大手通信の残念な裏事情――AI推進部署なのに「社員の大半がAIを使えません」 “ドヤ顔“上司の知識はネット記事レベル
日進月歩のAI時代において業務効率化はもちろん、創造性の向上に生成AIを活用する企業ももはや珍しくない。ITや通信業界はその最たる例だろう。
だが、「うちはAIについては出遅れ過ぎています」——こう明かすのは、大手通信企業に勤務する河本さん(仮名、40代女性)。
「社員の大半がAIを使えません。そのため、社員がAIを使えるようにするにはどうすれば良いか、という会議ばかり……」
しかも、その会議を取り仕切る上司もAIを使ったことがなく、聞きかじった「AIうんちく」を垂れ流すだけというお粗末ぶり。河本さんに、とある大手通信企業における衝撃のAI裏事情を聞いた。(文:天音琴葉)
若手の質問に「聞こえなかった」振りをする管理職
ITエンジニアである河本さんの所属は、「社員全員がAIツールを使えるように広めること」が使命で、言わばAI推進部署のようだ。毎週1回開かれる部内会議では必ずAI関連の話が議題に上がるが、その実情は驚くべきものだという。
「管理職が雑誌やネットニュースの記事をそのままパワーポイントに貼り付け、『自分は最先端を知っている』と言わんばかりのドヤ顔で語り出します」
この管理職にAIのうんちくを聞かされ続け、もう3年ほどになる、と河本さんは苦笑する。
問題は、管理職自身が紹介したAIツールを使っていないことだ。当然、記事に書いてある以上の知識を知らないため、部下から質問されても返せない。実際、場が凍りつく出来事もあったという。
それは、管理職があるAIツールの既存のレコメンド機能を得意げに紹介した時のこと。若手の新入社員が素直な様子で手を挙げ、こう質問した。
「それは、以前からある機能と具体的に何が違うんですか?」
さらに、管理職が知らないようなマイナーなAIツールの名前を挙げ、それと比較するとどう優れているのか、と悪気なく尋ねた。その結果……
「答えられない管理職は、その質問が聞こえなかったかのように、すぐに次の話題に移ってしまいます。毎回です。AIを使っていないので、記事以上のことを質問されるのは困るでしょうが、そうした“暗黙の了解”が新人くんにはわからないようです」
そんな時、河本さんをはじめベテランや中堅社員は、全員無言になるそう。管理職を差し置いて質問に答えるわけにもいかず、気まずい空気にただ耐えるしかないようだ。
AI導入をめぐって親友と喧嘩 → 絶縁
河本さんが「この会社、大丈夫?」と最も強く感じることについて、こう語る。
「管理職だけでなく、大半の一般社員もAIを使いこなせていません。外部から委託で来てくれているプロ集団が普段の実務をこなしているからです」
実務をアウトソーシングしているから、AIを使った作業効率化の必要性を感じにくい部分もありそうだ。
ほかにAI導入が進まない理由について、河本さんはAIツールの使い方を学ぶ時間を与えられていないこと、パソコンさえ使いこなせない社員が性別年代に関係なく多いことを挙げた。その上で「同業他社と比べて導入が何年も遅れたのが最大のミスです」と指摘する。
「余談ですが、同業の会社で働く友人にこうした社内の状況を軽い愚痴みたいに話したら、『聞いていて腹が立つ』とキレられ、最終的に絶縁することになりました」
AIの成果物を人力で何度も修正する毎日
もっとも、社内でまったくAIが使わていないわけではなく、現在はデータ管理や画像生成などの一部業務で活用されている。そうした中で河本さんの主な仕事は、「AIにできないこと」の処理だ。例えば、複数のデータをCSVというファイル形式で出力し、Excelの関数でデータの整合性をチェックしているという。
他にも、泥臭い作業が意外と多いようで、生成AIが作った画像の不備を目視でチェックするのもその一つ。プレゼン資料などに使う画像を生成しているのだが、AI画像は「だいたいどこかおかしい」そうで、何度も修正指示を出す羽目になる。手間と時間がかかった割に、結局AIに依頼した画像は「ビジネスではほぼ使えない」という。
「現状ではAIでは無理な業務が多いです。人間の目と思考で臨機応変に考えて判断しないと事故が起こります」
だが、こうして行っている人力でのカバーは、社内で隠蔽されているという。
「『AIツールでこんなことができるようになりました!』と大々的に社内発表されますが、その裏で私たち人間が補っている作業がある事実は隠されています」
そのため、一緒に作業する同僚とは「私たちは黒子だよね」と自虐気味に話しているそう。しかしなぜ、実態が隠されるのか。
「それは、管理職、特に経営層に近い人ほど、『AIはすごい!なんでもやってくれる!』とAI信者になっているからです」
AI推進部署にいながら、AIにできない部分を人力で補う「黒子」となっていると現状に、「ちょっと笑ってしまいます」と複雑な心境を明かした。
※キャリコネニュースでは「あなたの職場の逆転現象」をテーマに投稿を募集中です。回答はこちらから https://questant.jp/q/YZT6GGAL