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ミック・ジャガーはソロに向いてない!80歳超えてもキース・リチャーズと一緒にストーンズ

Re:minder

1985年02月19日 ミック・ジャガーのファーストソロアルバム「シーズ・ザ・ボス」発売日

リ・リ・リリッスン・エイティーズ〜80年代を聴き返す〜Vol.55
She’s the Boss / Mick Jagger

80過ぎても音楽三昧


ミック・ジャガー(Mick Jagger)は1943年7月26日生まれなので、現時点(2024年8月)では81歳になります。キース・リチャーズ(Keith Richards)は同じ年の12月18日生まれで、今のところ80歳。ロック界の二枚看板も、すっかりおじいちゃんになりました(実はミックにはもう曾孫 “ひまご” もいます)。

若い頃に “無茶” をやった、つまり酒とかドラッグとかをかなり多めに摂取した人たちってのは、たいていあんまり長生きできないものです。“The 27 Club” なんていう言葉があるくらいで、27歳で死に至ってしまう人がけっこういるくらい、やはり身体へのダメージは大きいですから。実際、ローリング・ストーンズ(The Rolling Stones)のメンバーだったブライアン・ジョーンズ(Brian Jones)は27歳で亡くなっています。

ところが、当時は同じような生活をしていたはずなのに(特にキースはジャンキー・ミュージシャンの代表格みたいに言われていたのに)、この2人の元気なこと。今年も、最新アルバム『ハックニー・ダイアモンズ』(Hackney Diamonds / 2023年10月発売)のリリースにともない、18会場20公演の北米ツアーを7月に終え、さらに “次のツアーを楽しみにしている” と、ミックは笑顔でコメントしています。

2021年にチャーリー・ワッツ(Charlie Watts)が亡くなった時は、とうとうこれで終わりだなと思いましたが、豈図らんや、すぐさまスティーヴ・ジョーダン(Steve Jordan)に依頼して、残っていたツアーをやりきり、そのまま彼を準メンバーとして、新曲だけのニューアルバムまでつくってしまうという展開。これには驚きました。

さすがに身体もしんどいだろうし、金に困ってるはずはないし、これ以上の名声やステイタスも要らないであろう彼らにとって、ここまでがんばるモチベーションはなんなのでしょう? 引退したって誰も文句を言わないよね。考えられるのはただひとつ。普通の人が “のんびりと好きなことをやって余生を過ごす” という、その “好きなこと” が彼らには音楽しかないんだろうってことです。

それも、ビッグネームバンドによくある、小遣い稼ぎのために再結成 → 往年の人気曲まかせのステージ、というお気楽パターンではなくて、新作をしっかりつくり、それを広めるためのツアーもやるという現役そのものの姿勢で。それが、ミックだけじゃなく、キースも、さらにロン・ウッド(Ron Wood・77歳)も、つまりバンドとして足並み揃っているのが、ほんとにすごいですね。ああ、もしかしたらキースとロンがいるからそうできるのであって、ミックひとりだったらとっくに引退しているかもしれませんね。

ミック・ジャガーは “ソロ” に向いてない?


ミック・ジャガーは声もルックスも身のこなしも、個性的だしカリスマ性もあると思いますけど、なぜか、“ソロ” が似合わない人ですね。ミックは1985年に、初のソロアルバム『シーズ・ザ・ボス』(She’s the Boss)をリリースしましたが、ぶっちゃけ面白いとは感じませんでした。“やっぱりストーンズあってこそのミック・ジャガーだな” というのが、当時の私の単純な感想でした。

しかし、ミックはこのアルバムに相当力を入れていたようです。プロデュースにも関わっているナイル・ロジャース(Nile Rodgers)とビル・ラズウェル(Bill Laswell)はじめ、ジェフ・ベック(Jeff Beck)とかハービー・ハンコック(Herbie Hancock)、スライ&ロビー(Sly & Robbi)、ピート・タウンゼント(Pete Townshend)、ヤン・ハマー(Jan Hammer)、カルロス・アロマー(Carlos Alomar)などなど、お気に入りのミュージシャンたちを望むがままに呼び寄せて、約半年もかけてレコーディングしています。

以前、『リ・リ・リリッスン Vol.19ローリング・ストーンズは最大の解散危機をどう乗り切ったのか?』で書いたように、この頃はミックとキースの心が最も離れていた時期です。ミックが本気でソロ活動への転身を考えていたとしてもおかしくありません。

だけど残念ながら、多くの人は私と同じように感じたんじゃないのかな、とチャートアクションを見て思うのです。全英6位、全米13位。もちろん悪い成績じゃないですが、ストーンズは『スティッキー・フィンガーズ』(Sticky Fingers / 1971年)から『刺青の男』(Tattoo You / 1981年)まで連続8アルバムが全米1位、その後の『アンダーカヴァー』(Undercover / 1983年)『ダーティ・ワーク』(Dirty Work / 1986年)がちょっと落ちても全米4位ですから、明らかに落差があります。

買った人も満足度は高くなかったのか、ソロ第2作『プリミティヴ・クール』(Primitive Cool /1987年)は全英26位、全米41位とさらに落っこち、コロムビア・レコードとは3枚のソロ契約をしていたのに、3作目は出さずじまいでした。ミックのソロ活動を快く思ってなかったキースは、『シーズ・ザ・ボス』をなんとヒトラーの『我が闘争』に例えて、“誰もが持っているけど、誰も聴いていない” とけなしています。1988年にミックがソロで来日しましたが、一応東京ドーム2日間だったとは言え、ストーンズのフロントマンの初めての日本公演にしては、意外なほど世間は盛り上がってなかったです。2年後のストーンズ初来日の際のものすごい熱狂ぶりとの差は、ちょっと不思議なくらいです。

今聴いても、やはりイマイチなんですが、改めて原因を考えると、ひとつにはやはり曲のクオリティ不足。ミック1人では "Jagger–Richards" に及ばなかった、と言うか、ストーンズの曲ってキースのギターにミックの歌がからむことで魅力的になっているのであって、メロディ自体よりもそちらのほうが重要だと思うのです。ミックだけでは当然、それがありません。ストーンズはだいたい、スタジオでいつでも録音できるようにしつつ、セッションしていく中で曲及びサウンドをつくり上げていくそうで、だからミックとキースの化学反応も起こりうるんでしょうが、たくさんのミュージシャンを集めたソロアルバムではそんなやり方もできなかったでしょうし。

もうひとつは、ミックの歌唱自体の物足りなさ。どうも力が入り過ぎているようで、硬く感じます。ミュージシャンが上手いから、(ストーンズと違って)キチンとし過ぎて、それにボーカルを合わせてしまった?… ソロでやれることを見せなければという余計な気負いがあった?… よく分かりませんが、同じ1985年8月にリリースした、デヴィッド・ボウイ(David Bowie)とのデュエット曲「ダンシング・イン・ザ・ストリート」(Dancing in the Street)ではノビノビといい感じで歌っていて、シングルも大ヒットしているんですよね。やはり、ソロに向いてないんじゃないですか?

死ぬまでストーンズ


でも結局、ソロアルバムが失敗に終わったことで、ミックはストーンズというバンドの重要さ、大切さを改めて深く認識し、1988年にはキースと和解することができたのでした。

もし『シーズ・ザ・ボス』が大ヒットしていたら、ストーンズは解散していたでしょうか。『リ・リ・リリッスン Vol.19ローリング・ストーンズは最大の解散危機をどう乗り切ったのか?』では “ストーンズは会社組織のようなものになることで、人間関係よりも業績の維持向上を優先したので、解散危機を乗り切ることができた” というような仮説を展開してみましたが、それに則って、『シーズ・ザ・ボス』がヒットした場合をシミュレートしてみると――

社長のミックに権力が集中してワンマン化し、キースは反発して辞表を叩きつける。ロンはなんとかキースを引き留めようとするが、結局キースについていくためやはり辞める。ミックは平然と、高額のギャラでジェフ・ベックを雇い入れ、むりくりストーンズを継続し、往年のファンの大半は憤慨して離れるも、新たなミーハーファンの増加により、経営的にはむしろプラスになってゆく… すみません、妄想し過ぎました。

ともかく、失敗が人を幸せにすることもあります。あれから36年、ビル・ワイマン(Bill Wyman)が去り、チャーリーが亡くなり、残った3人も “余生” と言われるような年齢となりましたが、元気に、楽しそうにストーンズを続けています。最新アルバム『ハックニー・ダイアモンズ』は、肩の力が抜けてる感じで(『シーズ・ザ・ボス』と好対照です)、すごくいいですね。特に「メス・イット・アップ」(Mess It Up)が好き。傘寿仲間でこんな作品をつくれるなんて、ホント素晴らしい人生です。

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