いま『ドント・ルック・アップ』が再注目? LA山火事で気候変動がより痛烈テーマに ─ 「指導者が、大手メディアが、あらゆる業界が嘘をついていた」
映画『ドント・ルック・アップ』は、配信開始から3年を経た今も、Netflix史上第2位の視聴者数を誇るコメディだ。レオナルド・ディカプリオ、ジェニファー・ローレンス、メリル・ストリープ、ら豪華キャストが出演した本作が暗に啓蒙したのは、“気候変動”の問題だった。
Netflix映画『ドント・ルック・アップ』2021年12月24日(金)より独占配信開始
ディカプリオ&ローレンス演じる天文学者は、惑星全体を滅ぼすほどの巨大彗星が地球に向かっていることを知る。約6ヶ月後にも衝突が迫るなか、2人は人類滅亡の危機を知らせるべく奔走するが、メディアや政府はまるで彼らを相手にせず……。配信当時、専門家たちも「気候変動に関する教訓をユーモラスに描いた」「危機と否定論、差し迫る問題への行動の欠如が多層的に描かれている」と。
監督・脚本は『バイス』(2018)『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(2015)のアダム・マッケイ。自身の製作会社Hyperobject Industriesを擁するほか、2023年には気候変動の問題を訴え、大手石油会社のウソを告発するために、非営利法人Yellow Dot Studiosを設立している。
2024年1月にロサンゼルスで起きた大規模な山火事は、これまで“山火事の季節”とされていた時期から大きく外れて発生した。米国メディアが気候変動の影響を指摘するなか、マッケイ監督は英にて、気候変動や社会システムの問題を改めて語るとともに、『ドント・ルック・アップ』への支持に感謝を表している。
「すさまじい大惨事が次々に起こるなかで、映画は小さくてバカバカしいもののように思えます。けれど(『ドント・ルック・アップ』では)人々の反応に感動し、元気をもらいました。批評家や文化人に嫌われたことにではなく、パキスタンやベトナム、アメリカ、ウルグアイなど、85の国々で(チャートの)No.1を獲得したことにです。文化や地域性によって制限が生じることの多いコメディとしては非常に珍しい結果です。」
Netflixから正確な視聴者数は知らされていないようだが、マッケイによると、本作を視聴した人数は「4億~5億人くらいでしょう」。2024年には、本作が気候変動に対する人々の認識を変え、行動を起こす可能性を高めたという研究結果も発表されるなど、現実的な影響力が証明された。
Netflix映画『ドント・ルック・アップ』独占配信中
『ドント・ルック・アップ』が受け入れられた理由を、マッケイは「“騙されていた”という発想に誰もが共感したのだと思います」と分析する。「指導者が、大手ニュースメディアが、あらゆる業界が嘘をついていた。新自由主義経済が世界中に広がった今、それこそが至るところで起きている癌のような共通点なのです。誰もがそのことを感じています」。
マッケイは世界の現状を、「恐ろしい時代です。経済は破綻に向けて突き進んでおり、平均的な労働者のニーズに応えられていない」と指摘する。「大量破壊や戦争、ヘルスケアの欠如、異常に高利率なローン、そして気候の崩壊。ひとたび閾値(いきち)を超えれば、数百年、数千年にもわたって結果に対処しなければなりません。[中略]私たちは気候の安定を壊した。だからハリウッドが消え、歴史が消滅し、スポーツもなくなる。気候変動はすべてに影響を与えるのです」。
すなわちマッケイにとって、『ドント・ルック・アップ』のような映画はそうした社会への警鐘なのだ。しかしコロナ禍や2023年のストライキに代表されるように、映画界は経済的苦境のなかで規模の縮小を余儀なくされ、こうした映画を作る機会は失われつつある。現実に、ロサンゼルスの山火事はハリウッドにとって3度目の大打撃となった。
「私たちの目の前にあるものは、スタジオやストリーミングの超・金融化と企業化であり、すべてがたちまち役員室に吸い込まれる残酷な構造です。すべてはつながっていて、その経済モデルが気候危機を悪化させている。四半期ごとの収益モデルだけを見て、株主に対する責任しか負わないものは、破壊的なマシンでしかありません。」
Netflix映画『ドント・ルック・アップ』独占配信中
現在、マッケイは『ドント・ルック・アップ』に続く新作映画を準備中。「気候の問題に基づき、石油企業や政府、メディアを描いた脚本を書き終えました。ときに笑えて、ときにドラマティックな内容です」と自信をにじませるが、現在のハリウッドで実現することは難しくなりつつあるという。しかし、ヨーロッパでの出資・配給を含め、「実現する方法はまだあるはず」と強調した。
「億万長者の中には、良い作品に投資したいと考える人もいます。企業に属さないかたちで製作・配給・普及させることも重要で、私たちは企業の役員室とは別の文化を作らなければいけないのです。そこに大きな力があることを、私はすでによく知っています。」
Netflix映画『ドント・ルック・アップ』は独占配信中。
Source: ,