老後への不安の大半は「お金」。精神科医が教える、不安の「正体」と老後の暮らしを楽しむ「術」
「老後」について、不安なことを耳にする機会が多い昨今。老後とは本当に怖いものでしょうか? 保坂サイコオンコロジー・クリニック院長の保坂隆氏は、著書『楽しく賢くムダ知らず 「ひとり老後」のお金の知恵袋』のなかで、「老後ほど好きに人生を楽しめる時期はない」と言います。ただし、それには手元のお金をやりくりする力が必要です。具体的には、どのような点に気を付ければよいのか。やりくりのコツを見ていきましょう。
※本記事は保坂 隆著の書籍『楽しく賢くムダ知らず 「ひとり老後」のお金の知恵袋』(明日香出版社)から一部抜粋・編集しました。
※写真はイメージです(画像提供:ピクスタ)
お金の不安の正体とは
生命保険文化センターが行った「生活保障に関する調査」(2022年度)によると、老後の生活に関して、82.2%が「不安感あり」と回答しています。
不安の内訳を見ると、なんと79.4%が「公的年金だけでは不十分」としています。要するに、老後の不安の大半はお金に関することで占められているのです。
「ええ、私もそう......」
本稿の読者の中にも、うなずかれる方が少なくないでしょう。
そんな人には、こうお尋ねしたいと思います。
「あなたは、いくらあれば、不安ではなくなるのですか?」
精神科の患者さんを長年診てきた経験からすると、この質問に対する答えはありません。
不安に思う人は、はたから見て「十分にあるじゃないか」と思うほどお金を持っていても、「もしハイパーインフレになったら......」などと不安の種を探してくるでしょう。どんな状況でも不安を感じるのです。
逆にそうでない人は、「これだけで大丈夫なの?」と言いたくなるくらいの状況でも、それほど不安は感じない......。
不安だと思うから不安になる。それが不安の正体ということなのですね。
私はこれまで「老後ほど自由で、自分らしく、自分が好きなように人生を楽しめる時期はない」と繰り返し述べてきました。お金についても同様です。
家族を抱え、とくに子供を教育しなければならない間は、どうしてもお金が必要になります。でも、子供たちを自立させ、場合によっては老いた親の面倒をみなければならない場合もあるでしょうが、あなたは今、ひとり身です。
それでも、経済的な不安は残るかもしれません。
でも今、あなたに必要なのは、その不安から逃げることではなく、自分らしいお金の使い方の知恵を絞ることではないでしょうか。
それが不安と向き合うということです。
そして、その姿勢が身についてきたとき、あなたのお金に対する不安は雲散霧消していることでしょう。
老後に本当に必要な資金はコレとコレ
厚生労働省の「厚生年金保険・国民年金事業の概況」(令和4年度)によると、その平均受給額は、国民年金が5万6316円、厚生年金が14万4982円となっています。年金をもらう年齢が近づいてくると、自分が受け取る年金額についての知らせが届きます。それを見て、多かれ少なかれ不安を覚えるのは当然というべきかもしれません。
しかし、「この額では足りない......」といくら嘆いてみても、天からお金が降ってくるわけではなく、この範囲でなんとか暮らし、足りないぶんはこれまでの蓄えを取り崩していくほかないのが老後の暮らしです。
現役時代に稼いでいた額と比べて不安になるのはわからないではありませんが、住宅ローンや子供の教育費など、「人生の二大出費」は終わっていることが多いでしょう。では、この先、どんな出費があるのでしょうか。
生活費は当然必要ですが、あと大きなところでは医療費(介護費用)程度ではないでしょうか。たしかにひとり老後ともなると、入ってくるものは少なくなりますが、そのぶん、出ていくものも少なくなるのです。
「案ずるより産むがやすい」というように、実際に年金暮らしを始め、半年もして慣れてくると、不安を口にする人はめっきり減ってくるようです。「カニは自分の甲羅に合わせて穴を掘る」という言葉もありますが、人も自分の財布のサイズに合わせて、ちゃんと暮らしを軌道修正していく知恵を持ち合わせているのです。「身の丈で生きる」というのも、老後の知恵のひとつでしょう。
なんとかなる。なんとかやっていく―。これが年金暮らしの心得です。