池尻大橋さんぽのおすすめ10スポット。マイペースが尊重されるゆるやかさ
下北沢、三軒茶屋、渋谷、中目黒と、個性が突出する街に囲まれた池尻大橋。と聞いて思い浮かぶのは大橋ジャンクション。全国的にも珍しい、ユニークな形をしたジャンクションだが面白いのはそれだけではないようで。
作り手とお客さんを結ぶ場所『SUHO(スーホ)』
白で統一された内外観ながら、圧倒的なオーラに引き寄せられてしまう。オーナーの守口駿介さんが、これまでに出会った素晴らしい作り手を紹介する場になればと『青果ミコト屋』のアイスクリーム、とあるショップから仕入れるオリジナル豆の魅力を丁寧にお客さんに届ける。そのほか自家製スイーツなども見逃せない。
11:30~18:30(土・日・祝は10:00~18:00)、不定休。
☎なし
1個で空腹を満たす完璧なおにぎり『三宿おにぎり AZUMAYA』
「この街の東屋になれたら」と2024年4月にオープン。飾り棚に並ぶ15種類以上のおにぎりは、片手に収まる大きさながらも重量はずっしりと見た目以上。共通して使われる食材は、南魚沼産コシヒカリ、瀬戸内海産海苔、沖縄産の塩。原価度外視で仕入れる具材はまさにごちそうで、食べ進める手が止まらず、あっという間に完食。
7:00~14:30、不定休。
☎なし
日々の楽しみに表情豊かな蘭を『moku 東山』
「ギャラリー? アートスペース??」ではなく植物店。無機質な空間に美しく並ぶ緑は、美術品さながら。メインで取り扱っている蘭はイメージが覆されるものばかりで、特に樹木に着生したものはハンキングにもできる。「入りづらいと話される方もいるのですが、気軽に来てくださいね」と笑う店長の山田茉由さん。植物がある暮らしがぐっと身近になるお店だ。
13:00~19:00、不定休。
☎なし
主役は体思いのヨーグルト『greekee(グリーキー)』
開店から4カ月、瞬く間に人気店の仲間入りを果たしたヨーグルト専門店。3日かけて仕込む自家製グリークヨーグルトは牛乳と豆乳から選べ、メニューはスイーツ系やお総菜系などさまざま。そのほか、ヨーグルトドリンクや焙煎士が選定したコーヒーもあり。満足&満腹感がありながら、食べることに罪悪感がないときたら話題になるのも納得。
9:00~19:30LO、火休。
☎なし
見て食べて、多幸感に包まれる『H.A.L. café』 / 『BEST BAGEL』
1階がテイクアウト、2階がカフェのベーグル専門店。1階で毎日手作りされるベーグルは、ニューヨーク仕立てのむっちり食感。映画で登場するような分厚いベーグルサンドとゴージャスなプレートランチに終始ときめく。店内も世界観が徹底されているので、物語の主人公になった気分に。
8:00~17:00LO・18:00~22:00LO(H.A.L. café)、8:00~17:00(BEST BAGEL)、無休。
☎03-6407-8689
さまざまな個性がひしめきあう『レインボー倉庫(池尻大橋)』
ショップだけでなく、事務所やアトリエといった何かを始める人たちに寄り添うシェアスペース。取材時にオープンしていたのが、オリジナルのコーヒーと朝ごはんが人気の『MAG_COFFEE POINT』と薬膳茶の販売、ワークショップも行う『zen wa zen』。行く日や時間によって開いているお店も雰囲気も違うので、足を運ぶたびにどんどん魅了されていく。
営業日時は店舗によって異なる。
☎なし
いつもの装いに一点ものを『Tam』
アメリカで買い付けをしているという一点ものの洋服。河野夫妻が大切にしているのは、メンズ、レディースともに唯一無二の個性を持ちながらも普段着に取り入れやすいデザインかどうか。加えて、日本人に合うサイズ感も意識しているので、古着初心者でもコーディネートしやすい。またオブジェや花器、マグカップなどの生活雑貨のセレクトも素敵。
13:00~20:00、水休。
☎03-6416-4710
朝からでもペロッと食べられるかき氷『氷屋 kitsune』
バーを借りて営業するかき氷店。店主の前職はへアイメイクアップアーティストで、当時出会ったかき氷好きの人の影響で自身もどハマりしたという。開店時間が早いことから子育て中の方や出勤前の会社員、週末は遠方からもゴーラーが。「個人的には酒粕を使ったものが好み。素材を生かしたしっかり味で、朝から食べられるものを目指しています」。
7:00~14:00、木・金休。
☎なし
ノスタルジックな空間で宝探し『ザ・グローブ アンティークス 三宿本店』
3フロアびっしりに納められたお宝の数々。イギリスやベルギーで発掘されたアンティークやビンテージの家具、食器、カトラリー、雑貨、アクセサリーなど気になるものばかりで気づけば長居していた、なんてことに。「店内は撮影OKですよ~」と店長の三宅さん。ここが日本であることをすっかり忘れる世界観にわくわくしっぱなし。
11:30~19:00、水休。
☎03-5430-3662
のんべえのふたりが営む桃源郷『Sha Re(シャ レ)』
飲んで食べて語らえる店を切り盛りするのは、平川吐夢さんと堀龍生さん。元々飲み友達だったということもあり、店内やメニューなど、随所に二人の「いいね!」が散りばめられている。看板料理はあえて決めず、毎日来ても飽きないように日々更新。1軒目、2軒目……と何時に店の扉を開いても心とおなかを満たす。一度足を運べば、常連にならずにはいられない。
18:00~24:00LO、火休。
☎03-6453-4421
歩くほどに見えてくる、穏やかな街並み
地下鉄のどの出口から出てもまだ地下感が残る池尻大橋。頭上には首都高速道路、目の前には国道246号で、どこもかしこも車とバイクがビュンビュンビューン。さらには、電動キックボードをスーッとスマートに乗りこなす人も多く、都会的で何だか慌ただしい……。しかし、この街の人たちはみんな口を揃えてこう言うのです。のんびり、ゆったり、落ち着いている街ですよ〜、と。
確かに、駒場通りを目指して入った脇道にあるのは生活が垣間見える一軒家やマンション、学校だった。赤ちゃんを抱っこしたお母さんや散歩途中の先生、幼児とよくすれ違う。「口コミや通り越しにお店を知ってくれた近所の方がふらっと来てくれますね」と『SUHO』オーナーの守口さん。三宿通り沿いにオープンして数カ月の『三宿おにぎり AZUMAYA』の三浦さんは、「前の小学校に通う子供たちが宿題をしに来ることがありますよ」とほほえましすぎるエピソードを教えてくれた。
山手通り方面に向かって歩いていくと、今度は自然豊かな公園がいくつもあった。草木の葉色が色鮮やかに染まり、忙しなさで見過ごしていた季節の移ろいをしっかりと感じる。そういえば、犬の散歩をしている人にも頻繁に出会う。「店内の入り口に用意したカウンター席は、わんちゃんの入店をOKにしているんです」と『greekee』店長の出口さん。『氷屋 kitsune』店主は、「このあたりは、動物病院やペットホテルがほかの街よりも多いと思うんですよね」と動物との暮らしやすさを話してくれた。
辺りがすっかり暗くなった18時過ぎ、薄暗い路地裏で煌々(こうこう)と輝く居酒屋兼バー『Sha Re』を見つけて入ってみる。「一人でも大人数でも、子供やペットを連れての入店も大歓迎です。この辺りに住む人はフリーランスの方も多いので、混む日も時間帯も一般的なお店とは違っていると思いますよ」と平川さん。ウチナータイムならぬ、イケジリタイムが流れているのか、とにかくゆるやか。人もお店も柔軟だったり、寛容だったり、個人を尊重する空気感があふれ出ている。気づけば時間を忘れて長居していた。
駅のホームや改札、出口を抜けてもずっと感じていた騒がしさ。あれは一体何だったんだろう?と考えてみる。それはきっと、のんびりとゆったりを引き立てるために必要な、料理で言うところの“副菜”みたいなもの。そう、池尻大橋は間違いなく穏やかな街だった。
取材・文=新居鮎美 撮影=オカダタカオ
『散歩の達人』2025年1月号より