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ひとつの情熱が男鹿に新たな風と仲間を呼び込む――稲とアガベの物語【秋田県男鹿市】

ローカリティ!

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秋田県男鹿(おが)半島の中心南部に位置する船川(ふながわ)地区。JR男鹿線の終着駅であり観光の基点となる男鹿駅をはじめ、市役所や図書館、市民病院、道の駅などが集まり地域の拠点としてにぎわうエリアです。しかし、高齢化などの影響で閉店したり老朽化していたりする店舗も多く、活気を取り戻すことが課題となっています。

【本記事中の画像一覧】

旧男鹿駅舎を改装し作られた「稲とアガベ」

そんななか、男鹿の土地に根差し、男鹿の豊かな風土を生かした地域の活性に取り組み、日本酒を通じて「男鹿の魅力を瓶詰め」し、未来へとつなぐ挑戦を始めた人たちがいます。

「稲とアガベ」は2021年に創業されたクラフトサケ醸造所。創業から3年、男鹿の風土を象徴する存在として認識され始めた彼らの物語には、土地を愛し、文化を育む人々の情熱が詰まっています。

移住した若者たちが育む男鹿の未来

稲とアガベ創業者の岡住修兵(おかずみ しゅうへい)さんは福岡県出身。学生時代に自分が進む道を悩み苦しんだ経験を持ち、その結果「日本酒を造る」と心に決めて秋田に移住し、秋田市の新政酒造で4年間酒造りに従事、さらに大潟村の石山農産で米作りを学んだそうです。

その後、ナマハゲの伝統や豊かな自然に恵まれた男鹿の地を選び、「稲とアガベ」を立ち上げ奔走してきました。

容易に成し遂げられるものではない挑戦を始めた岡住さんと関わり、その思いに共感する人たちが少しずつ増えています。その仲間とともに男鹿の豊かな自然や古くから受け継がれてきた文化を活用し、地域の人をも巻き込みながら新しい流れを作っているのが稲とアガベです。

「免許の発行のハードルが高い」日本酒造りの現実

現在の日本の法律では、日本酒(清酒)を造るための免許の取得にはさまざまな条件があり非常にハードルが高いです。

稲とアガベでは、小規模な酒造業者が新規参入しやすくなる「日本酒特区」の実現に向けて、男鹿市がその指定を受けられるよう、試行錯誤を重ね取り組んでいます。

さらに、将来的には法律そのものを変える覚悟で取り組み、男鹿で作る日本酒を新たな魅力として、若手醸造家の支援をはじめ、全国から人々が集まるようになることを目指して、地道に取り組み続けています。

「男鹿の風土を瓶に詰め込む」酒造り

11月23日創業イベントの際、スナックシーガールで提供されたクラフトサケ「稲とアガベ」

「稲とアガベ」は、クラフトサケ醸造所として営業をしています。

「クラフトサケ」とは、クラフトサケブリュワリー協会の定義によると、日本酒の伝統的な製造技術をベースにしながら、お米を原料とし、従来の「日本酒」では法的に認められない製造プロセスを取り入れた新しいジャンルのお酒です。

現在、稲とアガベが造る「クラフトサケ」は日本酒の伝統製法を守りつつ、香りや味のバリエーションを生む新しい醸造方法で、フルーツなどさまざまな副原料を使用しています。

11月23日創業イベントの際、SANABURI FACTORYで提供された「花風」他、試飲用のお酒

地元の人々や景観とのつながりを深めながら、男鹿という土地のすべてを酒に込めるという、これまでにない酒造りへの挑戦をしています。

酒米や水、そしてこの地で育まれた人々の物語。これらが融合したお酒は、ただの嗜好(しこう)品ではなく、飲む人に男鹿の風を感じさせる「体験」そのものになるのです。

酒にだけとどまらない「人をつなぐ」企業になる

岡住さんがスタートをさせた稲とアガベは、これまで酒造業だけにとどまらない挑戦を続けてきました。

「廃棄リスクのある食材を宝物に変える」というコンセプトで、これまで廃棄されてきた、酒を製造する際にできる「酒かす」をマヨネーズ風の調味料「発酵マヨ」として加工する取り組みのほか、レストラン、宿、スナック、ラーメン屋、蒸留所など、次々と事業を立ち上げています。

酒かすを使用した発酵マヨ

稲とアガベは地域と外部の人をつなぐ輪を作り、市や県にも注目される男鹿の未来を支える存在になりつつあります。

3年目の節目、挑戦の軌跡を祝う「OṃOn(オンオン)」

稲とアガベに併設されたショップ/カフェ「土と風」

2024年11月23日と24日。稲とアガベの創業3周年を祝うイベント「OṃOn(オンオン)」が開催されました。

このイベントは、稲とアガベに併設されたショップ「土と風」など、稲とアガベが立ち上げた8つの拠点と男鹿市内の飲食店を巡るもの。

岡住さんや稲とアガベのメンバーとつながりのある、腕利きの料理人や醸造家が地元や全国から招かれ、各拠点でその日限りの特別メニューが提供されました。

11月23日創業イベントにて。稲とアガベが、かねてからお世話になっている東京のレストランkermistokyoが「土と風」で提供した「鰆(さわら)の燻製(くんせい)と根菜」
11月23日創業イベント、旧鉄工所の一部を蒸留所に改修した「早苗饗(さなぶり)蒸留所」にて

イベントには、県内外から稲とアガベのお酒やその取り組みに興味を持った人たちが駆け付け、肌寒く時折小雨の降る天気にもかかわらず会場の地区一帯が大勢の人であふれました。

岡住さんの事業にかける思いを中心とした稲とアガベの大きな人の輪を目の当たりにしました。

岡住さんの思いに共鳴し移住「男鹿の街を愛し自分のできることを全てやりたい」

稲とアガベの荒木珠里亜さん

「世界を少しでも良くしたい」

東京都出身で、現在稲とアガベに携わる荒木珠里亜(あらき じゅりあ)さんは、幼いころに「世の中をもっと良くしたい」という思いを抱き、自分がどのような形で社会に関わるべきかを模索するなか、「政治」という手段が、世の中を大きく変える力を持っていると実感するようになりました。

将来的に政治に関わる準備として、人々との信頼関係を築きながら自分が心からコミットできる地域を探していた荒木さん。その過程で、荒木さんがボランティアとして関わる、京都で行われたIndustry Co-Creation ® (ICC)サミットというカンファレンスで岡住さんと出会いました。

岡住さんと話し、彼が目指す取り組みが自分のやりたいことと一致し、「ビビビッときた」といいます。その後、男鹿市について深く調べさらに関心を深め、3週間後に男鹿を訪れます。

「美しい自然やナマハゲという独自の文化があるにも関わらず、少子化や過疎化により街に元気がなくなっているというのは本当にもったいない。男鹿の街を愛し、街をより良くするために、自分にできることを全てやる、それが自分の目指す政治につながる」

荒木さんはすぐに地域おこし協力隊インターンとして働くことを決意し、2024年1月に稲とアガベの取り組みに携わるようになりました。

現在は稲とアガベが運営する「宿ひるね」を一手に任され、また稲とアガベの採用や組織作りにも関わっています。

「醸造所・レストラン・ラーメン屋・食品加工場兼セレクトショップ・蒸留所・スナックなどここ数年で数多くの事業を始めていて、やることはいくらでもある状態です」

荒木さんのように、岡住さんに出会った人々が稲とアガベに関わり、それぞれの思いを持ってプロジェクトを遂行しているのは、稲とアガベならではの特長です。

「言い出しっぺ」の岡住さんを中心に、関わる一人ひとりが自らのビジョンを実現し、地域おこしや街づくりに情熱を注いできました。

「実際に稲とアガベに関わりたい、とボランティアを直接打診される人もいます。興味をお持ちの方は、ぜひ直接ご連絡ください。活躍できる場があるはずです」と荒木さん。

岡住さんが信念を持って一から始めた取り組みは、少しずつ広がり、この地の新たな魅力として息づき始めています。

その歩みをさらに力強いものにするのは、ここで出会い、ともに未来を紡ぐ人々の存在です。訪れる人や関わる人が、それぞれの形で力を添えることで、伝統と革新が溶け合い、男鹿ならではの魅力が形作られていくことでしょう。

関わりしろ

■ボランティアとして関わる
・酒造りの手伝い
・各店舗スタッフ
・イベントスタッフなど
(時期によって関わる内容が異なりますので、具体的な関わり方や期間などについては直接ご相談ください)

■男鹿を訪れて地域のお酒や食文化を体験する

連絡先

稲とアガベ株式会社
秋田県男鹿市船川港船川新浜町1-21
E-mail info@inetoagave.com

情報

稲とアガベHP: https://inetoagave.com/
稲とアガベInstagram:https://www.instagram.com/ine.to.agave?igsh=MWN3eGF4c3hlNHg0NQ==

「あきたの物語(https://kankei.a-iju.jp/)」は、物語をとおして「関係人口」の拡大を図ることで、県外在住者の企画力や実行力を効果的に生かした地域づくりを進め、地域の課題解決や活性化を促進する事業として秋田県が2023年度から始めました。秋田県や秋田にまつわる「ローカリティ!」のレポーターや地域の関係者が、秋田県各地の人々の活動を取材し「あきたの物語」を執筆して秋田県を盛り上げています。

天野崇子

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