預かるだけではない学童保育 習い事も完結 浜松のおもちゃメーカーが挑む新しいモデル
■シャオールの学童保育 書道・運動教室と連携
「小学校低学年を預かる場所」という常識に捉われない学童保育が浜松市にある。知育玩具メーカー「シャオール」が5年前に始めた学童保育には、小学6年生も通っている。学童保育=預かりの場にとどまらない付加価値が親子の満足度を高めている。【全2回の後編】
【写真で見る】子どもの好奇心や考える力を育てるシャオールのおもちゃ
シャオールの学童保育は、児童を預かるだけではない付加価値の創出を特徴としている。6年生の「リーダー・副リーダー任命式」の他にも、2年ほど前から新たな取り組みを始めている。書道教室や運動教室との連携である。
週に1回、学童に通う児童を書道教室や運動教室へ連れていく。保護者からの「学童の時間に習い事を終わらせてもらえると非常に助かる」という声に応えるサービスとしてスタートした。ただ、単なる送迎に終わらせないところがシャオールならではと言える。宮地社長が説明する。
「書道教室も運動教室も、うちのスタッフが必ず様子を見ています。その日、どんなことを学んだり、挑戦したりしたのか。1週間前、1カ月前と比べて、どのようなところが成長したのかを各家庭に伝えています。そこまでサポートしなければ、送迎するタクシーと変わらないと思っています」
■習い事の様子を家庭に報告 送迎だけで終わらないサポート
文字だけでは伝わりにくい場合は、書道教室で書いたものなどを写真に撮って保護者に送る。シャオールから保護者への報告が、自宅で親子の会話のきっかけにもなる。こうした他の学童保育にはないサービスや考え方が、高学年になっても利用を続ける人が多い理由にもなっている。
これだけ手厚いサポートには当然、人手や時間が必要になる。一般的な施設より利用料が割高とは言え、シャオールの学童保育事業は赤字。本業としている、おもちゃの製造・販売の利益で補填しているという。宮地社長は「決して利益を出せる事業ではありません。儲けようと思ったら、学童の事業は続けていません」と話す。
シャオールは今年度から、浜松市に勧められて補助金を受け取っている。赤字の幅が小さくなり、利用料を値上げせずに運営を続ける。市が民間の学童保育事業を支援する動きが出てきたことで、同じ学区には新たな施設もできた。シャオールにとっては競合となるが、宮地社長は歓迎する。
「学童を必要としている家庭は多いにもかかわらず、施設の数は十分ではありません。行政だけで進めるには限界があります。民間の学童が増えるのは地域の人たちの選択肢になりますし、社会問題の解決につながります。私たちの施設がなくても、希望者全員が学童に入ることができれば、自分たちの役割を終えたと思えます」
■官民一体の運営 市が補助金で経営面を支援
シャオールは市から補助金を受けるにあたり、1つ条件を伝えている。「運営方法に制限がかかって自分たちのやり方や考え方を変えなければいけないのであれば、補助金は必要ないです」。市はシャオールの意向をくみ、「今のまま運営を続けてください」と全面支援を約束したという。
行政は学童保育の施設を増やす必要性を感じていても、全ての地域に1から施設をつくる財源がない。一方、民間企業も自治体の支援なしに、学童事業の経営を継続する難しさがある。その難しさが新規参入の壁にもなっている。官民一体で取り組むのが最善策だろう。そして、6年生まで児童を預かるシャオールの取り組みが社会への問題提起となり、行政を動かしたとも言える。
「収益面でかなり厳しい時期はありました。子どもたちが成長できる理想の場所を追求するほど、収益化は難しくなります。でも、学童保育事業をやめようと思ったことはないです。やはり、子どもたちには学校を終えて保護者が帰宅するまでの時間に居場所が必要ですから。児童と保護者の満足度を高めながら、事業を継続するために収支をゼロに近づける工夫をしていきます」
シャオールは、「低学年しか利用しない」といった常識を覆した。預けるだけではない、学びの場。浜松市で始まった新しい形は、学童保育のモデルケースとなる可能性を秘めている。
(間 淳/Jun Aida)