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「イル・カステッロ」木村直人シェフ、「アオヤギ」青柳拓也シェフと巡る福島

料理王国

「イル・カステッロ」木村直人シェフ、「アオヤギ」青柳拓也シェフと巡る福島

福島県は三つの地域に分かれている。阿武隈高地から東は浜通り、奥羽山脈から西は会津と呼ばれ、この中間にある地域が中通りだ。福島県の食と酒を国内外に発信する「テロワージュふくしま」が11月に行うフェアに先がけ、県内の2人のシェフと、浜通りと中通りの生産者を訪ねた。

福島県最大の漁船数の相馬漁港


阿武隈山地の川内村には「イワナ」も

浜通りを案内してくれたのは、いわき市のイタリア料理店「イル カステッロ」のオーナーシェフ・木村直人さんだ。東京・銀座にあった「エノテーカ ピンキオーリ」など、都内のレストランを中心に20年以上腕を磨いてきたシェフである。

2019年、故郷のいわき市に「イル カステッロ」を開いて独立。「常磐(じょうばん)もの」と呼ばれる魚介類を中心に、県内の畜産品や野菜などを使った骨太なイタリア料理で、県外からもゲストが集う人気店になった。
「11年の東日本大震災の時は、東京にいました。周りの料理人達には『福島県の食材は使いにくい』と言われ嫌がられました。それが悔しくて。地元に帰ったら福島県の魚介類をたくさん使おうと心に決めたんです」

地元・いわき市の漁港だけでなく、北部の相馬市の松川浦漁港の魚を扱うことにしたのは、地元に戻って5年が経ち、今まで以上に料理の幅を広げたいと考えたからだ。
「いわき市には全長約60kmの沿岸に小名浜や勿来(なこそ)など、7つの港があるんですが、今回伺う相馬の松川浦漁だけで、その港の船の数を越えるという人もいる大きな漁港です」

松川浦漁港の漁師で福島県漁青連の会長を務める高橋一泰さんは、現在小型船が130~140隻あり、「全国でみても大きい漁港です」と答える。主な漁法は底びき網漁だ。

2.6kg越えのタイや4.4kg越えのヒラメなど大きく身が締まった魚を前に、いわき市の魚とは違った魅力を感じた、と木村さん。
「いわきと相馬、どちらもいい。県外のシェフの皆さんには、仲買人さんや漁師さんと良いコミュニケーションをとりながら、長くお付き合いをしてもらいたいです」と木村さんは言う。11月からはサバやアンコウ、ホッキ貝なども加わり、漁港はさらに活況を見せる。

底びき網漁で知られる東北随一の漁港
福島県沖は、暖流と寒流が交わる「潮目」に位置する好漁場で、県内に揚がった魚介類は「常磐もの」として人気が高い。震災以降、処理水の放出などで風評被害が続くが、相馬の漁港をはじめ福島県漁業協同組合では、国が一般食品に定める放射能基準値100ベクレル/kgの半分、50ベクレル/kgを水揚げされた魚に対する独自基準として定め、より厳しい監視を行っている。

相馬双葉漁業協同組合(松川浦漁港)
福島県相馬市尾浜追川196
TEL 0244-38-8301

海から阿武隈高地の中央部にあたる川内村に移動し、木村さんが紹介してくれたのが「いわなの郷」だ。人郷離れた山の中で、沢から流れるきれいな水を引いた生け簀で育ったイワナは、川魚特有の匂いがなく、刺身でも食べられるという。川魚は海魚とは異なる特有の香りや内臓の苦味がある。今まで出会ったことのない魚だが「料理の幅を広げたい」という木村さんが3年前からに使い始めた食材だ。

人里離れた山から流れる清流で育ったイワナ
「いわなの郷」は、阿武隈高地の中央に位置する川内村のなかでも特に山の中にあり、これ以上先に人家のない秘境にある。近くを流れる沢から水を引いた生け簀で1年半かけてじっくり育てたイワナは、120g前後になることも。清流で育つため臭みがなく刺身でも食べられる。

いわなの郷
福島県双葉郡川内村上川内炭焼場516
TEL 0240-38-3511

川内村には「かわうちワイナリー」もある。標高750mほど高地にある花崗岩土壌の自社畑では、シャルドネやソーヴィニヨン・ブラン、メルローなどヨーロッパのブドウ品種が栽培されている。自家ブドウ自家醸造の「ヴィラージュ」シリーズは、ワインコンテストで入賞するなど評価が高い。

2021年に醸造所が完成した最新ワイナリー
かわうちワイナリー」は、21年に醸造所が完成し自家醸造がスタート。4haの畑にはシャルドネやメルロー、ピノ・ノワールなど、ヨーロ
ッパのブドウ品種が約1万5000本。日本ワインコンクール2024の欧州系品種赤ワイン部門で「ヴィラージュ メルロー&カベルネソーヴィニヨン 2022」が銅賞を受賞。

かわうちワイナリー
福島県双葉郡川内村大字上川内字大平2番地の1
TEL 0240-25-8868

いわき市に戻った木村さんが最後に紹介してくれたのがトマト農家の「あかい菜園」だ。特にお勧めだというのが高糖度トマトの「フラガール」。「フラガールをオイルで煮詰めただけでソースになるくらい、トマトの味わいのバランスがいいんです」と太鼓判を押す食材だ

年間20種類を栽培するトマト専門農家
ハウス内に設置された養液栽培施設で、大玉「桃太郎」や中玉「カンパリ」、調理用「サンマルツァーノリゼルバ」など年間20種類ものトマトを育てるのが「あかい菜園」だ。木村さんがおすすめするのは、細長く赤いミニトマトの「フラガール」。10月から7月まで出荷される。

あかい菜園
福島県いわき市平赤井字一の町55-1
TEL 0246-68-6969

「帰ってきてまだ5年。浜通りだけでなく、福島県、そして東北全体のことももっと知りたいと思っています」という木村さんの興味関心が詰まった浜通りの旅だった。

木村直人

1977年、いわき市生まれ。銀座「エノテカ・ピンキオーリ」(閉店)、白金高輪「タランテッラ・ダ・ルイジ」など、都内のイタリア料理店で修業した後、2019年に故郷・いわき市に「イル・カステッロ」をオープンし、独立した。

イル カステッロ

福島県いわき市平字旧城跡17-4
TEL 0246-85-0800
11:30~13:00LO 17:30~20:30LO
日月休

阿武隈川流域の肥沃で育った作物


日本酒由来の発酵飼料で健康な牛

「アオヤギ」は、福島市生まれの青柳拓也さんが2014年、同市内に開いたイタリア料理店。青柳さんは独立前、イタリア・プーリア州で暮らした1年弱以外、20年間の料理人人生を福島県で過ごしてきた、福島県の食材をよく知る料理人だ。なかでも福島市北東、伊達市の旧梁川町(やながわまち)地域は、青柳さんが時間を見つけては産地を訪ね続けるエリア。中通りの東北端に位置し、地域内を阿武隈川が流れる。
「19年の台風10号の影響で、阿武隈川が氾濫。梁川町地域が水浸しになりました。もともと狭窄部で水害が多い地域。言い換えると土地が肥沃だということ。地下水が豊富で、水はけもいい。自然を相手にするのは大変ですが、農業に向いた土地だと思います」というのは、この地で五代続く野菜農家の草野一浩さんだ。

草野さんは年間20種類、少量多品種の野菜を育てる。取材した9月初めには、10月から11月にかけて収穫を迎えるニラが育っていた。冬にかけてゴボウやサトイモなども始める。「根菜の時期のカブは、甘くて瑞々しく、まるでモモみたい」と青柳さん。

野菜農家の菅野雄一さんの前職はイタリアンレストランのサービスマンだ。東日本大震災後、実家の家業に就いた。梁川町地域は、砂地や固い土質の土地が隣接する面白さがあるという菅野さんは、その土地柄を生かし、珍しいイタリア野菜を中心に少量多品種の野菜を育てる。「レストランの料理に向いた野菜を育てることを心がけています」と菅野さん。料理人のリクエストにも応えたいという。

國分善行さんは、農薬を使わず、肥料もたい肥も入れない自然型農法で米や果樹、ソバ、野菜などを育てる。「有機JAS認証を取らないのですか?」と聞くと「認証を取るよりも、自分自身の姿勢を貫くことを大切にしてきた。植物本来の力を最大限に引き出すための栽培方法を模索するうちに、自然型の農法に行き着いたんです」と答えてくれた。

阿武隈川流域の熱意ある生産者の野菜や果樹
「食材の良さは前提として、長くお付き合いできる、信頼できる方を紹介したい」という青柳さんは、伊達市梁川町地域の3人の生産者を訪ねた。草野さんは、温度や湿度など非生物的ストレスを緩和して植物の生育をサポートする資材・バイオスティミュラントを採用するなど、先進的な取り組みも行う。菅野さんは、宮城県の伝統野菜「仙台長なす」などの栽培も行う興味関心の高い生産者である。國分喜行さんは、12月から始まる干し柿がおすすめだ。

草野一浩さん
伊達市梁川町向川原
問合せはfacebookのメッセンジャー
クマンド ヤサイ(菅野雄一さん)
伊達市梁川町向川原
フェルム ナチュレール コクブン(國分善行さん)
福島県伊達市梁川町細谷字浅間下84
MAIL info@fnkokubun.com

伊達市から南へ。安達太良(あだたら)山の南麓、大玉村には、青柳さんが応援するブランド和牛「あだたら酵母和牛」を育てる國分農場がある。日本酒由来の酵母菌を加えて発酵させた自家飼料を離乳後から与えるためその名が付いた。この「酵母発酵飼料」が牛の腸内環境を整えて消化を促してくれる。体調が安定し健康に育った牛は、肉質も良い。

「牛舎特有の臭いがほとんどしない」という青柳さんに國分農場の國分秀作さんは、牛の健康状態の良さとともに、飼育環境・管理の良さが要因だと説明する。國分農場では24年秋からブランド化をスタート。「アオヤギ」でも積極的にメイン料理の食材として使う。

2024年にスタートしたブランド和牛「あただら酵母和牛」
「あだたら酵母和牛」を育てる國分農場は、19棟の牛舎で年間600頭ほどを出荷する農場だ。先代社長によって県内産のエコフィードの利活用や日本酒由来の酵母を使った発酵飼料を取り入れることで肉質が向上した。2024年にブランド化した「あだたら酵母和牛」は、生後2カ月
の仔牛から農場で育ち、生後3~12カ月以降は牧草とともに自家製発酵飼料を与え、成長とともに内容を変えながら25カ月までじっくり育てる。きれいな脂が特徴だ。

國分農場
福島県安達郡大玉村玉井字小高倉82
TEL 0243-48-3888

「その土地でとれた食材で料理をするのがイタリア郷土料理。僕はその精神を大切にして、イタリア料理の知見も生かしながら、福島県食材を使った、新しい福島の郷土料理をつくっていきたいです」と青柳さんは語る。

青柳拓也

1986年、福島市生まれ。高校卒業後、福島市内のイタリア料理店に入る。11年の東日本大震災をきっかけに退職し、イタリア・プーリア州にわたる。同年帰国し、独立準備に入り、13年に「アオヤギ」を開き独立した。

アオヤギ

福島県福島市大町2-2
TEL 024-563-5448
12:00〜18:00〜 WineBar 21:00〜
不定休

なお、福島の美酒美食を紹介するプロジェクト「テロワージュふくしま」が11月に開くフェアでは、虎ノ門ヒルズステーションタワーのレストラン4店舗で、今回巡った生産者を含む福島県産食材を使った料理が楽しめる。

「究極のおいしさは産地にあり!」福島の食と酒を発信

テロワージュふくしまは「究極の美味しさは産地にあり!」を活動の理念とし、福島県の素晴らしい食と酒を日本各地に紹介するプロジェクト。2019年からPR活動を開始。福島県内、東京や関西、さらにはフランスでも行う。24年11月6日(水)からは東京・虎ノ門ヒルズ ステーションタワーのレストランで福島県食材のフェアを1カ月にわたり開催。11月23日(土)には、炭火イタリアン「ピュウファロ」でフェア開催を記念し、本ページで紹介した食材などをふんだんに使った特別イベントを昼と夜に開催する。

テロワージュふくしま レストランフェア
https://cuisine-kingdom.com/terroage-fukushima-fair2024

テロワージュふくしま×ピュウファロ ガラランチ&ディナー
https://coubic.com/terroagefukushima-piufalo/4580891

text: Ichiro Erokumae photo: Tameki Oshiro

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