【レンジローバー ヴェラール】余分なものがない贅沢
アンダーステイトメントでありながら、同時にラグジュアリーも表現する。相反する価値観を両立するという難しい課題を鮮やかな手法でクリアしたのが、レンジローバー ヴェラールだ。
texttakeshi sato
レンジローバー ヴェラールというモデルは、自動車デザインにおけるひとつの“発明”だった。これまでは、鋭利なラインや複雑な面の構成で個性を主張することが自動車デザインの王道だった。けれどもヴェラールは、段差や出っ張りのない、シームレスな意匠で登場したのだ。削ぎ落とした、引き算の美学ともいうべき造形美は、控えめでありながら瀟洒な存在感を放っていた。そしてその上品なたたずまいは、世界中で支持された。「Calm Sanctuary(静穏な聖域)」というコンセプトで進化を果たした新しいヴェラールは、アンダーステイトメントな美しさがさらに磨き込まれている。具体的には、LEDのヘッドライトやテールライトが新しいデザインとなり、フロントグリルの格子模様もさらに繊細なものになっている。
特筆すべきは、「静穏な聖域」というコンセプトが、エクステリアだけでなくインテリアにも通底していることだ。スイッチやダイヤルはほとんど見当たらず、操作はタッチスクリーンに集約されている。余分なものがないのに贅沢に感じるという空間は、茶室を連想させる。結果、シンプルで本質的な美しさという価値観が、ドアを開けてから乗り込むまで連続する。外観と内装がまるで別物のように感じるクルマもあるなかで、ヴェラールは見事に統一されている。
このクルマを実際に運転するとどうなのか、という興味を持たれた方には、こう説明したい。走った時のフィーリングはデザインと同じですよ、と。つまり引っかかりやぎくしゃくすることがまるでなく、糸を引くように滑らかに走るのだ。
エンジンとモーターを組み合わせたハイブリッドシステムが提供するパワーは力強く、しかも途切れることもショックもない。静かで振動もない室内は、まさに静穏な聖域だ。金属のバネではなくエアサスペンションを採用した足まわりは、路面からのショックをふんわりとやわらげてくれる。欧米の自動車ジャーナリストは極上の乗り心地を「マジック・カーペット・ライド(魔法の絨毯のような乗り心地)」と表現する。これに対抗するわけではないけれど、ヴェラールの乗り心地は天女の羽衣のように、軽くてやわらかい。
このクルマの走行性能を表現するのに、速いとかよく曲がるといった言葉を使うのは、何かが足りない。このクルマは、美しく走るのだ。名は体を表すというけれど、このクルマの場合は姿形が性能も表現している。