原作小説から楽曲誕生までを体感し、YOASOBIの世界に没入 展覧会『Immersive Museum YOASOBI』レポート
2024年7月10日(水)から9月8日(日)まで、YOASOBIの楽曲「海のまにまに」の生まれる過程を体験できる特別展覧会『Immersive Museum YOASOBI ―「海のまにまに」が、できるまで。―』が東京新宿のベルサール新宿南口にて開催されている。開催時間は16:30から21:00まで。
小説を楽曲にするプロジェクトから誕生したYOASOBIは、コンポーザーのAyaseとボーカルのikuraからなるユニットだ。デビュー曲「夜に駆ける」で2020年の年間Billboard JAPAN総合ソング・チャートとストリーミング・ソング・チャートで1位を獲得、以降は単独アメリカ公演も成功させ、世界を舞台に幅広く活躍している。
「海のまにまに」は、直木賞作家とのコラボレーションプロジェクトの一環としてつくられた曲で、小説家の辻村深月が“はじめて〇〇したときに読む物語”をテーマに書き下ろした作品「『ユーレイ』―はじめて家出したときに読む物語」を楽曲化したものだ。YOASOBIが全面協力する本展は、Ayaseがサウンド、ikuraが歌で曲に命を吹き込んでいくさまを紹介、「海のまにまに」ができるまでを多様な体験で味わうことができる内容となっている。
※本記事では会場内展示の詳細を含みます。ネタバレを避けたい方はご注意ください。
多様なインスタレーションで小説世界を深く味わう
本展は3F・4Fの2フロアを使用した広い会場で行われ、「ROOM1 字 ― 小説「ユーレイ」の世界―」「ROOM2 音 ― Ayaseの世界―」「ROOM3 歌 ― ikuraの世界―」「ROOM4 響 ―「海のまにまに」の世界―」からなる4つの空間で構成されている。
「ROOM1 字 ― 小説「ユーレイ」の世界―」に足を踏み入れると、複数のスクリーンに文字が流れており、まるで主人公になり替わってひとりで電車の車窓から空を眺めているような感覚になった。
先に進むと、ストリングカーテンに囲まれたスペースが。入ってみると群青色の空間が広がっていて、ひんやりとした海の底を思わせる。床に広がるライトの模様は、空から水中に降り注ぐ光の波紋に似ていた。
続くスペースでは複数の機械が並び、機械から突き出たスティックに触れると、文字がキラキラと光りながら表示された。恐らく小説の中で主人公たちが花火をするシーンを象徴しているのだろう、指先から言葉の光が迸り出ているようなインスタレーションだ。
次の空間にある小説の一部が書かれたパネルは夕刻の空を思い起こされる色で、小説世界に満ちている切なさや儚さ、悲哀などを連想させ、感情を揺さぶる。
Ayaseとikuraが楽曲を行うさまを想起させる展示
「ROOM2 音 ― Ayaseの世界―」と「ROOM3 歌 ― ikuraの世界―」は、Ayaseとikuraの制作に関する展示である。
「ROOM2 音 ― Ayaseの世界―」には、Ayaseの使っているMacを象徴するパソコンが置かれ、Ayaseが小説からどのようにメロディやハーモニーを生み出していったのかを伝える。展示空間に流れているのは未公開の貴重なデモ音源。「海のまにまに」は、Ayaseが小説を読んですぐにインスピレーションが降りてきた曲とのことで、デモの段階から浮遊感や透明感が漂っていた。
「ROOM3 歌 ― ikuraの世界―」は、ikuraがどのようにインスピレーションを受け、声に魂を宿していくのかを実感できる空間だ。Ikuraは、「夜の合間を縫うように」という歌詞と、それを表現した音楽から小説の主人公の心情を感じたという。会場の床にある足型に足を重ねると、電車の中にいると思しき主人公と向き合うことができる。ここで主人公とikuraの心と声に思いを馳せてみよう。
小説世界と楽曲の魅力に身を委ねられる体験
「ROOM4 響 ―「海のまにまに」の世界―」は、壁面にスクリーンが広がり、どの位置に坐っても等しく没入感を味わうことができる空間だ。夕暮れ時の海や空の映像が切り替わり、小説の文字がスクリーンに溢れ、床やクッション、鑑賞している自分自身に流れ落ちてくるさまは圧巻である。
そして楽曲「海のまにまに」が流れ、電車の中や主人公の心象風景らしき映像などに切り替わっていく。どのシーンを切り取っても夢のように美しく、随所に小説内のモチーフが登場するのもエモーショナルだ。
クライマックスに近づくと、事前に配布されたブレスレットが映像に連動して輝き、空間いっぱいに光が満たされる。きらめく花火や宇宙空間のような壮大な映像などが映し出され、感動に身を委ねながら作品世界にどっぷりと浸ることができる。
「ROOM4 響 ―「海のまにまに」の世界―」を出ると、お気に入りのシーンを選んで動画をつくることができるブースが。名前を入れ、電車・海・花火・朝の中から好きなものを選んで進めると、自分だけの動画の完成だ。機械からQRコードが印刷された感熱紙が出てくるので、そこから動画をダウンロードしよう。
本展は、原作小説やYOASOBIの制作過程を知り、「海のまにまに」の世界観にたっぷり浸ることができる体感型の展示だった。YOASOBIのふたりが小説をどのように解釈し、作品に落とし込んでいるかを感じながら、最新テクノロジーを駆使した音と映像を存分に堪能できる『Immersive Museum YOASOBI ―「海のまにまに」が、できるまで。―』をお見逃しなく。
文・写真=中野昭子