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高校入試中にパニック発作、進学先は支援が薄く…大学見学で「障害学生支援」に出合って【読者体験談】

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高校入試中にパニック発作、進学先は支援が薄く…大学見学で「障害学生支援」に出合って【読者体験談】

監修:井上雅彦

鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授/LITALICO研究所 スペシャルアドバイザー

進学校を志望したADHD(注意欠如多動症)、ASD(自閉スペクトラム症)の診断がある中学3年生の娘

小学校1年生のときADHD(注意欠如多動症)、ASD(自閉スペクトラム症)と診断を受けた高校2年生の娘がいます。小学校入学から現在まで通常学級に所属しています。義務教育期間中は、心配事があるときはスクールカウンセリングや担任との臨時の個別面談などで手厚い支援を受けてきました。ですが、高校に入り支援が薄くなったように感じています。

娘は、中学3年生の夏休みを利用して、公立や私立の高校をいくつか見学し、志望校を自分で決めました。第一志望の学校は進学校だったため、娘の内申点ではチャレンジになるとのこと。それでも娘は「この高校に進学したい」という意志を貫きました。

そこからは塾や自宅で熱心に勉強を頑張っていました。ただ、ADHDの特性からか、集中力に欠ける面があり、テストも凡ミスが多く……。親としては、本人の本来の実力を発揮できたら、中学の定期テストや高校受験も、また違ったものになったかもしれないという思いがついてまわりました。

受験票忘れ、集合時間に間に合わず……。なんとか受けた試験でもパニック発作が!

そして迎えた受験当日、朝から受験票を忘れたり、駅での集合時間に間に合わなかったりと、トラブルが多々ありました。しかし最大のトラブルは、試験中にパニック発作が起きてしまったことです。

思うように実力を発揮できなかったと大泣きしながら帰宅した娘……。詳しいことを聞いても本人もパニックを起こしていたので「分からない……」と。頑張っていた娘を見ていたので、どう声をかければいいか分かりませんでした。

その後、娘は第二志望の公立高校を受験しました。なんとか気持ちを切り替えて落ち着いて挑むことができ、無事合格。そちらへ進学することになりました。

高校では支援は薄い? 担任から「スクールカウンセリングは辞退してほしい」と言われ……

公立高校に進学して思っていることは、担任の先生によるところもあると思いますが、全体的に支援の手が薄いことです。

入学時、担任の先生に「娘の発達障害の特性をお伝えしたい。配慮、支援をお願いしたい」と話したのですが、「その時その時、適宜お話ししましょう」と言われ、そのまま話は流れてしまいました。娘のパニック障害についても話してみても、先生はピンとこない表情……。

また、スクールカウンセリングを月一回依頼しましたが、担任の先生からは「ほかにカウンセリング希望者が多数いるんです。娘さんは通院されているので、そちらでフォローしてもらえませんか?」と言われてしまいました。
病院は遠く、受診日とカウンセリング日を別日にするという決まりがあり、土日に模試がある娘は病院のカウンセリングを受ける時間がありません。高校側に、病院でのカウンセリングが難しいことを伝えたのですが、学校でのカウンセリングは辞退してほしいの一点張り。結局娘はカウンセリングを受けることができていません。

2年生になり担任になった先生は、1年生の時と違い家庭から連絡すると、きめ細やかな応答をしてくださる方で安心しました。ただし、それでもこちらからアクションを起こさないとフォローはありません。例えば、内服薬を開始したことなどを私から電話で伝えていますが、定期的な交流や伝達はないのが現状です。

障害学生支援を利用する? しない? 大学の支援センターからの温かい言葉

大学進学については漠然としたイメージしかないようだった娘ですが、高校1年生でとある大学のオープンキャンパスに参加してみたところモチベーションが上がり、「英語を勉強したい!」と大学進学を決意。高校2年生になると留学にも興味を持ち始め、大学は留学ができて、英語の教員免許(中・高)取得ができるところを希望し、志望校を探しだしました。

その頃、私は発達障害のセミナーに参加し、障害学生支援について学びました。こんな手厚く見てくれる大学があるのかと思った私は、娘がオープンキャンパスに参加した大学について調べ、娘とその情報を共有しました。最初は「私は障害をクローズして進学と就労をしたい」と葛藤していた娘ですが、数ヶ月後「○○大学に進みたい。この大学は、オープンキャンパスに行ったときから自分の個性や希望に合った大学と感じていたの。あと、お母さんが調べてくれたように、支援が手厚いのも魅力」と大学の障害学生支援を利用することを決意したようです。

志望大学を決めた娘が塾の先生に相談したところ、「この大学一本に絞って、推薦入試、一般入試と全て受けるつもりで受験対策をしていきましょう」とアドバイスをもらいました。学校の担任の先生からも応援いただいています。

また、娘はこの大学のオープンキャンパスに2年連続参加しており、その事は大学の支援センターで把握されていました。そこで、支援センターの担当の方へ、娘が単願受験を決めたことをお伝えすると、「受験前にぜひ面談させてください。受験時からフォローする必要性があれば対応します」とおっしゃってくださいました。また、「今後志望の学部を絞れたら、学部長と面談の機会を設けましょう、もし学部が決められなかったとしても、気になる学部を教えてください」とも言われています。

こちらの大学は支援が手厚く、大学生活から就労まで、教員がマンツーマンで支援してくださるそうです。娘は塾に通いつつ、本人が学びたい大学を目指して懸命に勉強しています。

もともとネガティブ思考で、自分の発達障害に負い目を感じていた娘が、自分の進路を切り開いていく姿をまぶしく感じています。娘に合った環境で羽ばたいていけるよう、私も応援し続けたいと思います。

イラスト/星河ばよ
※エピソード参考者のお名前はご希望により非公開とさせていただきます。

(監修:井上先生より)
来年度(令和6年4月1日以降)から公的施設や公立学校以外の私立学校や事業所でも「合理的配慮の義務化」が施行されます。一方、こちらのコラムのように公立高校でもまだ合理的配慮がシステムとして浸透していないところもあると思います。義務教育段階である中学校までは保護者が支援ニーズを学校側へ伝えて合理的配慮を検討してもらう流れがあります。しかし、高校、大学となるにしたがって、本人からの支援ニーズの訴えが必要とされるようになってきます。高校段階はその入口として重要な時期だと思います。
今回の読者さんのように大学受験など目標を定めながら、オープンキャンパスで直接本人が大学スタッフと話をする機会を作ることで、自身が支援の必要性を認識したり決められるようにしていくことが大事だと思います。大学スタッフの側からしても受験前に相談していただけるほうがありがたいです。
受験前の相談は不安とおっしゃる方もおられますが、これが合否に影響することはありません。

オープンキャンパスでのポイントは、志望先の学科やコースに実技、実習、実験などが卒業要件になっている場合、その内容を詳しく担当教員に聞いていただきたいということです。本人の持っているイメージと入学後の実際のギャップに悩んでしまう学生が多くいます。入学後の転科は困難な場合もありますし、合理的配慮においては希望する配慮や支援がすべて実現できるとは限らないことも考慮しておく必要があるでしょう。

(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。

ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。

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