試してみたところ、選手たちの集中力や体の反応が驚くほど良くなりました。これをもっと多くの人に広めれば、スポーツだけでなく、人生全般にも良い影響を与えられると確信したんです。

そして、これがただのトレーニングではなく、子どもたちやアスリートたちの笑顔を引き出す力を持っていることにも気づきました。楽しさがともなうからこそ続けられる。それがスポーツリズムトレーニングのおもしろさだと思います。

U15ホッケー日本代表チームにスポーツリズムトレーニングを指導する様子

リズムは言葉や文化の壁を超えて1つになれる

ーースポーツリズムトレーニングの魅力についてもぜひ教えてください。

森)僕個人が感じていることで、正しくは協会のHPを見てほしいのですが、一言で言うなら、「日本を元気にできる」トレーニングだということですね。とにかくスポーツリズムトレーニングは楽しいんです。楽しんでいるうちに自然とパフォーマンスが向上していくというところが魅力的です。

ただ楽しいだけでなく、スポーツリズムトレーニングは科学的な裏付けがあります。リズムを活用することで身体の動きが整い、効率的なパフォーマンスが実現していきます。

ーー具体的にどのような成果が見られるのでしょう?

森)たとえば、ウォーミングアップでリズムを取り入れると、選手の集中力が高まり試合での動きがスムーズになります。また、コミュニケーションの一環としても活用できます。リズムを通じて、言葉や文化の壁を超えた繋がりが生まれるんです。

ーー言葉や文化の壁を超える、というのは興味深いですね。

森)実際に、インドネシアや東南アジアで講習を行ったときにも感じました。リズムは共通の体験を提供してくれます。みんなが同じ音楽に合わせて体を動かすことで一体感が生まれる。これはスポーツリズムトレーニングの素晴らしい力で、世界平和にも通じる可能性があると感じています。

だから、スポーツリズムトレーニングは単なるトレーニングの枠を超えて、人々を繋げるツールとしても活用できると思っています。そして、この楽しさが子どもから大人や高齢者まで、幅広い層に受け入れられる理由でもあると思います。

ーー楽しみながら、しかも効果がある。それが普及の鍵となっているのですね。

森)日本ではとくに型を重視する文化がありますよね。正確さや美しさが求められる一方で、リズムのような感覚的な部分が後回しになりがちです。でも、リズムが育つことで、自分の体を自由に動かせる感覚が養われます。これが結果として、より良いパフォーマンスや日常生活の質の向上に繋がると考えています。

ーースポーツリズムトレーニングが持つ可能性は非常に広いですね。

森)その通りです。そして、ただスキルを磨くだけでなく、トレーニング中に感じる楽しさや達成感が、参加者の内面的な成長にも繋がります。この点は他のトレーニングにはない特徴だと思います。

たとえば、菅平で行ったラグビーの合宿で、スポーツリズムトレーニングをウォーミングアップとして導入した際、他のチームの監督やコーチたちが興味を持って声をかけてくれました。「これ、何ですか?」と。単純に楽しいだけでなく、その場にいる全員が興味を持つ。そして、取り入れた選手たちが例外なく生き生きとした表情になってくれます。

楽しさを伴うスポーツリズムトレーニングは、スポーツだけでなく、人間関係や社会全般にポジティブな影響を与える可能性があると僕は信じています。

スポーツ指導者に対してもスポーツリズムトレーニングの講義を行います

なぜ、リズムを感じると人は安心できるのか?

ーーリズムがなぜ重要なのか、もう少し詳しく教えていただけますか?

森)リズムって実は私たちの生活に存在しています。遠い昔、まだ人類が狩りをしていた時代から、リズムはコミュニケーションや生活の一部でした。たとえば、危険を知らせる音や、狩りの成功を祝う踊りなど、すべてが繰り返しのパターン、つまりリズムで伝えられていました。

リズムには繰り返しがあるからこそ安心感が生まれます。「また同じパターンが来る」という予測可能性が、人間に安心や安全な気持ちをもたらすんです。夜が来たら朝が来る、波が寄せては返す、これらのリズムが私たちの心を落ち着かせてくれるんですよね。

ーー遠い昔の話、すごく興味深いです。現代に生きる私たちにも、それが影響を与えているのでしょうか?

森)間違いなく与えています。人間は本能的にリズムを求めていますから。たとえば、民族ごとに心地よいと感じるリズムが違うのもその証拠です。日本の五七五や四拍子は、私たちにとってすごく馴染み深いですよね。一方、アフリカの伝統的なリズムはもっと複雑で、細かいパターンが多い。これもその地域で育まれた文化的なリズムの違いです。

ーーなるほど。民族ごとに違いがあるというのは面白いですね。それぞれのリズムが持つ心地よさや安心感は、どうして生まれるのでしょう?

森)その土地の風土や生活習慣、自然環境が影響していると思います。リズムは文化の中で育まれるものですから、その地域の人々が必要とする心地よさやテンポに合わせて進化してきたんでしょうね。でもどの民族でも共通しているのは、リズムがあることで「つながり」を感じられるということです。

ーーその「つながり」が、スポーツリズムトレーニングにも活きているんですね。

森)はい。たとえば、トレーニングの場でみんなが同じ音楽に合わせて動くと、一体感が生まれるんです。一緒にジャンプしたりステップを踏むだけでも、自然と楽しくなりますよね。これは祭りの場面と似ていると思います。何かを共有することで「自分は1人じゃない」と感じられるんです。

スポーツリズムトレーニングでは、外の音に合わせながら自分の動きを調整します。この作業が「自分と環境の対話」になり、自分自身の状態を見つめ直す機会になるんです。特に現代は、スマホやパソコンを通じて情報を一方的に受け取ることが多いですが、スポーツリズムトレーニングは能動的に自分の外側にある環境と関わる時間を提供してくれるんですよ。

ーーそう考えると、リズムは身体だけでなく心にも影響を与えるんですね。

森)ええ、リズムには心を整える力があります。たとえば、仕事や日常生活でリズムが崩れると、不安やストレスが増えますよね。逆にリズムを整えることで気持ちも落ち着いてきます。これをスポーツに応用すれば、パフォーマンス向上だけでなく、メンタル面でも大きな効果が期待できるんです。

リズムは単なる「音の繰り返し」ではなく、私たちの生活全般を支える重要な要素です。これをもっと多くの人に知ってもらい、活用してもらいたいと思っています。

滋賀県草津市のスタジオ「BeeTanz」集合写真

「安心と挑戦の間」を埋めるもの、それがスポーツリズムトレーニング

ーー森さんの現在の取り組みやこれからの展望について教えていただけますか?

森)今行っている活動の柱は2つあります。1つは、滋賀県草津市のスタジオを中心にした地域での取り組み。もう1つは、スポーツリズムトレーニングの全国展開を目指す活動です。地域のスタジオでは、子どもたちにリズムを体験しながら、楽しんで体を動かす場を提供しています。一方で、インストラクターの育成を進めることで、全国的にスポーツリズムトレーニングを広める仕組みづくりにも力を入れています。

ーー地域での活動と全国的な展開、どちらも重要ですね。その中で特に意識していることは何ですか?

森)特に意識しているのは、「安心と挑戦の間を埋める」ということです。安心できる環境を提供しながら、そこから一歩踏み出して挑戦できる場を作りたいと思っています。それは、子どもたちだけでなく、高齢者や社会人にとっても必要なことだと思います。

ーーコロナ禍では「モリズーム」というオンライン部活を行い、全国から600名の中学生が毎日集まっていたと聞きました。その時にもその考えがベースにあったのでしょうか?

森)子どもだけでなく大人もですが、コロナ禍ではリモートワークが中心になったり、学校に行けなくなったりして、日常の生活リズムが大きく崩れました。それによって知らず知らずのうちに不安感が増し、大きなストレスになっていたと思います。

だから、オンライン部活では「何をするのか」よりも「毎日決まった時間に集まること」自体に大きな意味がありました。それでリズムがつくれますからね。決まった時間に集まって活動を繰り返すことで、子どもたちに安心感をつくりたいと思ったんです。結局、2020年の4月から2ヶ月間、毎日17時から18時まで欠かさず開催していました。

全国から約600名の子どもたちが集まっていたオンライン部活「モリズーム」

ーー安心感があるからこそ、その次の挑戦にも繋がっていくわけですね。

森)その通りです。そして、スポーツリズムトレーニングはその両方を兼ね備えたトレーニングだと思っています。安心の中で楽しく動きながら、結果的に新しいスキルや自信を得ることができる。それがスポーツリズムトレーニングの強みと思います。

スポーツリズムトレーニングは、スポーツ選手や子どもたちだけでなく、働く大人たちや高齢者にも大きなメリットがあると考えています。特に、現代社会ではストレスが多く、心と体のリズムが乱れがちです。リズムを整えることで、健康を保つだけでなく、人間関係や仕事の効率も向上します。

ーーまさに全世代にとって重要な取り組みですね。

森)だからこそ、地域の活動と全国的な広がりを同時に進めていきたいんです。リズムの力って本当にすごいんですよ!

ーー本日は貴重なお話をありがとうございました!

写真提供:一般社団法人スポーツリズム協会、一般社団法人BeeTanz

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