石丸幹二「私の頭は彼の言葉であふれ、心は彼の精神に満たされています」~音楽劇『ライムライト』ゲネプロレポート
チャールズ・チャップリンの晩年の同名傑作映画を原作とした、音楽劇『ライムライト』が2024年8月3日(土)から東京・日比谷シアタークリエで上演される。初日を前にゲネプロ(総通し舞台稽古)が行われた。
まずは、初日開幕に向けて、キャストのコメントをご紹介しよう。
■石丸幹二
60代のチャップリンが演じた老芸人カルヴェロ。ちょび髭をつけず、山高帽もかぶらず、素顔のまま。今、私の頭は彼の言葉であふれ、心は彼の精神に満たされています。
「ライムライトの魔力、その光の中にスターは誕生する。その光からスターは去っていく」。このセリフに接するたび、瞳に射る強烈な光や、穏やかに包み込む光を感じ、時には熱く高らかに、時には深く染み入るように語っている自分に出会います。
皆さんには、どんな言葉が響くでしょう。劇場で感じてください。
■朝月希和
今、胸がドキドキし高鳴ります。命の意味、生きる勇気、自分の価値を、カルヴェロによって見い出すバレリーナ役をいよいよご披露します。思いやり、支え合い、そして自立。人生のどん底でも消せなかった舞台への思いを、心に残る台詞、お芝居、歌、そしてバレエを通して演じます。この舞台に携われる感謝を込めてお届けします。
■太田基裕
『ライムライト』には喜劇や悲劇、様々なエッセンスが絶妙なニュアンス、バランスで描かれているような気がします。
ネヴィルという役を通して、生きる活力、瑞々しさ、苦さも含め、噛み締めながら演じられたら幸せに思います。観劇される皆様の心に、あたたかい何かが寄り添い届く事を願います。千穐楽までよろしくお願いいたします。
物語の舞台は、1914年のロンドン。ミュージック・ホールのかつての人気者で。今や落ちぶれた老芸人のカルヴェロ(石丸幹二)は、元舞台女優のオルソップ夫人(保坂知寿)が大家を務めるフラットで、酒浸りの日々を送っていた。ある日、カルヴェロは、同じフラットに住み、ガス自殺を図ったバレリーナのテリー(朝月希和)を助ける。テリーは、自分にバレエを習わせるために姉が街娼をしていたことにショックを受け、足が動かなくなっていた。
カルヴェロは、テリーを再び舞台に戻そうと面名に彼女を支える。その甲斐も歩けるようになったテリーは、ついにエンパイア劇場のボダリング氏(植本純米)が演出する舞台に復帰し、将来を嘱望されるまでになった。そして、かつてほのかに想いを寄せていたピアニストのネヴィル(太田基裕)とも再会。
テリーは、自分を支え再び舞台に立たせてくれたカルヴェロに求婚する。だが、若い二人を結び付けようと彼女の前からカルヴェロは姿を消してしまう。
テリーはロンドン中を捜しまわりようやくカルヴェロと再会。劇場支配人であるポスタント氏(吉野圭吾)が、カルヴェロのための舞台を企画しているので戻って来て欲しいと伝えるテリー。頑なに拒むカルヴェロであったが、熱心なテリーに突き動かされ、再起を賭けた舞台に挑んで——という物語。
舞台人の儚い宿命と、残酷なまでに美しい愛の物語を、ノスタルジックに描いた映画『ライムライト』を舞台化した本作。2015年初演、19年再演に引き続き、老芸人・カルヴェロ役を演じるのは石丸幹二だ。初演よりおよそ10年近く時を経て、自身も経験と年を重ねたことにより、カルヴェロという人物への解像度が上がったのだろう。かつてスポットライトを浴びていた老芸人が、自身の“旬”を悟り、落ちぶれていく。焦りやせつなさがありながらも、ユーモアもプライドも少しの希望もある。そんなカルヴェロ像を好演した。
特に本作の1幕は、カルヴェロがテリーを励ます場面に時間が割かれる。その際にカルヴェロが口にする「人生に必要なのは勇気と想像力と少しのお金」「死と同時に避けられないものが一つある。それは生きることだ」「年を取ると深刻に生きてしまう」「人は愛する人のために闘う」といった人生訓の数々はテリーの心にも、カルヴェロ自身にも、そして観客の心にも深く突き刺さる。クサイ台詞ではあるけれど、それらに一つひとつの言葉に重みや説得力を持たせられるのも、石丸自身の円熟味が増したからと思う。
ヒロインのバレリーナ、テリーを演じた朝月希和。2022年12月に宝塚歌劇団を退団し、その後も話題の舞台に立ち続けている朝月は、本作へは初参加。本作では、基礎力や表現力を感じるバレエで観客を魅了しつつ、どん底から救ってくれたカルヴェロへの愛をまっすぐに表現していた。
ネヴィルを演じた太田基裕も本作に初参加となる。テリーへの恋心を初々しく、笑えるほど露骨に示す芝居が印象的だったが、そこから第一次世界大戦へと巻き込まれて、凛々しい軍人へと変わっていく様にも胸を打つ(思えば世の中の状況を伝える号外を配っていた青年も、アンサンブル的に太田が演じていた)。
植本純米、吉野圭吾、保坂知寿というコメディアン/コメディアンヌの素地を持つベテラン俳優たちがさまざまな役で脇を固めつつ、中川賢と舞城のどかがダンスで華を添える。上演時間は1幕65分、25分の休憩を挟み、2幕65分。ぜひお見逃しなく。
取材・文・撮影=五月女菜穂