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“子育て支援”が受けられない【闘病ママ】たち こんなにある「申請・無理解・制限」の“高すぎる壁”

コクリコ

難病などの慢性疾患を抱えるママ・パパの「子育て支援制度」について。一般社団法人「てくてくぴあねっと」代表のうえやまみか氏インタビュー第2回。全3回

【▶画像】2児ママの闘病記「突然倒れ右半身が動かなくなった」

難病や慢性疾患を患うママ・パパはどう子育てしているのか。支援制度にはどんな内容があり、実際に利用できているのか。病気を抱えながら子育てに励む親を支える一般社団法人「てくてくぴあねっと」代表で、自身もリウマチを患いながら2児の子をワンオペで育てるうえやまみかさんに、闘病中の子育てのリアルをインタビュー。

第2回は、頼りになるはずの「子育て支援制度」について聞きました。

ファミサポは人不足で利用できない

1歳のころから慢性的な関節痛がある持病、リウマチを抱えながら、2児(9歳・5歳/2025年9月現在)の子育てに励むうえやまさん。会社員の夫は出張がちで多忙なため、ほぼワンオペ状態、まわりに頼れる身内もいません。

そうなると頼りにしたいのが国や自治体の「子育て支援制度」です。さまざまな子育て支援制度がありますが、実際に使えるものはほんの一握りだとうえやまさんは話します。

「私の場合、この10年で実際に使えた子育て支援は、区のファミリー・サポート・センター事業(以下「ファミサポ」)、一時預かり保育、保育園、この3つだけでした」(うえやまさん・以下同)

子育てが始まり、うえやまさんがまず検討したのが、産前産後に使える「育児支援ヘルパー」事業でした。

「所得に応じた金額内で授乳やおむつ替え、沐浴、家事などをしてくれるのでぜひ利用したかったのですが、さまざまな書類を揃えたうえでの郵送が必要。

そのときの私は関節痛がひどくペンを持つことすらもつらい状態で、寝不足も続いていたため、外出も必要な手続きは大きな負担になりました」

身体面だけでなく、心理的な面でも頼りづらかったと打ち明けます。

「“家庭訪問のために部屋をきれいに掃除しないといけない”などと考えてしまい、心理的にハードルを感じてしまいました。また、当時の私は“そもそも、子育てをすると大変な状況になるということは産む前から分かっていたことでしょう?”と世間にも思われている気がして、“自分ががんばらなくては”と思い込んでいました。

今振り返ると、そんなふうに考える必要はなかったんですが、当時はそんな思いにとらわれていたんです」

結局、“だったら家で自分のペースでゆっくりやろう”と断念。「自宅にいながら手続きできるオンライン申請であれば、使えていたと思います」と話します。

次に、長男の保育園のお迎えを頼もうと、ファミサポの利用を試みましたが──。

「当時(2016年)、私の住む東京都中央区のファミサポは、利用希望者に対してサポートしてくれる支援者の会員数が絶対的に不足していて、なかなか利用できませんでした。

次男の出産時には産前産後の優先枠でようやく長男の送迎サポートを受けることができましたが、コロナ禍で途中から利用できなくなりました」

通院のための「一時預かり保育」は予約のために行列

区の一時預かり保育サービスも、利用申請そのものが困難だったと続けます。

「私が抱えているリウマチは、月に1回、大きな総合病院で診てもらう必要があります。けれど子ども連れで病院へ行くのは、病気でつらい他の患者さんへの影響や、院内の感染症対策の観点からも難しいのです。

そこで利用したのが、区の一時預かり保育です。今でこそオンラインで予約できますが、当時(2016年)は月に1回、定められた日に窓口で並んで予約するシステムでした。

事前に写真や書類を持参して登録し、翌月の予約開始日の情報を得たら、その日の受け付け開始時刻に合わせて朝早く出かけ、子どもを抱えて順番待ちをします。でも、自分の順番が回ってきたときには希望日の予約が埋まっていることも。

乳幼児を抱え立って並ぶこと自体、体に負担がかかるからと配慮を要請しましたが、『原則、皆さん並んで待っていただいているので』の一点張りでした」

保育園からは「寝てるなら16時に迎えに来て」

保育園は、自治体によって異なるものの、保護者の就労以外にも病気や心身の障害があるなど、さまざまな理由で利用が認められています。うえやまさんは、長男の産後は働いていなかったため、病気療養で利用申請しました。しかし──。

「ほかの闘病ママさんも同じ経験をしたと後から聞きましたが、私は区から18時半までの利用を認められているにもかかわらず、当時の園長の判断で『あなたは働いていなくて家にいるだけなんだから、育休中の扱いと同じ16時のお迎えでいいですよね』という趣旨のことを言われたことがあります。

医師からは、体への負担を考え保育園の送迎は控えるようにと言われていたので、仕事帰りの夫に迎えに行ってもらいたく、当時の園長先生に保育利用時間を何度も相談をしましたが状況は変わらず。

次第に足の痛みが強くなり、次男の妊娠・出産も重なって、どうにも私だけでの送り迎えが難しくなったところで再度アプローチ。区の保育課にも間に入っていただき、ようやく利用時間が規定どおりになり、夫と分担して保育園の送迎が叶いました」

保護者の病気療養で保育園を利用できる自治体は多い。「しかし、そのことを知らず利用できなかったご家庭もあったと聞きます」(うえやまさん)  イメージ写真:アフロ

「私が声を上げなくては」と団体の立ち上げに

「今ある子育て支援制度は、健康な親が使うことを前提にしている」と痛感したうえやまさん。それでも、こうした制度の穴は徐々にふさがれるだろうと淡い期待を抱き、2020年に次男を出産しました。

「ですが、次男を産んだ後も、長男のときと同じことで悩む自分がいました。状況はよくなるどころか、時はコロナ禍の真っ只中で、保育園もファミサポも利用が制限。以前に増して、孤立無援の子育てになりました」

これは誰かが声を上げて動かないといつまでも変わらないんじゃないか──そう気づいたうえやまさんは「それなら自分が声を上げよう」と決意します。

がん患者のママ・パパを支援する団体はあった。ならば難病や慢性疾患の領域でも、当事者同士がつながれる機会を作ろうと、立ち上がりました。

さっそく知人の紹介で知り合った闘病当事者のママたちと2020年に任意団体を設立。翌21年に法人化し、現在の一般社団法人「てくてくぴあねっと」を設立します。

現在、難病を始めさまざまな慢性疾患を抱え子育てしている人が、情報交換をしたり励ましあえるよう、オンラインカフェやオープンチャット(以下「オプチャ」)などの場を設けています。オプチャの登録者は2025年9月現在約160人。

「同じような状況下で子育てしている親は大勢いるはず。どんなふうに子育てをしているかを知りたい」と、闘病ママ・パパたちの交流団体を設立。  写真提供:一般社団法人てくてくぴあねっと

いろんな闘病ママたちとつながり、情報を共有できるようになったうえやまさん。しかしふたを開けてみると、申請まではたどりつけてもうまく利用につながったケースはごく一部という現状を再認識することに。

そのひとつが、障害者総合支援法で利用できる居宅介護(家事援助)の育児支援です。

「障害者手帳を持っていない難病患者でも一定の条件を満たせば、簡単な家事や子どもの日常的なお世話をしてくれるものです。

公園遊び、保育園の送迎、沐浴の手伝い、買い物、家族みんなが食べられる食事づくりなど。決められた時間内で、週3回使っているかたもいます。

ただ、家族が同居していれば使えないなど制限が多い。離婚して実家に住むことになったばかりに、高齢で頼れない親でも『家族がいるため不可』と判断されて支援が受けられず、せっかく戻った実家を再び出た方もいます。

私自身も申請しようとしたら、コロナ禍で夫が在宅勤務だという理由で、通りませんでした。夫は家にいても仕事に専念しなければならないため育児はできないのですが。実際に利用できた闘病ママは、私の知る限りごくわずかです」

民間は「最後の手段」に

公的なサービスが使えないなら、民間のサービスを使う選択肢もあります。

「でもこれは最後の手段。一時的な疾患と違い、難病などは一生つきあう病気です。必要なときに使い続けていたら、家計が立ち行かなくなります。

そもそも病気がある時点で仕事が制限され、思うように稼げない。発症後、転職や退職を余儀なくされ、わずかな就労時間で得た生活費も、痛みに耐えられずタクシーを使うなどして飛んでいきます。

そこに、子育て支援への出費がかさむと、一時的には助かっても経済面の不安が大きくなったり、健康なパートナーが収入を増やそうと労働時間を増やし、さらにご自身のワンオペ時間が増えてしまうという悪循環に陥ります」

うえやまさんは「せめて公的制度の利用の枠が広がれば」と惜しそうに語ります。

─・─・─・─・

制度にも頼れず、ときには理解のない声が突き刺さる。次回の第3回では、「親の役割」とどう向き合っているのか、聞きました。

取材・文/桜田容子

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