オスの背中を巡ってメスが競う? 水生昆虫<コオイムシ類>のメス間競争の実態が解明される
昆虫といえば陸上で見られるイメージですが、種によっては水辺で暮らす水生昆虫も存在します。
カメムシ目に分類されるコオイムシ類は流れが緩やかな場所に生息する水生昆虫で、オスが背中に卵を背負うことから「子負い虫」の名が付けられました。
このコオイムシ類については近年、オスの子育てに関する研究が次々と発表されており、2025年5月19日、『Ecological Entomology』で公開された論文(Female–female competition in two giant water bug species)では、コオイムシ類のメス間競争の実態が解明されています。
子を背負う昆虫
コオイムシ類はカメムシ目コオイムシ科に分類される水生昆虫で、見た目の通りタガメに近い種。日本ではコオイムシやオオコオイムシが知られています。
本種は池などの流れが緩やかな水域に生息する種で、かつては日本各地に分布していたものの、生息環境の悪化から個体数を激減させた地域も少なくないようです。
コオイムシ類の大きな特徴は、名前の由来にもなっている「オスが卵を背負う」という特徴的な生態。オスは卵がふ化するまで卵を背負って見守り続ける、いわば“イクメン昆虫”です。
産卵場所を巡って競う
コオイムシ類の繁殖では、オスの背中に複数のメスが卵を産み付け1つの卵塊を形成しますが、メスからすればオスの背中に卵を産み付けないと子孫を残せません。
そこで、2025年5月19日、『Ecological Entomology』で公開された論文(Female–female competition in two giant water bug species)で国立大学法人長崎大学教育学部と広島修道大学人間環境学部の研究グループは、オスの背中という産卵場所を巡ってメスが競い合っているという視点の元、コオイムシ類のオスとメスの繁殖行動の調査を行いました。
産卵は先着順?
調査の結果、この研究では1匹のオスに対して、2匹のメスを同居させると、オスの背中産卵するために2匹のメスがオスに集まる様子が観察されています。
さらに、コオイムシでは先にオスに接触したメスがいち早く産卵できる先着順なのに対し、オオコオイムシでは体の小さなメスが大きなメスと比較して産卵しやすいことが分かったのです。
また、コオイムシではオスの背中がいっぱいになるまで卵を受け入れますが、オオコオイムシで背中のスペースに余裕があっても受け入れをやめてしまうため、コオイムシよりもオオコオイムシではメス間の競争が激化。特にオオコオイムシでは、産卵数が少ない小さなメスはいち早く産卵するため、大きなメスとオスの間に割り込みしてでも産卵しているとのことです。
また、この研究では、産卵できる卵の数が少ないメスは大型のメスよりも産卵チャンスが少ないことから、小型のメスが積極的に産卵する行動が進化したとも考えられています。
コオイムシ類の父育行動
今回の研究ではコオイムシ類のメス間競争の実態が明らかにされました。
今後の研究でも、コオイムシ類の父育というユニークな繁殖行動についての謎が解き明かさせるのが楽しみですね。
(サカナト編集部)