「355発の銃弾で殺された」5歳の少女の“最期の肉声”を映画化 ホアキンやブラピが製作総指揮に名乗り
『The Voice of Hind Rajab』:ヴェネツィアを揺るがした少女の叫び
2025年9月3日、第82回ヴェネツィア国際映画祭のコンペティション部門で初上映された映画『The Voice of Hind Rajab(原題)』が、史上最長となる23分間のスタンディングオベーションを受け、観客と批評家の心を深く揺さぶった。
わずか5歳で殺された少女ヒンド・ラジャブの物語
本作は、アカデミー賞にもノミネートされた『皮膚を売った男』(2020年)などで知られるチュニジア出身の監督カウテール・ベン・ハニアが脚本・監督を務めた89分のドラマ映画。
2024年1月29日、ガザ市でイスラエル軍の攻撃により家族を失い、車内に取り残された5歳の少女ヒンド・ラジャブが、人道支援組織<パレスチナ赤新月社>に助けを求めて電話をかけ続けた実話を基にしている。彼女と家族が乗っていた車には、イスラエル軍によって355発もの銃弾が撃ち込まれていた。
監督は、70分におよぶ”実際の音声”を聴いたことで制作を決意。その音声=助けを求めるヒンドの声は映画の中心に据えられ、劇中では俳優たちがその声に反応する形で演技を展開する。舞台は赤新月社のコールセンターに限定され、観客は救助を待つ少女の声と、対応する職員たちの葛藤を通して、絶望的な状況に引き込まれていく。
“劇映画化”に対する是非と“世界に届ける”使命感の狭間
本作をレビューしている多くのメディアの中には、「世界が応えなかった叫び」と形容し、ヒンドの声が波のように観客の良心に打ち寄せるという評も。一方で、「観客を逃げ場のない現実に閉じ込める作品」としつつ、音声記録の圧倒的な力に対してドラマ部分の演出が倫理的に議論を呼ぶ可能性もあると指摘する。
実際ドキュメンタリーとして届けるべきという声は理解できるし、それは制作陣にとっても大きな懸念点だったはずだが、今回ヴェネツィアでのスタンディングオベーションが、その不安を少しは和らげたかもしれない。
ブラピやホアキンらハリウッドの重鎮たちが製作総指揮に参加
本作には、ブラッド・ピット、ホアキン・フェニックス、ルーニー・マーラ、アルフォンソ・キュアロン、ジョナサン・グレイザーら錚々たるスターたちが製作総指揮として名を連ねている。ヴェネツィア映画祭のレッドカーペットでは、ホアキンとルーニーが監督や出演者たちと抱擁を交わす姿も報じられた。
ヒンドの声が世界に届くまで
ヒンド・ラジャブの母親は「世界は私たちを見捨てた」と語り、映画が戦争終結への一助となることを願っている。「だってハマスが…」「2023年10月7日の…」というレトリックは、もう通用しない。『The Voice of Hind Rajab』は彼女の娘の声を記録し、記憶し、そして世界に問いかける。「この叫びに、あなたはどう応えるのか?」と。