最前線の囲碁AI研究の現場取材レポート!―「AI研究会」では 何をしているの!?【NHK囲碁講座】
囲碁の「AI研究会」では何をしているの!?
NHK杯のテレビ画面に「AI」による予想手や勝率が登場したことに、視聴者の皆さんは、さまざまな感想をお持ちのことだろう。
「AI」は完璧なの? プロは「AI」とどう向き合っているの?
最前線のAI研究の現場は……予想に反し、棋士たちの笑い声にあふれていた。大橋七段主宰の「AI研究会」を取材しました。
NHK「囲碁講座」テキスト6月号よりお届けいたします。
「AI研究会」は2018年の秋にスタートした。「目的は変わってきた」と語るのは主宰の大橋拓文七段。「当初はAIを手軽に使えなかったので、使い方や情報を共有しましょうという目的でした。でも、1、2年したら手軽に使えるAIがどんどん出てきたので、これを使って勉強していこうね、と。AIは、10種類以上ある中で最強レベル2種類を使っています」
現在は25人ほどが所属し、毎週金曜日、朝10時から「遅い時は夜の10時まで」研究が続くそうだ。室内を見渡すと、2台のパソコンの前にそれぞれ碁盤が置かれ「9%落ち!」「お。そっち?」などとにぎやかに会話が飛び交っている。別のパソコンで詰碁に取り組んでいる棋士もいる。とても自由な雰囲気だ。
では、皆で集まると、どんないいことがあるのだろう? もちろん、一人でも研究できる。AIの画面(写真参照)には、候補順、勝率、探索数、目数などの数字がギッシリ並んでいる。
初めて見る手に感動して、画面の写真を撮ることもしばしばあるそうだ。
「ただ」と大橋七段。「僕の場合、一人で勉強しているとAIの第一候補ばかり見ちゃう。でも、皆といると『こういう手はないの?』という意見が出てくる。それが大事」と力説する。他の棋士たちも……。
上野梨紗女流棋聖「第一候補ではない優秀な手も皆が教えてくれます」
牛栄子女流最強「皆で検討することでAI超えという手がたまに分かったりして、それも棋士としては楽しいです」
平田智也八段「若い子の知識を教えてもらっています(笑)」
横塚力七段「一人だとこんなに楽しく勉強できない(笑)」
そもそもAIを使いこなすのが難しいと聞くが、大橋七段は「勉強法が洗練されていくのも研究会のいいところ。今は布石の研究をメインに、けっこういい勉強法が生き残っている」とニコニコ顔。そして、「年齢がいっても、よい勉強法であればやっただけ返ってくる。ここで勉強し、皆、感覚がよくなり、形勢判断の精度も上がっている」と充実の表情。酒井佑規五段も「AIは自分の実力を上げるチャンスをくれる」、牛女流最強も「研究した手は、知っているだけで自信になる。そういった面もあります」と語ってくれた。
発足時から参加している上野愛咲美女流立葵杯は、「木曜が手合い、翌日はAI研という感じで、もう完全にルーティンになっています」と笑い、「AIは完璧だと思われがちなんですけど、間違えてくるところもあって、かわいい部分もある。ふふふ」とお友達のように話してくれた。
夕方からは、人気の企画「ヨセマッチ」がスタートした。
「ヨセマッチ」は、終盤の局面から棋士同士(1対1)で一斉に続きを打ってヨセを競う。同じ局面から始めるのだが、何局もの結果はすべて違う。その後にAIで検討をすると「だいたい大事なところが分かる」のだそうだ。最近急成長の栁原咲輝初段は「ちょっとだけヨセが上達したのかなと思っています」と、はにかんでいた。
集合写真をご覧いただこう。
この中に、未来の囲碁界をリードする若者がきっといるはずだ。「これから、囲碁が成長して変わってくる可能性は十分あります」と大橋七段。「AIの登場で、研究はものすごく深くなってきて、水面下の戦いやドラマもものすごく面白いんです。それを今後、囲碁ファンにもお伝えしていけたらなぁ!」。大橋七段は常に笑顔で前を向き、未来の可能性を語り続けてくれた。
◆NHKテキスト「囲碁講座」6月号「「AI研究会」では何をしているの!?」より
◆文 高見亮子
◆写真 小松士郎