上手くもないのにコーチに贔屓されているのが苦しい、プレッシャーを与えないでほしい問題
特に上手いわけでもないのにコーチにひいきされている息子。一生懸命頑張っているけど、実力がないのに気に入られている状況もプレッシャーでメンタルがすり減っている。
見ていて苦しい、プレッシャーを与えないでほしい。何も言わずに耐えるのがいいか、コーチに相談したほうがいいか、というご相談。みなさんならどうしますか?
スポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、悩めるお母さんに寄り添いアドバイスを送ります。
(構成・文:島沢優子)
(写真は少年サッカーのイメージ ご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)
<サッカーママからのご相談>
はじめまして。
息子(11歳)がサッカーのクラブチームに入っています。
コーチに贔屓をされています。本人も贔屓されていると感じています。
コーチはお気に入りの子には何も言わず、嫌いな子にだけ厳しく接します。
実力がないのは子ども本人もわかっていて一生懸命頑張っていますが、メンタルも擦り減り、見ていて苦しいです。
通常は「ほかの子をえこひいきして、うちはないがしろにされてる」などの悩みが多いと思うのですが、上手くもないのに贔屓されているのもツライです。プレッシャーを与えないでほしい。
何も言わずに耐えるしかないのか、コーチにその旨を伝えるべきか悩んでいます。
<島沢さんからの回答>
ご相談ありがとうございます。
コーチの贔屓(ひいき)、いわゆる「特定の子どもに対する特別扱い」はなかなか難しい問題です。なぜなら、特別扱いはどうしても主観になりがちで、ある意味「ここからは特別扱い」という基準がありません。
このコーチに「お気に入りの子には何も言わず、嫌いな子にだけ厳しく接する」理由を尋ねてみたいところですが、具体的にはどんな言動、扱いなのでしょうか?
■上手くないのに指導者に贔屓されるケースでよくあること
よくあるのは、お母さんがおっしゃるように「うまい子を贔屓する」ケースですが、贔屓されている息子さんは「実力がない」と書かれているので、どうもそうではなさそうです。
贔屓されているがために仲間からいじめられているのか? 特別扱いをからかわれたりして傷ついているのか? 詳しい様子や、お気に入りと嫌いな子の分かれ目が何なのか、などもう少し具体的な情報を知りたかったところです。
それゆえにはっきりとしたことは言えません。ここには様子が書かれていないので、あくまでも一般論として聞いてください。
上手くないのに(と言っては息子さんに失礼ですが)贔屓されてしまうケースでよく出現するのは、サッカーがうまくても、指導者の言うことを聞かずに自分の判断で自由にプレーしてしまう子を嫌って、素直に言うことを聞く子を好むコーチです。
とはいえ、前述したように特別扱いは主観なので、コーチと話し合いをするとしても「私は贔屓などしていない」と一蹴されそうです。
■子どもの気持ちに同化してしまっているように見える
もうひとつ、お母さんが贔屓しないでほしいと訴えても、コーチから「そう言うことは子ども自身から言えるようにしてほしい」と言われ、取り合ってもらえないかもしれません。
そして、それはある意味サッカーのコートの中で起きていることはクラブ側の範疇です。本来ならお母さんの力の及ぶところではありません。
まずは、ご自身と向き合ってみませんか?
お母さんは「実力がないのは子ども本人もわかっていて一生懸命頑張っていますが、メンタルも擦り減り、見ていて苦しい」と書いています。
この一文を読む限り、息子さんは贔屓されるのが精神的にきついという肉声が聞こえてきません。苦しいのはお母さんではないでしょうか?
お子さんがかわいそうに感じてしまって、お母さんの心がひどく傷ついているように見えます。これまでの連載で何度か書きましたが、お子さんの「辛い」「悔しい」「苦しい」といったネガティブな気持ちを聴いたら「そうだね、嫌だね」と共感してもいいけれど、(お母さんも辛い、苦しい)と子の気持ちと同化してはいけません。正しい判断が困難になります。
今のお母さんの状態は、同化してしまっているように見えます。同化して自分も傷ついていると、原因であるコーチにクレームを言いたくなります。
■様子を見つつ、本人の意向を確認しよう
そこで提案です。もう少し様子を見ませんか?
様子を見つつ、やはり楽しくサッカーができないと本人が言うのであれば、息子さんには「どうしたい? 何か方法を考えてみようか?」と持ち掛け、話し合ってみましょう。
そこで「チームを替えたい」「サッカーをやめたい」と言うかもしれません。であれば、替えることを検討してもいいでしょう。
他方やめるまでではないのなら、彼に「コーチに具体的にどうしてほしいのか?」を尋ねてもよいでしょう。
例えば、何かが出来ていない子と、できている自分を比べないでほしい、みたいな具体的な言動です。その場合、日本は指導者と子どもはなかなか対等な関係性を築きづらい文化があるので、息子さんがコーチに「こうしてほしい」と伝えるのは難しいかもしれません。
そこを「お母さんから言ってみようか?」と伝え、本人がOKすれば話してみましょう。
■親から話す場合のポイントは「うちの子かわいそう、何とかして」ではなく......
お母さんから話すとしたら「贔屓されたうちの子は苦しんでいる。かわいそう。何とかして」というニュアンスではなく、教育的な観点から訴えてはどうでしょうか。
例えば「息子は特別扱いされているように感じて苦しんでいるようだ。小学生の間は優劣ではなく、仲間と楽しくサッカーをして成長してほしいと親として考えている」と伝えるのもひとつの方法です。
態度を変えろ、こうしろといった注文はしなくていい。ここでは「わが家はこんな教育観を持っています」と伝えるだけでいいのです。
そのうえで「どうしろっていうんですか?」と聞かれれば、親として息子の今の状況を伝えたかっただけだということ、「息子の話を聞いてもらえませんか?」と丁重にお願いをし、サッカーを楽しくできるよう「一考していただけると非常に助かります」と頭を下げてはいかがでしょうか。
■本人が望んでなければ何もしない、動かない。それも立派な子育て
(写真は少年サッカーのイメージ ご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)
一方、息子さんがお母さんがコーチに話すことを望んでいないのであれば、何も言わなくていいでしょう。何もしない。動かない。それも立派な子育てです。動き過ぎると、子どもが自我を出す芽を摘んでしまうことがあります。
「わかったよ。何も言わないでおくね。でも、いつでも君の味方だよ。サッカーが楽しくできないのであれば相談してね」
そのように託すことができるといいですね。落ち込んでいたとしても、何も言わなくてよいです。
息子さんから「ママ、聞いてよ~今日さ~」と話しかけてきたときだけ「ふーん、そうなの。それは悔しいね」と言って、彼の気持ちに共感してあげてください。
そうやって家庭が子どもにとって安全基地になれるといいですね。そのためには、まずはお母さんがこころ穏やかになれるよう、ご自分の感情を整理しましょう。
島沢優子(しまざわ・ゆうこ)ジャーナリスト。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』『東洋経済オンライン』などでスポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実 そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート 夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』(小学館)『世界を獲るノート アスリートのインテリジェンス』(カンゼン)『部活があぶない』(講談社現代新書)『スポーツ毒親 暴力・性虐待になぜわが子を差し出すのか』(文藝春秋)『オシムの遺産 彼らに授けたもうひとつの言葉』(竹書房)など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著・小学館)『教えないスキル ビジャレアルに学ぶ7つの人材育成術』(佐伯夕利子著・小学館新書)など企画構成者としてもヒット作が多く、指導者や保護者向けの講演も精力的に行っている。日本バスケットボール協会インテグリティ委員、沖縄県部活動改革推進委員、朝日新聞デジタルコメンテーター。1男1女の母。新著は「叱らない時代の指導術: 主体性を伸ばすスポーツ現場の実践」(NHK出版新書)