「すべてのクマ事故は防げる」はずが「圧倒的に足りていないもの」 専門家が繰り返される事故に警鐘
7月12日、北海道福島町三岳で、近くに住む男性から「新聞配達員がクマに襲われ、引きずられていった」と110番がありました。草やぶの中で倒れている新聞配達員の男性が発見され、その場で死亡が確認されました。
翌13日、札幌では、ヒグマ勉強会が開かれました。この地域でも6月末にクマの出没があったばかりで、出没情報をどう受け止めるべきか・地域でできることは何かを考えました。
福島町の事故を受けての質問に、専門家が答える場面もありました。
この町内会の先進的な取り組みについては前編の記事でお伝えしましたが、この記事では専門家の話をもう少しご紹介します。
連載「クマさん、ここまでよ」
この記事の内容
・クマに気を付けるべき時間帯は?専門家の回答
・すべての事態は防げる
クマに気を付けるべき時間帯は?
ヒグマ勉強会を開いたのは、札幌市中央区の円山西町の町内会です。
勉強会には、クマの専門家・間野勉さんも参加していました。3月まで北海道立総合研究機構に所属していて、長くクマの研究や調査に携わった経験を持ちます。
前日に福島町で死亡事故が起きたばかりだったこともあり、参加者からは事故を受けての質問が相次ぎました。
たとえば、福島町で通報があったのは午前3時ごろだったことから、「円山西町でも早朝に散歩する人もいるが、どうしたらいい?」という質問が出ました。間野さんは、「動物の活動時間帯は人間の影響を受けます。札幌ではこれだけたくさんの人が活動しているので、基本的にクマは日中の活動は避けている。でももしこのマチから人がいなくなったら日中も活動するでしょう。いま、日中にクマが住宅地を歩いていないということは、人を忌避している。積極的に寄ってくるクマではないと思える」と話しました。
円山西町の住宅地では、4月に「クマらしき動物」、6月末にはクマが目撃されていますが、いずれも夜の時間帯です。
間野さんは、「人の活動がおさまっている夜明けと夕暮れの時間帯に、ジョギングなどの活動をすると遭遇の確率は上がるということになります。ただ、朝やっぱり活動したいということはあるでしょう。そのときは、人の存在をきちんと知らせる。音は漫然と出すのではなくて、どれだけ音が出るかには風向きも考える必要がある。鈴をつけてるから大丈夫ではなくて、音で知らせるということを意識する必要があります」と呼びかけました。
ほとんどのクマは、「音を出す」などで人がいることを知らせると、人を避ける行動をとります。お互いに気づかずにばったり出会うと事故のリスクが高いため、クマ鈴はそれを避けるためのひとつの対策です。
ただ例外として「人に近づいておいしいものを食べられたなど成功体験をしたクマ」は、人に積極的に近づくようになるとも話しました。
12日の福島町三岳の事故についてはまだわかっていないことが多く、同じ個体かなど関連性はわかりませんが、HBCニュースでは、9日に福島町月崎で目が合うと近づいてくるクマが目撃され、荒らされたごみ箱も見つかったことや、亡くなった男性が職場の人に「2~3日前にもクマと遭遇した」と話していたことを伝えています。
間野さんも、福島町の事故の個別の原因や経緯はこれからくわしく検証される必要があるとした上で、一般的に、「人を見ても逃げない」、「住宅地でごみをあさっている」など危険な兆候のあるクマがいる場合には、すぐに気づいて対処する必要があると指摘しました。
今回の勉強会では、地域で対策に取り組む効果や必要性がわかり、それぞれにできるクマ対策を考える機会になりました。
しかし終了後に間野さんは、個人や地域のレベルだけではなく、都道府県や国の仕組みのレベルでも対策が急がれるということも教えてくれました。
「すべてのクマによる事故は防げるはずなのに、今の体制には、危険な兆候に気づいてすぐに対処するための手立てが圧倒的に足りていない。キーワードは『即応できる人と体制』」
プロの人材の育成や、各地域への配置や連携などの管理体制は、専門家らが長く訴えてきたことです。地域単位で見れば少しずつ取り組みが進んでいるところもありますが、都道府県や国全体での動きが追い付かないうちに、痛ましい事故が繰り返されています。
間野さんは、「死亡事故はどういう経緯で起きたのかの検証が必要。同じ過ちを繰り返さないことしかできない」と強調します。
毎日のように起きる出没。繰り返される痛ましい事故。
どちらもそのときだけ漠然と不安になって終わるのではなく、一つ一つを検証し、二度と繰り返さないための対策が早急に求められています。
連載「クマさん、ここまでよ」
暮らしを守る知恵のほか、かわいいクマグッズなど番外編も。連携するまとめサイト「クマここ」では、「クマに出会ったら?」「出会わないためには?」など、専門家監修の基本の知恵や、道内のクマのニュースなどをお伝えしています。
文:Sitakke編集部IKU
※掲載の内容は取材時(2025年7月)の情報に基づきます。