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ドナネマブとレカネマブの違いを解説!アルツハイマー病治療の第一人者・新井平伊氏の研究から読み解く最新情報

「みんなの介護」ニュース

新井 平伊

昨年、認知症治療の新薬として注目を集めたレカネマブに続き、今年9月に承認されたドナネマブ。これらは、脳内に蓄積する特定の物質に直接作用し、アルツハイマー病の進行を遅らせることができる薬です。従来の治療薬と異なり、効果が持続することが確認されており、認知症医療に新たな希望をもたらしています。

しかし一方で、高額な治療費や投与できる医療機関の限定など、解決すべき課題も残されています。これらの新薬について、アルツハイマー病研究の第一人者である新井平伊氏の臨床経験をもとに、その特徴と実態をご紹介します。

ドナネマブとレカネマブの特徴と作用機序の違い

2つの薬剤の基本情報と開発背景

アルツハイマー病の治療において重要となるのが、脳内でつくられるアミロイドβというタンパク質を脳に溜めないことです。ドナネマブとレカネマブという薬は、どちらも脳内に蓄積するアミロイドβに作用する薬剤ですが、その特徴は大きく異なります。

『老年精神医学雑誌, 35 (2024年11月号)』より引用

ドナネマブは脳内のアミロイドβの中でも、特にN3pG Aβと呼ばれる形態に特異的に結合します。この形態は、すでに固まって脳内に蓄積した状態のアミロイドβに特有のものです。

このアミロイドβプラークに特異的に結合し、ミクログリア(脳内の免疫細胞)を介した貪食作用(体内の細胞が不必要なものを取り込み、消化・分解する作用)によってプラークを除去することで効果を発揮します。

一方、レカネマブは可溶性のアミロイドβプロトフィブリルという、まだ完全には固まっていない状態の物質に対して効果があります。また、不溶性フィブリルと呼ばれる固まった状態よりも、最大で約10倍優先的に結合して、除去する働きがあります。

両剤の開発背景には、1999年の発見が関係しています。当時の研究でアルツハイマー病のモデルマウスにアミロイドβの抗体を作らせると、脳内のアミロイド蓄積を防げることが分かりました。この発見を契機に、アミロイドβをターゲットとした治療薬の開発が本格的に始まりました。

しかし、初期の臨床試験では重篤な副作用が報告され、開発は難航しました。そこで、より安全性の高い抗体医薬品としての開発に方向転換が図られ、その結果として生まれたのが、これら2つの薬剤なのです。両剤とも、標的となるアミロイドβに結合することで、脳内からその物質を除去し、アルツハイマー病の進行を抑制することが期待されています。

投与方法と治療スケジュールの比較

投与方法やスケジュールには、通院負担に直接関わりますが、それぞれ違いがあります。両薬剤は同じ点滴による投与ですが、その具体的な方法は大きく異なっています。

『老年精神医学雑誌, 35 (2024年11月号)』より引用

ドナネマブは4週間に1回の点滴投与で、点滴時間は30分以上です。投与量は最初の3回が700mg、その後1400mgに増量します。増量できない場合や1400mgが維持できない場合は投与を中止する必要があります。

投与期間は原則として18ヵ月までですが、12ヵ月の時点でアミロイドβの減少が確認できれば、そこで治療を終了することも可能です。治療完了の判断には、アミロイドPET検査(脳内に蓄積したアミロイドβ蛋白を可視化する画像検査)による評価が必須となります。

これに対してレカネマブは、2週間に1回の点滴投与で、点滴時間は約1時間です。投与量は患者の体重によって決まり、体重1kgあたり10mgとなります。

ドナネマブのような増量は必要ありませんが、その分、来院頻度は2倍となります。投与期間はドナネマブと同様に原則18ヵ月までとされています。

実際の臨床現場では、この通院頻度の違いが生活に大きく影響する可能性があります。例えば、月2回の通院が必要なレカネマブでは、遠方から通う方や家族の負担が大きくなる可能性があります。

一方で、月2回の通院により、家族との交流機会が増えたり、定期的な健康管理につながったりするといった副次的な効果も報告されています。

このように、来院頻度と点滴時間、投与量の設定方法に違いがあるため、本人の生活スタイルや身体状況、居住地域などを総合的に考慮して適切な薬剤を選択することが重要です。

また、投与のタイミングによって副作用のモニタリングスケジュールも異なるため、医療機関側の体制整備も重要な検討事項となります。

臨床試験データにみる効果の違い

両薬剤の効果を、大規模な臨床試験の結果から具体的に見ていきましょう。まず重要な点として、両薬剤とも従来の認知症治療薬と異なり、病気の進行を実際に遅らせる効果が確認されています。

認知機能と日常生活機能の低下を評価する指標であるCDR-SB(臨床認知症評価法)スコアの変化を見ると、両剤ともプラセボ(偽薬)と比較して約20%以上の悪化抑制効果が確認されています。

アミロイドPET検査による脳内アミロイドβの減少効果では、ドナネマブ投与後76週で-87.03ポイント、レカネマブが投与後18ヵ月で-55.48ポイントという結果が出ています。両者の数値の違いは測定方法や対象となる物質の違いによるもので、単純な効果の優劣を示すものではありません。

むしろ重要なのは、両剤とも脳内アミロイドβを着実に減少させ、その効果が投与期間中持続することが確認されている点です。

副次的な評価項目である日常生活動作(ADL)や認知機能評価でも、両剤とも有意な効果を示しています。家族や介護者からも、「会話が増えた」「自発的な行動が見られるようになった」といった前向きな評価が報告されています。

臨床試験のデータからは、投与開始後6ヵ月程度から効果が現れ始め、その効果は投与を継続する限り維持される傾向が示されています。これは従来の認知症治療薬と大きく異なる特徴で、アルツハイマー病の進行を実際に抑制できる可能性を示唆しています。

保険適用と治療効果判定の違い

保険適用条件と患者負担額

両薬剤は相次いで保険適用となりましたが、その条件や患者負担額には重要な違いがあります。まずは、投与対象となる患者の条件を詳しく見ていきましょう。

ドナネマブの場合、MMSE(認知機能検査)スコアが20点以上28点以下の方が対象となります。一方、レカネマブは22点以上が基準となっており、上限は設定されていません。この違いは、それぞれの薬剤の臨床試験データに基づいて設定されたものです。両剤とも、中等度以降の認知症の方への投与は推奨されていません。

治療費用については、ドナネマブが年間約298万円、レカネマブが年間約308万円(体重50kgの場合)と試算されています。ただし、レカネマブの場合は体重に応じて投与量が変わるため、実際の費用は患者によって異なります。

これらの費用は高額療養費制度の対象となり、実際の自己負担額は患者の年齢や収入に応じて大きく軽減されます。例えば70歳以上の方の場合、現役並み所得者を除き、外来での月額上限は18,000円となります。

ただし、薬剤投与以外にも定期的なMRI検査やPET検査などが必要となるため、これらの検査費用も考慮に入れる必要があります。

また、保険適用には施設基準も設けられています。投与を行う医療機関は、認知症の診断・治療に精通した専門医の常勤複数配置や、MRI検査などの設備が整っていることが求められます。特に投与開始後6ヵ月間は、より厳格な基準を満たす医療機関での投与が必要とされています。

治療効果判定と投与継続基準

両薬剤では、治療効果の判定方法と投与継続の基準が異なります。この違いは、実際の治療計画を立てる上で重要なポイントとなります。

ドナネマブでは、投与開始後12ヵ月を目安にアミロイドPET検査を実施し、アミロイドβの除去状況を評価することが必須とされています。この検査で十分な減少が確認できれば、その時点で治療を完了することができます。一方、十分な減少が見られない場合は、18ヵ月まで投与を継続します。重要な点として、この12ヵ月時点でのPET検査は保険でカバーされます。

レカネマブの場合、6ヵ月ごとの定期的な認知機能評価が重視されます。具体的には、CDR(臨床認知症評価法)全般スコアの推移やMMSEスコアの変化、本人と家族からの聞き取りなどを通じて、治療効果を総合的に判断します。18ヵ月を超えて投与を継続する場合は、より詳細な評価が必要となります。

MRIによる安全性モニタリングのスケジュールも異なります。ドナネマブでは、2~4、7回目の投与前、その後は6ヵ月に1回のMRI検査が必要です。レカネマブでは、5,7,14回目の投与前、その後は6ヵ月ごとの検査が求められます。

両薬剤とも、中等度以降の認知症に進行した場合や、副作用が重篤な場合は投与を中止する必要があります。特にARIA(アミロイド関連画像異常)と呼ばれる副作用の発現には注意が必要で、症状や画像所見に応じて、投与の一時中断や中止を検討します。

認知症治療の新薬における実臨床での経験と展望

実臨床における副作用管理の実際

認知症予防・治療の第一人者である新井平伊氏の臨床経験から、実際の副作用管理の実態が明らかになってきています。特に注意が必要なのが、ARIA(アミロイド関連画像異常)と呼ばれる副作用と、点滴に伴う反応です。

第3相臨床試験からの報告によると、ドナネマブではARIA-E(脳浮腫や浸出)が24.0%、ARIA-H(脳微小出血やヘモジデリン沈着)が17.3%、レカネマブではARIA-Eが12.6%、ARIA-Hが14.0%の発現率となっています。両薬剤とも、投与開始から3~4ヵ月以内に発現することが多く、この時期は特に慎重な観察が必要です。

新井氏の診療施設では、ARIAの発現状況を詳細に追跡しています。新井氏の施設での具体的な症例を見てみましょう。

70代後半の女性の場合、2回目の投与まで問題なく経過しましたが、4月半ばに軽度の吐き気と頭痛が出現しました。MRI検査で前頭葉を中心とした浮腫が確認されたため、投与を一時中断しました。しかし、4ヵ月後の検査で画像所見はほぼ消失し、認知機能にも影響は見られなかったため、投与を再開できました。

『老年精神医学雑誌, 35 (2024年11月号)』より引用

また、点滴に伴う副作用について25例中7例(発現率28%)、ARIAは25例中5例(発現率20%)あったとのことです。主な症状は発熱、頭痛、吐き気などですが、ほとんどが軽度で、投与速度の調整や対症療法で対応可能です。4~5回目の投与までに発現することが多く、その後は減少傾向にあることが分かりました。

年齢による副作用リスクの違いも明らかになってきており、新井氏は高齢の方ほどARIAのリスクが高まる傾向を指摘しています。これは、加齢に伴う血管の脆弱性や動脈硬化が影響していると考えられています。そのため75歳以上の方は、より慎重な経過観察が必要とされています。

認知機能評価の実態と効果判定

実際の認知機能評価と効果判定の実態も明らかになってきています。

新井氏の診療施設では、6ヵ月間の投与を行った25例について詳細な解析を実施しています。その結果、認知機能評価の指標であるMMSE(精神状態短時間検査)スコアは、治療開始時の平均25.5点から6ヵ月後には24.9点と、ほぼ維持されていることが確認されました。

『老年精神医学雑誌, 35 (2024年11月号)』より引用

スコアが改善した方もいれば低下した方もいましたが、全体としては認知機能が維持できていると評価されています。

治療効果の判定には、定期的なモニタリングが欠かせません。新井氏は通常の診療では患者への心理的負荷を考え1~2年に1回のMMSE評価を行っていますが、これらの新薬による治療では、保険制度の要件として6ヵ月ごとの評価が義務付けられています。

「この頻度での評価は患者さんへの負担を考慮しつつも、治療効果を適切に判断するために必要な間隔」と新井氏は指摘しています。

また、新井氏は実際の臨床経験から、画像検査と認知機能評価を組み合わせることの重要性も強調しています。特にアミロイドPET検査については、投与前後での比較により、治療効果を客観的に確認できる有用なツールとして評価しています。

実際、治療を受けた4名は7ヵ月の治療期間でアミロイドの明らかな減少が確認されています。

このような実臨床でのデータ蓄積は、今後の治療方針の最適化に重要な示唆を与えるものとして期待されています。

今後の治療展望と課題

アルツハイマー病治療の新薬は、大きな可能性を開いた一方で、実臨床での運用には複数の課題が浮かび上がっています。

最も注目すべき特徴は、治療効果の持続性です。新井氏は、従来の治療薬であるアリセプトは1年程度で効果が減弱し、その後は病気の進行を抑えられないことが課題だと言います。

これに対し、ドナネマブとレカネマブは、投与を継続する限り効果が持続することが確認されています。これは、アミロイドβを標的とした根本的な治療アプローチによるものと考えられています。しかし、臨床的にはより有効性の高い薬剤が必要とされるとのことです。

また、投与施設としては初回投与から6ヵ月間、1.5T以上のMRI装置、専門医2名以上の常勤配置など、厳しい要件が設けられています。これらの基準は安全性確保のために必要なものですが、実際に対応できる医療機関は限られているのが現状です。

特に地方では、要件を満たす施設が少なく、患者さんのアクセスに地域格差が生じる可能性が指摘されています。

医療機関の経営面での課題も見過ごせません。高額な薬剤を扱うため医療機関のレセプト総額は増加しますが、実際には大部分が薬剤費として支払われ、施設に残るのは点滴料や管理料などわずかな収入です。

それに加えて、副作用管理のための人員配置や検査体制の整備が必要となり、多くの施設では採算が取りにくい状況となっています。

将来への期待として重要なのは発症してからの治療ではなく、アミロイドの蓄積が始まった段階での早期予見が理想とされています。そのためには、より簡便で精度の高い血液検査などによるバイオマーカーの開発が望まれますが、あくまでもスクリーニングにしかなりえず、最終的にはアミロイドPETが必要なことには間違いがありません。

このように、画期的な治療薬の登場は確かに大きな前進ですが、より多くの患者さんが適切な治療を受けられる体制作りが、今後の重要な課題となっています。医療機関の整備、人材育成、検査体制の確立など、包括的な取り組みが必要とされています。

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