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ピアニスト石井琢磨、新アルバム『Diversity』に込めたクラシック音楽の“多様性”への挑戦~秋ツアー&今後の目標まで深堀り!

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石井琢磨

YouTubeチャンネル「TAKU-音 TV たくおん」の登録者数が27万人を突破、2024年2月にはクラシック音楽の殿堂・サントリーホールでのリサイタルを大成功に収めるなど飛ぶ鳥を落とす勢いで活動するピアニスト・石井琢磨が9月4日(水)に3枚目のアルバム『Diversity』を発表する。9月7日(土)からは愛知、東京、大阪など全11カ所をめぐるピアノリサイタルツアー「Diversity」が幕開け。自身の誕生日である11月17日(日)に埼玉でファイナル公演を迎える。あふれる才能を注いだアルバムについて、その作品を満喫できるコンサートについて、さらにサプライズが満載の今後の予定について石井に聞いた。

世界を旅しているようなワクワク感を コンサートを想定し構成された『Diversity』

石井琢磨『Diversity』通常盤

――3枚目のアルバム『Diversity』が9月4日(水)にリリースされます。

『Diversity』と名付けたのは、「クラシック音楽の多様性に挑戦したい」と思ったからです。前作『Szene(スツェーネ)』は、映画やドラマ、演劇、バレエなどの作品の中で、印象的なシーンを演出するクラシック音楽をセレクトしましたが、今作は、コンサートを想定し、世界を旅しているようなワクワク感を出したいという思いで構想しました。

曲のバラエティという意味合いでの多様性として、前作に引き続きござさん、菊池亮太さんに編曲をお願いした楽曲があります。お二人は、演奏がうまいことはもちろんなのですが、YouTubeでも活躍するピアニストとして、1音で人を魅了できる才能があるとリスペクトしています。

それから、同じく菊池亮太さん、そして髙木竜馬くんとの二台ピアノもスペシャルコンテンツとして収録しています。二人は、僕の人生にとってかけがえのない友人であり、尊敬するピアニストです。今回、どうしても大好きな二人を入れたくてお願いしました。僕らの友情を音に込めているので、ぜひそれも楽しんでいただきたいです。

そして、「固定概念にとらわれない」という意味で、僕自身も編曲に挑戦しています。ピアニストは、リリースする作品の中で自らが編曲をすることは稀なのですが、誰でも編曲に挑戦して良いんじゃないかという思いで、「花のワルツ」を単独で、そして「ジュピター」を横内日菜子さんと一緒に編曲しています。

クラシック音楽の扉を開ける番人に エンターテイナーであり続けたい

――初編曲という挑戦に、「花のワルツ」と「ジュピター」を選んだ理由についてお話し頂けますか。

「花のワルツ」は、前作で同じチャイコフスキー作の「眠れる森の美女」を入れた繋がりから選びました。ポイントは、オーケストラ曲をピアノソロに編曲していること。僕は常々、「クラシックの扉を開ける番人になりたい」と思っているのですが、今回、僕がこの曲を演奏することでオーケストラ曲にも親しんでいただき、それがオーケストラのコンサートに足を運ぶきっかけになれば、という気持ちで選びました。僕自身もそのきらいがあるのですが、オーケストラの公演は、ピアノソロ公演よりハードルが高いと思われている方も多いのではないでしょうか。でも、ソロもオーケストラも、そこにしかない喜びがあると思うので、それを体感してほしいなと思っています。

「ジュピター」は、原曲にリスペクトを持ちつつ、有名なメロディー部分の感動を最大値で感じてほしいと編曲を考えました。J-POPに例えるなら、ノレるサビの部分が繰り返し登場するようなイメージです。もう1回出てきたら良いのにな、と感じていた感動的な部分、その感動を最大化するために、エベレストのように高い高い山を作っています。

――遊び心、そして音楽へのリスペクトを感じる構成ですね。ござさん、菊池さんに編曲依頼をされた楽曲についても、お話し頂けますか。

ござさんには、特定の一曲の編曲ではなく、シュトラウス一家が生み出した曲をメドレーにした「ウィーン・パラフレーズ」という楽曲を製作して頂きました。6分ほどの曲の中には、ござさんならではのフレーズも随所に散りばめられており、ござさんテイストも感じて頂けると思います。基本的にはござさんの自由な発想で展開して頂いたのですが、アルバム自体がコンサートを想像しながら作成したものなので、全体の繋がりを考えて、この曲の最後は「ラデツキー行進曲」の魅力的な部分で締めくくってほしいとお願いしました。

――コンサートのための編曲とは贅沢ですね。菊池さんが編曲された「チム・チム・チェリー」についても教えてください。

「チム・チム・チェリー」は僕がドイツのストリートピアノで演奏したことがある、なじみ深い曲です。今回のアルバムには「ラ・カンパネラ」を収録しているのですが、この曲との繋がりを考えて、菊池さんには「ラ・カンパネラ」風の「チム・チム・チェリー」をお願いしました。

コンサートのプログラムは、曲同士の互換性も考えているんです。アルバムの中では、坂本龍一さんの「インテルメッツオ」とブラームスの「インテルメッツオ」を並べたのも、比較をしながら弾くことを提示したいという思いがありました。実は細かいギミックだらけなので、これをどうコンサートで体現していくのか考えている最中です。ぜひアルバムだけではなくコンサートも楽しみにして頂きたいです。

――座組まで考えるピアニストは、珍しいと思うのですが、その発想力はどこから沸いてくるのでしょうか。

YouTubeを見てくださっている人たちの多くは、演奏を聴きたいという思いと同時に「何が起こるのか?」を期待してくださっていると思うんです。なので、どんなときもワクワクを提供したい、エンターテイナーでありたいという思いがあります。気づけばプロデューサー視点で見ていることも多いので、何か思いついたら、気持ちに歯止めをかけずに、頭の中のアイデアを体現していきたいです。


ウィーン直送の音楽と写真、そして隠れた挑戦も

石井琢磨『Diversity』初回盤

――6月16日(日)に神奈川・横浜で行った配信ライブでは、ベーゼンドルファーで演奏をされていました。今作にも登場するのでしょうか。

はい。全曲ベーゼンドルファーで、かつ、大半はウィーンで収録しています。ベーゼンドルファーは、職人さんが一つ一つのパーツを手作りで作っているので、温かみがある音色が特色です。ピアノ作りにかける職人さんの思いと、僕自身の一曲一曲への愛しさを重ねて演奏することができました。

――ピアノの屋根部分に地球を思わせるペイントを施したアルバムのジャケット、アートワークもとても素敵です。

これ、実際にピアノを立てて撮影しているんです。ピアノってどうしても画角が限られてしまうから、立ててみたらどうだろうと(笑)。もちろん安全面を考慮して、万全の体制で行いました。遊園地のようにワクワクできるコンサートにしたいので、その思いをジャケットでも表現したいと思いました。

――初回盤は、ウィーンで撮り下ろした写真をまとめたブックレット付きです。

22歳のときに初めてウィーンに渡って、そのときに目にしたホフマンや、ワーグナーなどウィーンが誇る芸術家たちを感じられるような写真を撮影しました。1000枚を超える写真から厳選したので、ウィーンの空気を感じて頂ける内容になっているかなと思います。

――アルバムリリース後、9月7日(土)の知立リリオ・コンサートホール(愛知県)から、東京・大阪など11カ所をめぐるツアーが始まります。プログラムの詳細はまだ考案中とのことですが、現状でお話し頂けることはありますか。

実は僕、今回作曲にも挑戦したんです。1年以上かけて何曲も書いて、最終的に一曲作り上げたのですが、いろいろ考えた結果、アルバムに入れるのはやめたんです。だけど、せっかくだしアンコールで弾くのはアリかな……と考えたりしています。まだ決めきれてはいないのですが、そんな部分も楽しみにしていただければと思います。

過去があるから今がある 人生は華やかさと豊かさを増すばかり

――11月17日(日)に所沢市民文化センター ミューズ(埼玉県)で迎える最終公演は、石井さんの誕生日でもありますね。

誕生日にステージに立てるなんて、しかもそれがツアーファイナルなんて運命だと思っています。仕組んでできることではないので、その巡り合わせに感謝しています。

――石井さんは東京藝術大学を経て22歳でウィーンに渡り、今も日本とウィーンを往復しながら国内外で活動を続けています。改めてこの十数年を振り返っていかがですか。

渡欧してすぐ、ベルヴェデーレ宮殿やウィーン美術史博物館など主要な美術館を全て巡って、音楽と絵との繋がりなどを紐解いたことがあったのですが、今回、初回盤に封入するブックレットの撮影もあり、いくつかを再び訪れたんです。そこでクリムトの「接吻」を改めて見て、22歳のときとは別の感じ方をしている自分がいることに気がつきました。初めて見たときは「きらびやかだな~」「チューしようとしているな~」くらいの感想だったのですが(笑)、今の僕は「優しさに満ちた男性」に着目していました。そのとき、過去に自分が持った感情と比較できるって、面白いなって。歳を重ねることは、経験を重ねていくこと。過去の産物が多ければ多いほど、比較できることが多いので、フレッシュで居続けられる。そう考えると、人生はずっと華やかなものと感じたんです。

――なるほど。そういう視点で見ると歳を重ねていくことは、とても豊かに感じます。奏者としては年齢を重ねていくことをどう捉えていますか。

今回アルバムに収録したブラームスの「インテルメッツオ」を初めて演奏したのは19歳のときでした。今とは全然違う解釈をしていて、どうして19歳のときはこういう風に弾いたのかなと考えることもあるんです。経験を重ね、その年齢だからこそ持てる感情があると思うので、その感覚は大切にしていきたいですね。一方でフィジカル面ではやっぱり10代のときの自分にかなわないこともあります。だから今は、指のストレッチだったり、全身のトレーニングだったり身体づくり・体力づくりも努めています。

――47都道府県公演、今年2月にはサントリーホールでのコンサートを実現させるなど、立てた目標を次々に達成されました。新たな目標などは立てられるのでしょうか?

サントリーホールでのコンサートは幼い頃からの夢でしたので、本当に、「生きていて良かった」と思いましたし、感無量という言葉が最も似合う経験でした。たくさんのお客さんを喜ばせたいという思いは変わりませんが、サントリーホールでの公演を終えた今、その言葉の重みに変化が生まれました。次の挑戦は、実はもう決まっています。でも、まだ公にできなくて……。「えっ!!!!!!!」と驚くようなサプライズもあります! 早く言いたいけど、まだ言えません。発表したときの、皆さんの反応が楽しみですが、「期待して待っていてね!」ということだけは、お伝えしておきます。僕の挑戦はまだまだ続くので、これからの石井琢磨も楽しみにしていてください!

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