意外すぎる夫の心理..「夫婦喧嘩の原因」共働き子育て家庭のモヤモヤ 解決法を専門家が解説
夫婦カウンセリング歴40年の家族心理学者・布柴靖枝先生による、目からウロコの解説「話し合いを避ける夫の中には、それを『夫婦喧嘩をしない手段』だったり、『喧嘩をした挙げ句に自分が妻を傷つけないよう、妻を守る方法』と考えている夫がいます」
【画像】「猫ひっかき病」の本当は怖い症状・感染経路は? 〜原因と症状〜忙しい子育ての日々。頼れる相棒でいてほしい夫が、疲れを倍増させるイライラ・モヤモヤの原因になっていることがありませんか?
なかでも子どもや家族について大切な相談事を切り出すと、「その話、今度でいい?」とスルーされてしまうとイライラは最高潮に達します。
「話し合いを避ける夫の中には、それを『夫婦喧嘩をしない手段』だったり、『喧嘩をした挙げ句に自分が妻を傷つけないよう、妻を守る方法』と考えている夫がいます」
こう説明するのは夫婦カウンセリング歴40年の家族心理学者・布柴靖枝先生(文教大学教授)です。
「話し合い」から逃げる夫の心理
なんと、話し合いをしないことで、妻を守ろうとしている!? 布柴先生は「心理学的にも裏付けのある行動」だと指摘します。
「心理学では“葛藤回避”と呼ばれるものです。必要な話し合いから逃げるのは、決して良いこととは言えませんが……」
妻の側からすると目からウロコ、驚きの思考回路です。が、現代の日本ではよくあるケースだと先生は言います。
背景にある「夫婦喧嘩の力関係」
「会話から逃げるのは、『夫婦の話し合い』を怖がっているサイン。それには育った家族での体験が影響しています」「かつての日本では、激しい夫婦喧嘩が問題視されず、一般的に見られました。その中で育った男性には、『夫婦の話し合いは必ず喧嘩になり、力の強い夫が妻を傷つける』と刷り込まれてしまっている人がいます」
特に普段から話し合いをしていない夫婦の場合、妻が爆発寸前まで不満を溜めてから「話がある」と切り出して、夫にはそれが「避けたい喧嘩の前触れ」に見えてしまう……布柴先生のカウンセリングでも、その恐怖から無言で席を立ってしまう夫たちがいたそうです。
「夫から話し合いを避けられたらまず、そのときの状況がどうだったか、と考えてみてください。話すのが嫌になる、話す前からピリピリした状況ではなかったでしょうか?」
(写真:アフロ)
ですがイライラ・モヤモヤが募った状態では、「穏やかに話し合う状態」を妻側が作るのも、ハードルの高いことです。
布柴先生は対策として、普段から少しずつ、夫婦で話す機会を増やしていくことを勧めます。
「相談することがなくても、平時から、二人で快適に話す機会を意識して作っていくのが大切です。喧嘩をせずに話ができるという安心感を、お互いに作っていく。これには第1回(※)でお話しした、怒りに流されない『アンガー・マネジメント』が役に立ちます」
※第1回は、記事下の関連記事リンクよりご覧いただけます
話し合いができている家庭では、「毎週土曜日に子どもが寝たら」「車での移動中」など、夫婦で話すタイミングを決めていることも。
夫婦で話すときには何かおいしいものを食べよう、など、心理的に前向きになれる環境を整えるのも一案です。
「共働き」が子育て家庭の8割、専業主婦家庭は少数派に
夫婦間のイライラ・モヤモヤの核にあるのは、「なぜ私ばかり」の「不公平感」。
それは個人だけの問題ではなく、それまでの日本社会にあった構造から来ている──今回の連載で繰り返しお伝えした布柴先生の説明は、さまざまなデータや統計にも呼応しています。
▲今の日本で、3世代同居の家庭は3%とごくわずか。かつて主流だった「専業主婦」家庭も、少数派に。子どものいる世帯は「父親も母親も働いている」ことを前提にした家庭運営が必要になってきている(写真:アフロ)
「日本で家族というと今でも、サザエさんやちびまる子ちゃんのような『3世代同居家庭』を想像する人がいます。家事育児をするのが母親だけではなく、おばあちゃんがいる家ですね」
「現代ではそのような家族は、日本全国で3%ほどに減っていて、ごく少数派です」
1980年代の日本には子どものいる世帯が多く、全体の4割を超えていました。ですが今ではそれが、全体の2割ほどまで減りました。代わりに「一人暮らし」の世帯が多数派になっています。
「かつての日本で主流だった専業主婦世帯も、現代では共働き世帯の半数以下に減っています」
「専業主婦が家事育児を担う家庭は、日本の高度経済成長期のモデル。その分、これまでは男性が長時間労働をしてきました。しかし、1990年代にバブル経済がはじけてから、女性も働かなければ日本経済は維持できなくなっています」
性別役割分業のモデルは、バブル経済がはじけた30年以上前からすでに、機能しなくなっています。なのに一部の社会の仕組みや意識が変えられずに残り、時代に追いついていないのが現状です。
特に労働や子育ての面で、「女性も働き、男性も育児をする」という現実とのズレによる不具合が起こり、そのしわ寄せが夫婦関係と子どもに及んでいます。
「悩み」は夫婦関係が前進するチャンス
「社会の変化に合わせてサバイバルできるよう、家族は形を変えていきます。今の日本社会ではその変化の中、仕事と家事育児の両立で、妻側への負担が増えている。それは諸外国に比べて明らかに短い、日本の母親の睡眠時間に現れています」
負担が増え、体を休める睡眠時間も少ない。こうして夫婦間のイライラ・モヤモヤを、妻の側が感じやすくなっているのです。
「ですが、このイライラ・モヤモヤは、夫婦の関係をよくするきっかけにもできます。悩みは夫婦が共に前進するチャンスですから」
多くの夫婦を見てきて、令和の親たちに布柴先生が伝えたいのは、二つ。
ひとつ目は、子育ては「未熟な男女が一緒に父母になっていく、一緒に育っていく過程」であること。
もうひとつは、育児に完璧を求めないでほしい、ということです。
「私のカウンセリング経験からも、子どもは本当にタフな存在だと実感しています。完璧な子育てをしなくても、十分に育ってくれる。親としては60点くらいでもいいのです」「そして困ったときには、助けを求めてほしい。子育てで助けを求めることで、親の価値が下がることはありません」
効果的な「怒り方」ができると、しんどさが減る
その助けの一つが、今回の連載でお伝えしたような心理カウンセリングの手法です。なかでも「よい怒り方を身につけること」を、布柴先生は勧めます。
「怒り自体は決して、悪いものではありません。それを抑え込んでしまうとストレスになりますが、うまく表現して伝えるスキルをつけると、しんどさを減らせます」
「相手を傷つけずに私を主語にして伝える『アサーション・トレーニング』や『アンガー・マネジメント』によって、夫婦関係が改善し、子どもにもより安心な育ちの環境を作れます。仕事にも役立ちますよ」
子どもの誕生から始まる子育ての日々は、夫婦二人にとって、未知の体験と疲労の連続。大好きで「この人なら」と思い合っていたはずの相手でも、意図せず傷つけあってしまう状況にもなりえます。
その原因は個人ではなく、社会の構造にあるのかもしれない。そう発想を変えてみることで、イライラ・モヤモヤが減り、二人はパートナーとしてより分かり合える。
そう前向きに捉えて、この記事でご紹介した対策を試してもらえたらと願います。
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子育て世代にむけた「夫婦喧嘩のイライラ・モヤモヤ解決法」は全3回。
「夜泣き対応」などを取り上げた第1回、「危機感の違い」などを取り上げた第2回に続き、最後となるこの第3回では「夫婦の話し合い」を取り上げ、家族心理学者・布柴靖枝先生(文教大学教授)にお話を伺いました。
取材・文/髙崎 順子
参考・出典
結果の概要「I 世帯数と世帯人員の状況」P1
「表1 世帯構造別、世帯類型別世帯数及び平均世帯人員の年次推移」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa24/index.html