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なぜブッダは悟った後に死ななかったのか?人間にとってかけがえのない感情「面白さ」

ほぼ日

生きるため、はたらくための教科書のように使っている人もいるし、どことなく「俗流の哲学本」みたいに敬遠している人もいるのが「自己啓発本」。これについて語り合おうと、座談会が開かれました。
『嫌われる勇気』の古賀史健さん、『夢をかなえるゾウ』の水野敬也さん、『成りあがり』(矢沢永吉著)の取材・構成を担当した糸井重里。そして『14歳からの自己啓発』の著者である自己啓発本の研究者、尾崎俊介さん。にぎやかな、笑いの多い座談会になりました。第6回は、「人間にとってかけがえのない感情『面白さ』」についてです。


糸井
なんだか今日、話をしながら僕らは「面白い」ということに、ずいぶん価値を置いている気がするんです。「面白かったから興味を持った」とか、「面白さがなくなっちゃう」とか。これ、なんですかね。
水野
僕は最近すごく思うんですけど、やっぱり最後に残るのは「面白い」って感情かなという気がするんです。人って「面白い」を理由に、本当にいろんなことができるんじゃないの、と。
仏教の研究でも「なぜブッダは悟った後に死ななかったのか?」みたいな問いがあるわけです。
別に死んでもいいわけです。だって、悟ったし。「不幸も幸福もないし、すべてがひとつである」ってわかったし。もう死んでもいいじゃんと。
古賀
(笑)
水野
でもなんで死ななかったかというと、最後に「遊び」が残った、と言っている研究者がいるんですね。結論としてはもう「遊び」しかない。
「面白さ」は人間にとってとてつもなくかけがえのない感情で、実はそこがないと、人はもう全く動かなくなるんじゃないですか? わかんないけど。
糸井
古賀さんの新刊の『さみしい夜にはペンを持て』のテーマは「文字にして残す」なんですよ。
「そのためにはよーく見ることだよ」とか、いろんな技術や方法も出てくるんですけど、なによりそれをやると面白さが増えるんです。「今日も何もなかったな」という人が、文章を書くことで「何もなくなかったな」となる。それってたぶん面白いんですよ。

古賀
そうですね。
糸井
さらに、その人の面白さが増えると、他の人が興味を持ったりして、その出会いからもまた面白さが増えていく。そういうのってやっぱりすごく嬉しいことで。
僕がずっとやってきていることも、ほとんどそれなんですよね。「ここになにか置いたら面白いんじゃない?」みたいな。
そこに反応する人ができると、なかったものが新たに生まれて、また面白くなる。いまの僕は「そういうことを見つけるのが、自分が生まれてきた理由かも」ぐらいのことを思っているんです。
水野
今日の座談会も僕、ワクワクしながら乗り込んできたんですけど、理由はやっぱり、なにか得たいとか以上に「面白れーなぁ!」っていう。単純に「面白そうだから」でやってきてて。
ただこれ、10年前だったらあり得なかった話だとは思ってて(笑)。「え、ほぼ日で自己啓発の座談会?」みたいな。前だったらこんな機会、たぶんなかったですよね。
古賀
そうですね。
水野
まぁ、そういう時代の変化って『嫌われる勇気』のサブタイトルに「自己啓発」とあった時点でも「これ入れるんだ‥‥!」と感じたんですけど。
古賀
(笑)
糸井
そこについては、ずっと「自分を殺して、みんなのことを考えるのが善」という時代が続いていたんだと思うんです。
いろいろある考え方から、いちばん良さそうなものを選ぶのが知的な人々の仕事なわけですけど、戦後の日本だと、そういう人々が、基本的にはマルクス主義に行ったわけです。
ものすごく簡単に言ってしまうと、「下部構造は上部構造を規定する」。経済的な動きが人間を作るから「犯罪も貧しいから起こるんだ」「社会がよくならない限り悲劇は防げない」「自分のことを差し置いても、社会のことを考えるべきだ」。そういう意識がみんなのなかに刷り込まれて、その原則をもとにいろんなことが考えられて。
そこに「そうかな?」って言うだけで怒られたんですよ。「だったら芸術ってなんなの?」とかの論争もさんざんあったけど、結局負けていったんです。
‥‥で、いま、そんな時代がやっと終わって、「自分のことを考えたっていい」「アホでも喋っていいんだ」そういう時代がようやくやってきたと、僕は思ってて。

古賀
なるほど、なるほど。
糸井
で、ちょうど今日ネットで見たんだけど、象徴的だなと思ったのが、相田みつを全肯定の行動心理学者が現れたらしいんですよ。
水野
おおー。
糸井
リチャード・セイラーというノーベル賞受賞の行動経済学の人が、相田みつをのメッセージにいたく感激して「にんげんだもの」と言って、書まで買って帰ったという。
僕は前からときどき小さく「どうしてみんな相田みつをを軽視するんだ」みたいに言ってたんだけど、とうとう堂々と言えるようになったかと思って。
水野
ほんと余談ですけど、僕、相田みつをのことも大好きで、文章も全部読んでるんですね。もちろん記念館に一人で行ったこともあって。
糸井
そこも全部読んでるんだ(笑)。
水野
で、記念館に行くと、もちろん書とかもあるんですけど、ああいうところってよく最後に動画があるんですよ。
相田みつを記念館もそうで、最後に暗い部屋で動画が流れているから僕も普通に「あ、こういう人なんだ」みたいな感じで見てたんですね。
だけどそのとき50代ぐらいの女性が2人、同じタイミングで映像を見てたんです。で、画面に相田みつをが出てきた瞬間、その人たちが2人して「あら、いいオトコ」って言ったんですよ。
全員
(笑)
水野
で、僕は動画をがっつり見たかったから、そのまま2周目に入ったんです。そしたらその人たちも2周目に入って。
で、相田みつをが画面に現れた瞬間、またその人たちが「あら、いいオトコ」って言ったんですよ。なんか腹立つなぁ‥‥と思って(笑)。
糸井
いい話(笑)。
水野
僕は相田みつを記念館に行って、いちばん印象的だったのがそれだったんです。
「相田みつを、いいなぁ」と思って見てたはずなのに、急に「あら、いいオトコ」って聞こえてきて、なんか飲み込めねえ‥‥という(笑)。「相田みつをのメッセージ、どこ行った?」「そのメッセージを浴びに来たのに」みたいな。
だけど、そのときのイラっとした気持ちがまた僕を奮い立たせて、「いやいやこれは相田みつをが僕に、もっとがんばれと言ってるってことなんじゃないか」「この啓発してくれるメッセージの価値を、僕がもっといろんな人に広めなければ」って。
糸井
すばらしいね、その発想は。
水野
そうやって、ずっと前に進まされてる感じがあるんですよ。
だけど今日も、ついに自己啓発のサミットみたいな機会がやってきて、意気揚々とやってきてみたら、お三方が意外と若い頃は自己啓発本を読んでなかったと。「‥‥あれ、昔から読んでたの俺だけ?」って。
古賀
(笑)
水野
それで「ああ、俺はずっとこうやって生き続けるんだ‥‥」っていう。またちょっと、啓発の目が出ちゃってるんです。
だからここに来ても僕、意外と孤独感を感じてる(笑)。
尾崎
そんなぁ。
水野
でも、いいことなんです。尾崎さんの本の「最上の文学」という言葉なんて、めちゃくちゃ励まされましたし。
糸井
いやいや、水野さんなしには今日はないですよ。ほんとにそう思う。
水野
あ、ほんとですか。
だけど僕は自己啓発本の地位を、やっぱりもっと上げたいんですよね。「いや、自己啓発、面白いですよ。実は僕らにすごく力を与えてくれるものですよ」って。

(出典:ほぼ日刊イトイ新聞 「自己啓発本」には、かなり奥深いおもしろさがある。(6)ブッダも最後に「遊び」が残った。)

古賀史健(こが・ふみたけ)
株式会社バトンズ代表。1973年、福岡県生まれ。九州産業大学芸術学部卒。メガネ店勤務、出版社勤務を経て1998年に独立。著書に『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』(岸見一郎共著、ダイヤモンド社)、『さみしい夜にはペンを持て』(ポプラ社)『取材・執筆・推敲 書く人の教科書』(ダイヤモンド社)、『古賀史健がまとめた糸井重里のこと。』(糸井重里共著、ほぼ日)、『20歳の自分に受けさせたい文章講義』(星海社新書)など。構成に『ぼくたちが選べなかったことを、選びなおすために。』(幡野広志著、ポプラ社)、『ミライの授業』(瀧本哲史著、講談社)、『ゼロ』(堀江貴文著、ダイヤモンド社)など多数。2014年、ビジネス書ライターの地位向上に大きく寄与したとして「ビジネス書大賞・審査員特別賞」受賞。編著書の累計は1600万部を数える。

水野敬也(みずの・けいや)
1976年、愛知県生まれ。慶応義塾大学経済学部卒。著書に『夢をかなえるゾウ』シリーズほか、『雨の日も、晴れ男』『顔ニモマケズ』『運命の恋をかなえるスタンダール』『四つ話のクローバー』、共著に『人生はニャンとかなる!』『最近、地球が暑くてクマってます。』『サラリーマン大喜利』『ウケる技術』など。また、画・鉄拳の絵本に『それでも僕は夢を見る』『あなたの物語』『もしも悩みがなかったら』、恋愛体育教師・水野愛也として『LOVE理論』『スパルタ婚活塾』、映像作品ではDVD『温厚な上司の怒らせ方』の企画・脚本、映画『イン・ザ・ヒーロー』の脚本など活動は多岐にわたる。

尾崎俊介(おざき・しゅんすけ)
1963年、神奈川県生まれ。慶應義塾大学大学院文学研究科英米文学専攻後期博士課程単位取得。現在は、愛知教育大学教授。専門はアメリカ文学・アメリカ文化。著書に、『14歳からの自己啓発』(トランスビュー)、『アメリカは自己啓発本でできている』(平凡社)、『ホールデンの肖像─ペーパーバックからみるアメリカの読書文化』(新宿書房)、『ハーレクイン・ロマンス』(平凡社新書)、『S先生のこと』(新宿書房、第61回日本エッセイスト・クラブ賞受賞)、『紙表紙の誘惑』(研究社)、『エピソード─アメリカ文学者 大橋吉之輔エッセイ集』(トランスビュー)など。

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