「昔のゲーム攻略本を読む」という趣味が楽しすぎるので紹介させて欲しい
ところで皆さんは、「昔のゲームの攻略本を読む」という趣味をご存知でしょうか?
私は子どもの頃からゲームの攻略本が大好きで、ゲームを遊ぶのと同じか、もしかするとそれ以上に、攻略本を読むのに時間を使っています。
そのゲームを遊んでいる期間だけではなく、とっくにクリアし終わった後も延々と読み続けますし、全然遊んだことのないゲームの攻略本でも喜んで読みます。
私の嗜好が珍しいということではなく、恐らく同じような「攻略本愛好者」は世の中にたくさんいる、あるいはいたのではないでしょうか。
ゲーム攻略本を読むことで、私たちは「ゲームの世界」に触れることが出来ました。
実際にゲーム機を立ち上げなくても、頭の中でそのゲームを楽しむことが出来ました。ゲームの表層に描かれていない部分でも、情報を脳内補完し掘り下げることが出来ました。
親に「ゲームを遊ぶ時間」を制限されていたとしても、攻略本を読む分には「なんか読書してるように見える」という名目で親の監視を免れることが出来ました。だから私たちは、夜遅くまでゲーム攻略本を読みふけりました。
「ドラゴンクエスト公式ガイドブック」を。「ロマンシングサ・ガ基礎知識編」を。「必勝作戦メチャガイド」を。「信長の野望 武将FILE」を。「ウィザードリィIIIのすべて ファミコン版」を。
ゲーム攻略本には、夢がありました。愛がありました。知識と、少しのユーモアがありました。時にはゲームと全然関係ないネタ情報も載っていましたし、思いもよらないビッグネームによる「ゲームコラム」や「おまけ漫画」も載っていました。
その攻略本を書いている人、それぞれの思いや愛や偏執が感じられるようで、そういった「ゲーム攻略と何の関係もない情報」も私は大好きです。
先日、飲み会でファミコンのゲームの話題になった時、「この前、ちょうどファミマガの貝獣物語の攻略本読みまして」という話をしたのですが、その際、
「しんざきさん、貝獣物語(※ナムコ発のRPG。とても面白いのだが、ハマりバグがあったり魔法の処理がおかしかったりと、幾つか難点がある。またラストダンジョンが鬼畜仕様で、ゲーム添付のおまけ冊子「涙の密書」がないとまず攻略出来ない)遊んでるんですか?」
「いや今は遊んでないですけど……30年くらい前にクリアはしました」
「遊んでないのに、そんな昔の攻略本読んでるんですか!?」
とびっくりされたのです。そこで初めて、「あ、「ゲームを遊んでなくても攻略本を読む」という習慣がない人もいるんだ」と気付きました。
私にとって、「ゲーム攻略本を読む」というのは、「推理小説を読む」とか「漫画を読む」「エッセイを読む」「歴史書を読む」というのと変わらない、一つの読書ジャンルです。
だから、全然遊んでないゲームの攻略本でも読みますし、古本屋で見つけたら喜んで買います。
今回は、そんなゲーム攻略本の中でも私が特に気に入っていて、何度も何度も読み返している「オールタイム・ベスト」を何冊か紹介したいと思います。
○サンサーラ・ナーガ2 ワールドガイドブック(ファミコン通信)
数あるSFCRPGの攻略本の中でもお気に入りの一冊です。
そもそもサンサーラ・ナーガというのは、「主人公ではなくお供の竜を育てる」というシステムが特徴の、ビクター発のファミコンRPGです。
知る人ぞ知るゲーム漫画家の桜玉吉先生がキャラデザを担当されていることでも有名で、ヒンドゥー教やバラモン教を元にした独特の世界観と味のあるストーリーで、根強いファン(私とか)がいるシリーズです。
で、この「サンサーラ・ナーガ2 ワールドガイドブック」は、続編のSFC版「2」の攻略本なのですが、「何故か数ページにわたって蕎麦や牛丼のメニューと紹介文が載っている」というのが非常に大きな特徴になっています。
ちょっと引用させていただきますと、
こんな感じで、実際の蕎麦屋で掲示されていても全然違和感がない画像とコメントが並んでいます。
しかも画像がやたら美味そう。これ読んでるだけで蕎麦食べたくなってきます。
「月見そばの月を壊して食べるかどうかは論争の的だが、立ち食いなら壊して食べた方がらしいのでは」とか、「立ち食いでてんぷらと言えばかき揚げと相場が決まってる」とか、こだわり度の強い内容も記載されています。
これ、ゲームと全く関係ないかというとそういうわけでもなく、「サンサーラ・ナーガ」では作中店舗として「はらたま」という蕎麦屋のチェーン店が出ていまして、その「はらたま」のメニュー紹介という体裁なのです。
とはいえ攻略に殆ど関係ない情報ということは間違いなく、純粋に「世界観の解像度」を上げるためだけのコンテンツといっていいでしょう。
こういうの、作り手のこだわりや妄想が強く混入されていて、読んでいる側としては「そうそう、こういう大の好き!!」ってなります。
こういう、「攻略上は何の役にも立たない、けれどその世界に関わるコンテンツ」を読むことこそ、攻略本の醍醐味だと私は思うわけです。
スタッフに「撮影&料理コーディネイト」という役職が書かれている攻略本は、なかなか例が少ないのではないでしょうか。
攻略本としては、攻略チャートや敵のデータからダンジョンのマップ、武器・防具のデータまで一通り網羅していて、これまた読んでいるだけでゲームを遊んでいる気になれる作り。
ラストダンジョンまでちゃんとマップが載っていることも特徴で、説明不足な点もややあるものの、十分攻略で活用出来る内容になっています。
全くの余談ですが、サンサーラ・ナーガ2は「めちゃくちゃ曲が良い」「サントラに収録されているアレンジ版も輪をかけて素晴らしい」ということも特徴で、フィールド曲の笛の音の寂寞感もさることながら、アレンジ版「遊泳」の後半ピアノソロは最高の高という他ありません。サントラがプレミアついてしまっているのが残念でならないんですが、機会があれば是非聴いてみていただきたい次第です。
○半熟英雄 天下泰平記(NTT出版)
言わずと知れたNTT出版による、SFC版「半熟英雄」の公式攻略本。
NTT出版といえば、FF・聖剣・ロマサガなどスクウェアの名作RPGの攻略本を数多く出版していることで著名で、時折誤情報も混じっているものの、イラストや周辺情報も豊富に掲載されていて、読むだけで楽しい本が多いです。
特に色んなタイトルの「基礎知識編」は、基礎知識といいながら攻略と関係ないイラストや設定、世界観の情報が豊富に記載されていてとても好き。「完全攻略編」より「基礎知識編」の方が好き派閥です。
それはそうと、そんなNTT出版の攻略本の中でも、この「半熟英雄 天下泰平記」は特にお気に入りです。そもそも半熟英雄といえば、当時はまだコンシューマーでは珍しかったRTS(リアルタイムストラテジー)のゲームであって、数々の「将軍」と召喚獣である「エッグモンスター」の戦いが大変面白いのですが、「天下泰平記」ではその将軍とエッグモンスターについて、ゲーム内だけでは分からない情報が様々に補完されています。
特に将軍については、ゲーム内では攻撃、内政などのパラメータの他、「趣味」「性格」という項目がさらっと記載されているだけだったところ、この攻略本ではそれぞれの将軍の人となりや普段の様子について、短いながら一人一人コメントされていて、それだけでも滅茶苦茶面白いわけです。
「ぶつぞう」が趣味と書かれていて、遊んでいる間「???」となったヘラについて、「信仰しているわけではないが仏像が好き。最近仏像に似てきたと言われるようになって、喜んでいいか悩んでいる」とか、初代からの強将軍「アポロン」については「ワインにくわしいと思っているが実際に味が分かっているかは不明」とか、とにかく「将軍一人一人の個性」がちゃんと伝わってくる記載になっており、読んでいるだけで作中世界観の解像度がグングン上がってくるんですよね。レア将軍を雇えた時の喜びが倍加すること請け合いです。
この作品、FFシリーズやロマサガシリーズから(名前だけとはいえ)キャラクターが将軍として出演しており、例えば「カイン」が「大リーグを見るのが趣味、子どもが大好きなよきパパ」となっていたり、エッジはバーボンが好きな大酒飲み設定になっていたりします。こういう「武将データ」的なコンテンツの味を煮詰めたような作りになっていて、これまた大変お気に入り。
攻略本としても、各面のマップから切り札、奥の手のデータ、ボスの紹介から攻略のポイントまで、非常に参考になる内容になっています。データ的にも大きな問題は見当たらず(半熟値と半熟レベル、登場エッグモンスターの関係など、もう少し書いた方がいいのでは?と思う点はないではないのですが)、有用な攻略本と言っていいのではないかと思います。
余談ながら、「半熟英雄」は「4」まで出ているわけですが、ゲームとしては初代のファミコン版の時点で既に完成していたんじゃないかと思う部分もあります。
通常の戦略RPGみたいに複数の勢力で競い合っている展開、知らない間に他国が強大化していたりとか、戦略要素を考えるのも非常に面白いゲームでした。難易度も高いんですが。
○RPG攻略大全(徳間書店)
こちらはちょっと毛色が変わって、昔の「ファミリーコンピューターマガジン」のおまけでついてたヤツです。
当初は「RPG攻略大全上巻」「下巻」だけだったんですが、その後も「最新版」「○○年版」とどんどん続刊が出ていき、「AVG攻略大全」や「SLG攻略大全」などにも派生していきました。
これ、かつてはちょくちょく見かけた「一冊に複数のゲームについての攻略情報が収録されている」攻略冊子の代表格だと認識しておりまして、一作一作の情報量はそこまで多くないんですが、色んなゲームの情報に触れることが出来て、読んでいるだけで幸福感が凄かったのです。旺文社の「必勝作戦メチャガイド」なども有名かと思いますが、個人的に一番馴染んでいるのはこの「攻略大全」シリーズ。
内容としては、がーっと攻略順と主要なダンジョンのマップなどが掲載されている、現在で言う「攻略チャート」風な内容がメインではありますが、例えドラクエのエンディングについて「これだけ感動したエンディングは当時なかった」と記載されていたり、時折筆者の感想ダダ漏れの内容が観測出来て、これも読んでいるだけで楽しいです。「ワルキューレの冒険」のダンジョンマップには大変お世話になりました。
ちなみに、こういう「複数のゲームタイトルが載った攻略本」で存在を知って遊び始めたゲームというのも結構な数あって、例えば「ウルティマ 聖者への道」とか「スクウェアのトム・ソーヤ」はそのパターンでした。スクウェアのトム・ソーヤ、面白いですよね。あのゲーム遊んでるとパン食べたくなります。
○ウィザードリィIIIのすべて ファミコン版
こちらも言わずと知れた、Wizardry関連のコンテンツと言えばこの人、「ベニー松山」氏の手による攻略本。私が一番遊んでいたのはファミコン版の「III」(Apple・PC版で言うところの#2)で、一番読み込んでいる攻略本もこの「ファミコン版III」のものになります。
この本はとにかく、末弥純氏が描く様々なモンスターの美麗なイラストと、そのモンスターに対する解説文が秀逸の一言。
本の序盤でモンスター紹介があるのですが、そこだけでも画集と同じくらいの価値があると感じます。怖くって綺麗で可愛くって愛嬌があって、どのモンスターの絵も本当に素晴らしい。
モンスター解説も詳細かつ軽妙で、フラックが2体で出現する理由や、ライカーガスが古代スパルタのリュクルゴスのことだという話や、マーフィーズゴーストについての解説など、ベニー松山氏の知識に裏打ちされた内容になっていて読んでいるだけでも楽しいです。
巻末にWizardryのファンコミュニティである「友の会」のコーナーがあることも重要で、愛好者の投稿やイラスト、4コマ漫画なども掲載されています。
ファンコミュニティというものの存在を知ったのもこの頃だったかなーと思い、投稿した人たちは今頃何をしてるのかな、「五つの試練」とかクリアされたかな、と想像するのも楽しい限りです。
攻略本としては、モンスターや武器のデータ、マップのデータなど、必要十分な内容がきっちり押さえられている他、最終階となる地下6階だけは「自分で書き込んで完成させる」作りになっており、私自身が書いた未完成のマップが残っています。今では全部頭に入ってるんですが、当時は苦戦したんだなーと懐かしいことこの上ありません。
○ミスティッククエスト スクープガイドブック & コミック(徳間書店)
「攻略本」というよりはゲームの紹介本に近いのですが、こちらも愛読している一冊なので紹介させてください。ファイナルファンタジーUSAこと「ミスティッククエスト」についての、ファミマガのおまけ冊子です。
ミスティッククエストは、ゲームとしてはFFというよりGBの聖剣伝説(こちらも元々は「ファイナルファンタジー外伝」という扱いだった)に近く、FF歴代シリーズの中でも最も話が早い主人公である「ザッシュ」が、あまり深く物事を考えず魔王ダークキングを倒す為に活躍するゲームなのですが、その存在を知ったのがこの「スクープガイドブック」です。
この冊子、「マリーとエリーのアトリエ」や「スーパービックリマン」のコミカライズも手がけているおちよしひこ先生による紹介漫画が載っており、これがまた非常にスピード感があって面白く、「このゲームを遊んでみたい!」と思わせること大なのです。
特に水の街アクエリアに住んでいる「フェイ」については、おちよしひこ先生の可愛らしい絵柄が全面的に活かされた非常に魅力的なキャラとして描かれており、「なんか知らないがなにかと絶望している」という本人の挙動も交えつつ、どう考えてもザッシュ本人より戦力になるというゲームの特徴を100%伝えきった、非常に良く出来たコミカライズなのです。
「ゲーム雑誌や攻略本に載っているおまけ漫画」というのは、これに限らず非常に侮れないものが多く、「この人がこの漫画描いてたの!?」と十数年も経ってから気付くことも頻繁にあるという、それはそれでとても深いコンテンツです。内藤泰弘先生のサムスピとか、面堂かずき先生のロマサガ2なんかも有名ですよね。
なにはともあれ、ゲーム雑誌のおまけ冊子最高ですよねという話でした。
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長々書いてしまいました。
かつて、私たちが「攻略本」を舐めるように読んでいた時代から、どれくらい経ったのでしょうか。20年?30年?
上記の通り、「ゲーム攻略本」は非常に面白いコンテンツなのですが、唯一の難点として「入手性が非常に悪い」という問題があります。NTT出版や光栄の武将ファイル辺りはまだしもですが、ゲーム雑誌の付録攻略本となると、オークションサイトを探し回らないと手に入らなかったりします。
近年では、ゲーム攻略情報というのはほぼインターネットで賄えるようになりました。また、web上の情報でも、個人による「攻略ページ」というものも、多くが企業によるwiki風の攻略サイトによって隅に追いやられてしまい、個人のコンテンツとしては「攻略動画」が主流になっているようです(もちろん個人サイトで頑張っていらっしゃる方もいますが)。その影響もあってか、最近では「攻略本」というものを見かけることもだいぶ少なくなりました。
それが悪い、ということではありません。ただ、昔とは随分風景が変わったな、という、ただそれだけの話です。
ただ、今でも私は「ゲームの攻略本」が好きです。その瞬間にはそのゲームを遊んでいなくても、読むだけで十分「このゲームおもしれー!!」と感じられる、時にはゲームの世界観を掘り下げ、時にはそのゲームに触れるきっかけになる、そんな「攻略本」が好きなままです。だから、今でも私はここにいます。
今でも「ゲーム攻略」に関わり続け、コンテンツを作り続けている方々に心からの敬意を表しつつ、なんなら皆さんにもちょっと実家の本棚を漁って、「昔の攻略本」を手に取ってみてはいただけないかなと、そんなことを考えてこの記事を書いた次第です。
今日書きたいことはそれくらいです。
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【著者プロフィール】
著者名:しんざき
SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ。三児の父。
レトロゲームブログ「不倒城」を2004年に開設。以下、レトロゲーム、漫画、駄菓子、育児、ダライアス外伝などについて書き綴る日々を送る。好きな敵ボスはシャコ。
ブログ:不倒城
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